廻 3
鏡に映る自分の姿は、本当に、人形の様だった。
ピンクで真っすぐの肩まで伸びている髪に、ぱっちりとした暗い赤紫の眼。
頭には、帽子。これもまたピンク色で、おでこのあたりから耳?が垂れ下がっている。
背丈はそう高くない……むしろ低い方になるのだろう。
マントに、薄い緑の服。やたら大きな袖。
変な気がするけど、なぜか、これで合っているような気がする。
「この服は、というか、この帽子はなんですか?」
「ラフィナ――さっき、君に会って欲しいと言った子が、描いたものだ。
……君自身も、ラフィナの描いた絵の少女が元になっている」
男が壁に掛けられた小さな絵を手に取った。
色鉛筆で描かれたのだろう、子供の落書きにしか見えないその中に、わたしがいた。
そして、どことなくうさぎの様な顔の、かたつむりみたいな生き物も。
この生き物は、この服のお腹のあたりにも刺繍されている。
人に対して抱いてしまう不快感は、この絵からは感じない。
会ってみたい、と思った。
その、ラフィナという、人に。
「ラフィナ……ですか。とても、綺麗な名前だと思います」
「綺麗、か」
男は、ずっと、わたしを見ていた。
もしかしたら、妙な事を言ってしまったのかもしれない。
ただ、それでも、<ラフィナ>という名前、その音の響きが、何よりも綺麗だと。
何度も心の中で反芻して、声に出して言いたくなる程に、好きだと、思った。
「私も。そう思うよ――……」
最後、何かを言っていた気がしたが、
きっと私には関係の無い言葉だったので、
また、絵の中のわたしを見つめる。
誰と、何を思って、この絵を描いていたんだろう。
絵の中のわたしは、何を見ているんだろう。
ラフィナの思うわたしに。
わたしも、なれるのだろうか。
「はやく……会いたい、です。ラフィナ……という、人に」
知りたい、と思った。
人に対する怖さは、きっと、ずっとあり続けるだろうけど。
それでも、この男と。そして、この子に対してなら。
……造られたばかりの自分が、そう感じるのも変だと思うけど。
「行こうか。ラフィナのいるところへ。君の……大切な、場所に」
わたしの造られた部屋は、ベッドやいくつかの棚が並んでいるだけの、何もない部屋だった。
頷いて、男の後に続いて部屋を出る。
少しだけ進んだところで男は足を止め、振り返って部屋を見ていた。
――すぐに戻るから
何もない、誰もいない部屋に向かって。
そう、言っていたように思う。
不思議な人だ、と思った。