柩2
つむぴょんを追いかけようとするご主人様を、ひつぴょんは抱きとめていた。
「まったく。こまった人形ですね。そう思いませんか?」
「でも……つむぴょん、普段はあんなに怒ったりしないのに」
「あなたは騙されているんです。見たでしょう、いきなり切りつけようとしてくるような、
あんな出来損ないの人形、あなたには必要ありません」
「ひつぴょん……。本当に、つむぴょんには何もしてないの?」
「はい。何度聞かれても、私の答えは同じですよ? 今日、初めて会ったんですから」
でも、つむぴょんは。
ご主人様を抱きしめる腕に、力が籠められる。
ひつぴょん、苦しいよ。
「あなたは。私ではなく、あの人形を選ぶのですか」
「僕、は」
「駄目ですよ、あなたは私といないと。私なら、あなたのお母さんにだってなれるんです。……いいえ、そうなるはずだったんですから」
「お母さんは……お母さんだし。ひつぴょんは、ひつぴょんだよ」
ひつぴょんが、ご主人様の頬を撫でる。
そうですよね、と呟いて。
「少しの間。眠っていてください」
ご主人様の額に、キスをした。
「おかしくなりそうなんです。アイツがあなたと生きていると」
つむぴょんは、不貞腐れて眠っていた。
なんですかアイツは。不快です。
人間に対する恐怖とも怒りとも違う、もっと別の嫌悪を覚えていた。
だいたい何がひつぴょんですか。そんなにぴょんが好きなら、ぴょんと結婚でもすればいいんです。
でも、なんだかお腹がすいてきました。
アイツがまだご主人様と一緒にいるのかは知りませんが、りんごでも採りに行きましょうか。
そして、美味しいりんごを、いつものお店に持っていて食べるんです。
嫌な時はおいしい物を食べるのに限りますからね。
同じ人形でも、どうしてこんなにも。
ガチャ。
扉が開いた気がした。
……ご主人様?
そろそろちゃんと謝ってもらうのも良いかもしれません。
りんごを採りに行くついでに……。
そこまで考えて、身体が動かなくなっていることに気が付いた。
どうして。身体が。
何かの足音が近づいてくる。
ーーさようなら、
身体に蛇が巻き付いてくるような気がしたつむぴょんは、泣きながら飛び起きた。
「ああああっ!!! 蛇ッ、なんなんですか!!」
「……はぁ?」
蛇はどこにもいなかったが、目の前にはひつぴょんが立っていた。
「この人形……なぜ動いているんですか」
「動けるに決まってるじゃないですか、何しに来たんですか! 帰ってください!」
「まぁ別に。どうでも良いですね……大人しく、殺されなさい」
「嫌で……っ!?」
視界から全てが消える。また身体が動かなくなる。
気が付くと首が絞めつけられていた。
ひつぴょんが、つむぴょんの首を絞めていた。
「ただの人形のクセに。私でなければいけなかったのに。それなのに寵愛を受けて」
呼吸が出来ない。攻撃の仕方も、毒の放ち方も分からなくなった。
これは。だめかもしれません。
突如、部屋の窓ガラスが砕け散った。
それでもひつぴょんは、首を絞める手に力を籠める。
つむぴょんは、何故かその感覚を知っているような気がした。
「マスター」
ひつぴょんに対し言葉を発し、その腕を掴んだのは、
窓ガラスを割って部屋に飛び込んできた人形だった。
「わたしは、モナを殺させない」
「邪魔。消えなさい」
「駄目」
人形の身体が僅かに光を放つ。
その瞬間、首から手が離れ、つむぴょんは倒れ込んだ。
ガラスの破片が服に、身体に刺さる。
何なんですか本当に。
「つむぴょんっ!?」
ご主人様……。
「うわっなにこれ!?」
「こっちが聞きたいです」
「あれ、くらぴょんがいる……?」
また。
……また、ご主人様と知り合いの人形で。また、ぴょんですか。