廻 2
この男は、人間だ。
人間だ、と思うと、ココロがざわつく。
それは、恐怖と、怒りだった。
ただ、その感情は、間違っている気がした。
誰なのかも、自分にとっての何なのかもわからない男に。
仰向けになっていた身体を起こしながら、言葉を吐き出した。
「あなたは。人間、なのですね」
うまく起き上がる事が出来ず、またベッドに倒れ込んだ。
視界から男が消える。なんだかこれで良い気がした。
本当に見なければならない、見ていなければならない、誰かがいる。
身体と精神がまだちぐはぐで、上手く動くことも出来ない、
歪な自分の中で、それだけは、きっと、確かな事で。
そして、もう一つ。
「わたしは……人形」
だとしたら。言葉が、徐々に整理出来るようになる。
「あなたが、わたしの……マスター、なのですか」
倒れたまま、灰色の天井を眺める。
人間。人形師。人形。主従。隷属。
そうだ、だからわたしは人間の事が嫌なんだ。
「いや」
視界の向こうのどこかで、男が言葉を発している。
「私は君を……」
言葉が、途切れた。
なんとなく、『造った』のだと言いたい事が分かった。
人形として従う誰かは、この男ではないらしい。
「……君には、君を愛してくれる人と、会って欲しい」
愛。あい。愛。言葉を反芻する。
馬鹿らしい。人形には、決して縁のない言葉のはずだ。
それでも、それはごく身近にあったような気がする。
ずっと、触れていたものが、愛だったような。
まさか。ありえない。ついさっき動いたばかりの、人形なのに。
まるで記憶があるみたいじゃないか。
情報と記憶は、きっと、別物だ。
「それは、命令ですか」
「めいれい……? いいや、違うよ。私達の……望みだ」
今度こそ、起き上がる。少しだけ勢いをつけて。
身体はうまく起こせたけど、やっぱりまだ、ふらついてしまう。
倒れないように、ずっと寝ていたのだろうベッドから降りる。
ゆっくりと動けば、体勢を崩す事も無いはず……と、思う。
「わかりました。あなたに、従います」
再び男をじっと見つめる。
ずっとココロの中で蠢く、人に対する恐怖と憎しみ。
それをこの男に向けるのは、この男に対して感じるのは、やっぱり違うと思った。




