かくれんぼさん
「かくれんぼさん?」
学校からの帰り道、あなたはわたしの言葉を繰り返した。
「そう。かくれんぼさん。最近噂になってるんだけどさ。」
ゆっくり歩きながら、わたしは続ける。
「かくれんぼって、鬼が目を瞑っている間に子供が隠れて、それを探し出す遊びでしょ?」
「うん。」
「それで、『もういいかい?まあだだよ。もういいかい?もういいよ。』って確認してかくれんぼが始まるじゃない?」
「うん。」
「これだけなら、ただの楽しいかくれんぼなんだけどさ。」
セミの声が大きいから、わたしも声を大きくする。
「目を瞑っていると聞こえてくるんだって。『もういいかい?』って言う女の子の声が。」
「へえ。」
「どこにいても、どんな時間でも、目を瞑ると聞こえてくるんだって。悲しそうな女の子の声が。」
「それで?」
「それでね、『もういいかい?』って声に『もういいよ』って返事しちゃうと、魂を抜かれちゃうんだって。だから、『もういいかい?』って聞かれたら『まあだだよ』って答えないといけないんだ。」
「そうなんだ。でもその話、正しくないよ。」
消え入りそうな声で、あなたは言った。
「目を瞑ってなくても聞こえるし、悲しそうでもないよ。」
「え?なに?」
セミの声がうるさくて、わたしは聞き返す。
ミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーン
あれ?セミの声ってこんなにうるさかったっけ?
セミの声以外、何も聞こえない。
その時、あなたの声が聞こえた気がした。
「私は貴方と遊びたかったんだ。」
わたしからは、あなたの顔は見えない。
でも、その口元は微笑んでいるように見えた。
「かくれんぼしましょう?貴方に私を見つけてほしいの。」
ここに、わたしの終わらない夏休みが始まったのである。