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美(うつくし)  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ)
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美(うつくし)

違うと言いたかったが、勇敢に驚くほどまるっきりありえないくらい似ていない姉として、町内で名を馳せている身としては、逃げも隠れも出来ない。美は渋々

「そうですけど」と答えた。

「夕刊君をいじめる子がいるんです」

「今井剛って言うんです」・・・とか言われても・・・

クラス女子達はお互いの顔を見合わせた。

だってしょうがないでしょう?クラスでいじめられる弟を私にどうやって救えというの?

その今井号と言う男子を私はどうすればいいのか見当もつかない。

「あっ 来た! あの子です」そう言うと二人の女子は駆け出して行き、今井剛の両腕を取った。

「ちょっと来てよ」

「なんだよ」

冗談でしょ?まさか連れて来る気?

目の前に立った今井剛はまだ美よりも低かった。

こんなチビなら殴れるかもしれない。美は拳を握った。

「勇敢君のお姉さんだからね」


「知ってるよ。ブスだろ?」


その瞬間、美の心の中に押さえ込んでいた何かが大きく動いて慎重に築き上げてきた堤防が決壊したのだ。

世界はあまりにも不公平で、自分には何も与えてはくれなかったという、大きな悲しみの激流が一気に美の体を駆け巡り涙となって美の瞳から溢れ出た。立ち並ぶ女子達は驚いたが、それよりもっとびっくりした今井剛が一歩足を後ろに引いた。と同時に美は今井剛の頬にビンタを食らわせたのだ。

その衝撃に今井剛は草の上に尻餅をついた。美はそのまま激しく泣きながら家に帰った。

翌日には町中に、勇敢の姉ちゃんはおっかないぞという評判が広がっていた。

「あの剛ちゃんが張り倒されたんだって?」

「スッゲー!さっすがズー」

商店街では美はズーと呼ばれていた。美はワニに似ているだとか、いやあハイエナじゃねえの?とか言われているうちに、その全てがひっくるめて置いてあるズーでいいや、めんどくせえと言うことらしい。

野獣は学校や図書館あたりで言われている。美のあだ名は学校などがある北口と、商店街のある南口で分かれて二つあるのだ。

「勇敢の姉ちゃんが、おっかない顔をして剛ちゃんに飛び掛かって行ったんだって。剛ちゃんぶっ飛ばされてノックアウトだったんだって」美の弟の仇討ちはいつの間にか迫力を帯びて、怖いものに変わっていった。

だが、今井剛は少しも否定せず、おっかない姉鬼説あねおにせつに同意しているものだから、今までのようにちょいちょい勇敢にちょっかいを出すものはいなくなった。結果としてはよかったのだが、一度勇敢がポケットから紙切れを落としたので何気なく拾ってみたら「遊びに行ってもいいけど、あねおにやばくね?」と書いてありその横に勇敢の文字で小さく「大丈夫。あねおには何もしないから」と、まるで躾が行き届いていると言われる大型犬のような言い方のメモのやり取りが書かれていた。それで、勇敢の友人達の間では美のあだ名はあねおにと言う訳だ。

美をこんな騒動に巻き込んだのは、明らかに今井剛なのだ。

そんな今井剛が、草むらに張っ倒されてから2年、再び美の前に立ってブスとか言っている。

「何をやってても、あんたとは関係ないでしょう!」

「関係ないってことにはならないんじゃねえの?」

「はあっ?」

「家の中でやってるなら関係ないけどさあ、公衆の面前でやっていることに興味を持たれたら、説明責任が発生するんじゃねえの?見せられたこっちは何だろう、どうしたんだろうと思うから、その謎を解明してほしいと相手に頼む権利はあるんじゃねえの?」

こいつ〜口が達者になっている。

「歩いているのよ」

へえ、なんで行進で歩くの?」

「別に。ただ更新ぶちかましているだけよ」

「あははははは」今井剛は笑った。

美は両腕を振り回しながら行進を再開した。

なぜかこの時、美は振り向いて今井剛を見たいと思った。

だがその思いを打ち消した。

あんな奴を見たってしょうがないと。

振り向けば、今井剛が美を見送る姿を見ることが出来たのに。


「ゆうちゃん」

「・・・・・・・」

「ゆうちゃんてば」

「・・・あ、僕に話しかけた?」

「この部屋にはあんたと私二人だけしかいないんだけどね」

「ふ〜ん そうなんだ」

「見ればわかるでしょ!  あのね、今井剛って覚えてる?」

「覚えてるよ」

「あいつ、今どうしてるの?」

「中学1年になってるよ」

「中学1年になっていることはわかってるわよ。あんたと同じ学年なんだから。この間川の遊歩道でばったり会った。

確か今井君て電車通学で小学校に通っていたよね?この辺に住んでいないのに電車通学は変だよね。学区が違うでしょ?」

「剛ちゃんの家は僕のうちの近くだから、会ったって不思議じゃないよ。剛ちゃんが電車通学していた時はおじさんの家にいた間だよ。剛ちゃんのお母さんが亡くなって、こっちにいたおばあちゃんに引き取られたんだけど、おばあちゃんが腰の骨を折って入院していた間、おじさんの家にいたんだ」

「へえ・・剛くん、近くにいるんだ」

「それがどうかしたの?」

「えっ  どうもしないけど」

「おばあさんの家に戻って来られて、剛ちゃん本当に良かったよ」

「戻って来られないかもしれなかったの」

「おじさんが、養子縁組をしようとしていたんだって。剛ちゃんはおばあちゃんの病院に勝手にお見舞いに行ったって理由で殴られたんだって」

「ええええ〜剛くんの身にそんなことが!・・・だけどユウちゃんなんでそんなことを知ってるの?」

「え? だって僕たち親友だもの」

・・・・・・・・・・・・・・・・マジ?





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