廻 1
情報が、渦巻いている。
初めて認識するそれが、<情報>だという事は理解できた。
世界、死、神、人、人形。
生命、知恵、身体、精神。
いまこの場所から、動き始め、
これから、生きていく為の情報。
情報の渦が消える。内側が<空>になった。
それなら、これで。
動けるはずだ。
目を開ける。光が差し込んでくる。
ぼやけた世界が、ゆっくりと、形作られる。
初めて目にしたのは、人だった。大人の男だという事は、分かる。
そのはずなのに、そうではない気がした。
もっと、違う。何か、ただの人ではなく、別の何かだったような。
しなければならない事があった気がする。
目の前の、男に、言わなければならない事があった気がする。
口内に冷たい空気が流れ込み、息をしている事に気が付いた。
それとも、言葉にしないといけない何かがあったのかもしれない。
男との間で、ゆっくりと時間が流れている。
何をしないといけないのかは、いつまでたっても分からなかった。
やがて男は、こちらを見つめたまま、口を動かした。
声を出している。男の声が聞こえてくる。
初めて感じる声は、ごちゃごちゃとした、理解の出来ない音だった。
知っているはずなのに、分からなかった。
口の形が変わり、動かなくなる。また変わる。動かなくなる。
繰り返される男の動きが、どこか面白く感じた。
――よかった。
それが初めて認識した男の言葉だった。
「あな、た、は。……だれ、ですか」
男と同じように、声を出す。
自分の口を見ることはできないけど、男と同じように、面白い動きをしているのだろうか。
男は、微笑んだ。
嬉しいからなのか悲しいからなのか。
声は聞き取れても、表情が分かっても、
そこに付随する感情までは、分からなかった。
「私は」
男がゆっくりと、話しかけてくる。
「君を、待っていた」