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1://準備完了



『――おい、用事とやらはもう済んだのか? もうすぐ時間だぞ』


 デスクに置かれた携帯端末が振動し、メッセージの着信を告げる。

 埠頭灯里(フトウ・アカリ)が視線を向けると、それを感知した黒い端末が立体ウインドウを展開し、メッセージの内容を表示する。

 それは彼女のゲーム仲間、ユージンが灯里を急かすものであった。


「わかってるって、もう……こっちは学校で忙しいってのに、気楽なことで」


 そう呟きつつ、灯里は薄型のヘッドセットを被り、ベッドに横になる。

 ――先ほど帰宅したばかりのため格好は制服のままなので、スカートにシワがつきそうだ。

 そんなことをぼんやりと思いつつ、灯里はヘッドセットを起動した。




 いくつかの起動シークエンスが数秒間で駆け抜けていき、すぐに灯里の意識が戻ってくる。

 目を開けると、灯里は椅子に座っていた。

 その周囲には様々な計器類やパネルが並んでいる。正面の大きなモニターには小さく青い文字が浮かんでおり、システムチェックが完了しいつでもシステムが起動できる旨を知らせている。

 ここは灯里専用の空間。愛機のコックピットである。


「意識は正常、感覚同調も問題なし、っと。……起きて、シロ――」


 そうつぶやくと、灯里の背後からゴウンと重低音が響く。

 その響きに感応するように、コックピット内の照明が点灯。各種計器類のアナログ針が一度大きく脈打ち、各パネルに情報群が走り始める。


『――メインシステム、起動。各部チェック、問題なし。システム、オールグリーン。ご武運を』


 無機質な音声メッセージが流れて、メインモニターに光が灯る。

 そこに映し出された光景は、一面の黒に無数の光が煌めく景色――慣れ親しんだ宇宙空間であった。

 灯里の周囲には他にも往来する物体が多数存在し、自動反応したパッシブセンサーが時折モニターの各所をチェックし強調表示している。


「そういや昨日はコロニーの前で寝落ちしたんだっけ……。まあ補給は済んでるし……大丈夫かな」

 そうつぶやく灯里の背後には、巨大な人工衛星が浮かんでいた。それはこのゲーム内において無数に点在する人類の拠点、スペースコロニーである。

 プレイヤーにとっては安全の確保や物資の補給、交易などが行える非常に重要な場所だ。

 その重要性ゆえ、戦争になった場合には狙われやすい場所でもある。

 実のところ灯里がコロニー近郊でログアウトしていたのも、その直前までこのコロニーの警備任務を受けていたためであった。

 つまり、ここは戦争の可能性のある宙域――危険地帯である。


「お、ようやくお出ましかい、トーチ。重役出勤だな」


 所持品などのチェックをしていた灯里に近距離通信をしてきたのは、先ほどメッセージを飛ばしてきたユージンである。トーチとは、灯里のゲーム内のコードネームである。

 彼の機体はいつのまにか灯里の右側にやってきていた。その姿は、光沢のある赤色の派手な装甲が特徴的な、ずんぐりとしたシルエットの人型ロボット――ヒューマノイドアーマーであった。脚に多数のミサイルポッド、腰に大ぶりな二丁の突撃銃、肩に連結分離式の長射程キャノンが備わっている、かなりの重射撃特化機体だ。


「間に合っていれば、問題ない」


 灯里はゲーム内では機械化された身体の男性アバターを使用しており、その口から発せられる声音も若干機械音混じりの男声である。

 ゲーム内に何人かのフレンドがいる灯里だが、誰にもプレイヤーが女性だとバレたことはない。(そもそもこの超硬派なVR宇宙SFロボットゲームをプレイする人間はそのほとんどが男性である)


「ま、傭兵なんてそんなもんだよな。とりあえずワープの前に作戦概要書読みなおしとけよ、アップデートされてっから。そんじゃ俺は、お先」


 そう言うと、ユージンは長距離転移ユニットを起動し、一瞬で視界から消え去った。

 とはいえ灯里はすでにそれを聞きつつ作戦概要書を開いていた。言われなくとも、というやつである。

 変更はあまりないようだが、事前調査の結果、敵勢力――今回の作戦では無法者の拠点防衛戦力を指す――の脅威度が多少上方修正されたようだ。

 敵は複数の資源衛星に住み着いており、その周囲にいくつかの小型艦艇まで保有しているようだ。

 灯里の感想としては、『チンピラにしては装備が充実しているな』という程度である。後ろになんらかの国家が暗躍している可能性などもあるが、傭兵たる灯里にはあまり関係のない話なのである。明日には敵の勢力に寝返っている可能性すら存在するのだから。


「まあ、関与の証拠でも見つかれば高く売れるだろうけど。座標入力完了、ワープドライブ、起動――」


 とはいえ、報酬が美味しいに越したことはない。出遅れないよう、灯里はワープドライブを起動したのであった。



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