常冬の永久凍土の王国で、氷のような姫君は、儚い夏祭りの夢を見る
小説家になろうラジオ大賞4 参加作品。
テーマは「夏祭り」
万年雪で覆われた国。城から眺める景色はいつも白一色。自由に外に出ることもできない姫様は、毎日退屈で飽き飽きしていた。
氷のように美しく、冷めた感じの姫様は、異世界からやって来たと言われる1人の少年、タロウを召し使いとして側に置いていた。
毎日、彼が語る異国の話を聞くことで、その退屈さをまぎらわしていた。
そんなある日、一人呟くタロウ。
「そろそろ夏祭りかぁ……」
「なつまつり?」
「僕の故郷には暑い夏がありまして、その時期に行われるイベントのことです」
「それが?」
「楽しいんです! お祭りが」
「ふ~ん」
夏祭りを知らない姫様にも、その楽しさを知ってもらおうと、タロウはお祭りの準備を始める。
そして、夏祭りの日。
日も沈み、全てを凍らす闇夜。
「姫様、これに着替えてください」
「なによこれ! 布一枚巻いただけじゃないの!」
「これは浴衣と言い……」
「着ない!」
「あぁ……では、外をご覧下さい」
姫様が窓を覗くと、教会へと続く参道沿いに雪灯籠がオレンジ色の明かりを灯し、側道には屋台が並び、多くの人々で賑わっていた。
「タロウ! あれは何!?」
「提灯の代わりの……」
「行くわよ、タロウ!」
「ま、待って下さい、姫様!」
見るだけでは飽きたらず、お忍びで街に繰り出す姫様。そんな彼女は見るもの全て新鮮で、タロウを質問責めにする。
「これは!」
「これはかき氷といい……」
「あれは!」
「金魚す……」
「あれは! これは! この食べ物は! あっちのは!」
「え~っとですね……」
こうして人混みに紛れながら、2人は丘の上の教会までやって来る。
「楽しんでいただけましたか?」
「まぁまぁね」
姫様は興奮気味の内心とは裏腹に、冷めた表情を崩さない。
「そうですか。やっぱり暑くないと……」
「暑くないとダメなものなの?」
「身も心も開放的になり、恋とか……あっ、姫様! そろそろ始まります。あちらをご覧下さい」
そう言うタロウの顔が、7色の光に照らされた。
えっ!?
大きな破裂音。
振り向けば、
冬の夜空に花開く大きな花火が、凍てつく世界を鮮やかに彩る。
あまりの美しさに姫様は言葉を失う。
響き渡る花火の音と歓声。
白銀の世界を、ライトアップする花火。
「どうでしょうか姫様? お楽しみ頂けましたか?」
「……ええ」
熱いものが込み上げてくる胸を両手で抑えながら、姫様は思うのだった。
確かに心が温かくなれば、身も心も、恋だって……
いつもその優しさで、私の心を溶かしてくれるタロウ。
ありがとう。