〜始まりの街に現れた双子〜06
■登場人物
◆ジュリエット・フランゲル
カランカ領をおさめる貴族の娘。
◆セバスチャン
フランゲル家に使える使用人。ジュリエットの身の回りの世話を任されている。
◆黒いマントの中年男性
狼のような形相の冒険者。品性のカケラもない。
■前回までのあらすじ
初級ダンジョンの崩壊に巻き込まれたギルバードとロミオ。現れたのはモンスター最上位種のドラゴンだった。灼熱の炎からロミオを守り切ったギルバード。その後ろで意識を取り戻したロミオはドラゴンの姿に恐怖し後退りをする。その最中、ふと思い出したのはロミオが冒険者となる前の記憶。
6.黒の王子
「お嬢様ッ!!!辛抱して下さい!!!」
「うううっさいわね!!!もう我慢の限界よ!!!」
「お待ち下さい!!!お嬢様!!!お嬢様ぁーーーー!!!」
城内を逃げ回る女性は使用人の老人を振り切り、同じく女性を追いかける3人のメイドから身を隠した。
城の裏庭に抜ける窓までスカートを捲り上げ、頭を下げたお嬢様と呼ばれた女性が向かう。
ゆっくりと窓を開け、左右を見て外に身を乗り出した瞬間ー
上から黒い影が覆い被さった。
「つ!!!つかまえましたぞーーー!!!」
常套手段を知り尽くし2階の窓枠に張り付いて準備をしていた使用人の老人が飛び掛かり女性を取り押さえた。
「イイイヤ!!!その手を放しなさいセバス!!!こんのおおお変態ッ!!!」
「なんと言われましてもお嬢様を任された身!!!わたくしの目の黒いうちはちゃんとした淑女としての嗜みを学んでもらいますぞ!!であえ!であえーーーー!!!」
ドドドッ と駆け付けたメイドに連行され、鏡の前でドレスを着付けられる女性がさとされる。
「いい加減子供のような振る舞いはいけません!大人になってくださいましジュリエットお嬢様!」
私はカランカ領を治める貴族の娘。
ジュリエット・フランゲル。
15歳の成人の儀から半年。
華やかだと思っていたお見合いや出会いの場である舞踏会は、腹の探り合いだと知った。
そこに純粋な気持ちなどはなく。
勘違いした男が一丁前に親が築いてきた権力を我が物顔でかざして上部だけのセリフを並べていた。
ゲスい考えは見え見えなのに…
表情から読み取る事はできない。
そう感じる…とかの話ではなく。
私には心の声が聞こえるのだ。
スキル『心音』
(範囲内の対象の心の声が聞こえる)
だからこそ…
その真逆の表情と言葉にゾッとする。
絵本で読んだ〝王子様〟との、
運命の出会いなんてものは、
出来すぎた作り話…
「やはりお嬢様。ドレス姿がお似合いでございます。見違えますぞ!ささっ!ではまいりましょう!」
「うっさいわね…」
心から喜ぶセバスは…
それはそれでむず痒かったりもするんだけど…
「足元お気をつけください!」
「はぁ…」
「なにをため息なんかついておられるんですか!全く!今日もしっかりしてくださいませ!フランゲル家の名を背負っておられるのですよ!くれぐれも相手方に手をあげてはなりません!!!約束ですぞ!!!」
「…わかったわよ…」
物心がついた頃から世話をしてくれている使用人のセバスチャンは本当にいつも私の事を心配してくれている。
それでもやっぱり、
私の事なんて考えてくれていない。
本当の意味で、私の幸せを願う人はいない。
私はただ、
フランゲル家に生まれた、いち貴族として、
大事にされているだけ…
夢に描いた王子様は…
白馬に乗って現れる訳でもなく…
こんな窮屈な世界から救ってくれる訳でもなかった。
文字通り〝夢物語〟なのだ…
そんなはずはないと反発し脱走を繰り返す度に、
捕まっては怒られて諭される。
まるで、間違った思考を修正される様に
少しずつ、少しずつ。
そう言う世界なのだと…
これが現実なのだと。
夢に描いた〝王子様〟は真っ黒に汚れていった。
ガダガダガダガダガシャンッ!!!!
「な!なに!!?キャアアアアアア!!!」
ーーー
ガキン! ガキンッ!!
「はああああああ!!!!」
痛ッ!!!な…何が…おきたの?…
砂埃が舞い、今まで座っていた馬車の荷台は倒れ、
外に放り出されていた。
セバスチャンが叫ぶ素振りを見せながら
〝何か〟から私を守ろうとしていた。
「ーーうさま!!!しっかりしてください!お嬢様ッ!!」
「チッ!邪魔だジジィ!!!死にてぇのか!!!」
(くそ…女性を守っているのか…)
「だ…誰の声…!?…」
「はぁ…わたくしめが…おります!だ大丈夫ですぞ!」
「ッ!!!」
セバスが構え慣れていない剣を鞘から取り出し向ける先に大きなモンスターが見えた。
〝ツノノワグマ〟
モンスターを認識したと同時に、近衛騎士団が血だらけで道に倒れているのが目に入ってきた。
ツノノワグマは単体でBランクの魔物。
歴戦の冒険者でさえ、単騎で討伐などできやしない。
護衛の近衛騎士が敵う相手じゃない…
ましてやセバスが敵うはず…
「に…逃げなさい!!セバス!!!」
「ふぅー…こ…この命に変えても…お嬢様には指一本触れさせませんぞ…」(神様…どうかわたくしめの大事なお嬢様をお守りください…)
震える体を鼓舞する様に呟き身構えるセバスチャン。
「い…いやだ!!!セバス!!!逃げて!!」
「はぁあああああ!!!」
ガキィイイイイン!!!!
セバスが飛び込む姿から目を逸らし、
伏せて耳を覆った。
〝お逃げくださいお嬢様!!!!〟
「嫌だ!!!聞きたく無いッ!!!」
それでも…
「心音」の心の声は頭に直接響く。
聞きたく無い最後の声すらも…
〝かっこいい爺さんだな…〟
聞こえた声はセバスの刹那の叫びではなく、
あたたかく優しい呟いたような声。
「へ!???」
大嫌いな「心音」のスキル。
人の汚い心の声が全て聞こえる。
気持ちが悪くて吐き気がする。
肩の力が緩むようなあたたかい言葉など、
今まで聞いたことがなかった。
恐る恐る目を開けると、
ツノノワグマとセバスの間に大きく真っ黒なマントをなびかせた人影が入り込んでいた。
片手に構えた大きな盾は岩をも砕くツノノワグマの爪を軽々といなし、もう片方の手はセバスの振り下ろした剣の柄を押さえ力を殺していた。
怒りや苛立ちを目に宿したような中年男性が、
セバスを睨みつけた。
ガチャ…
「俺の獲物に手ぇ出してんじゃねぇよジジィが!!」
(あっぶねぇ!止めた勢いで死んでねぇよな!?)
「そこのガキ諸々連れてさっさと消えろ!邪魔だ!」
(護衛兵はまだ息はあるが時間の問題か…)
(死ぬんじゃねぇぞ…)
「な…なにこの人…」
衝撃に気を失っていたセバスが吐き捨てられた暴言に気が付き、言い返す。
「ハッ!!!はぁ…はぁ…はぁな…なんちゅう口の聞き方を!!!このお方は!!!」
「セバスッ!!!」
ジュリエットの一括に冷静さを取り戻したセバスは周囲の状況を理解した。
ツノノワグマに蹴散らされ四方八方に吹き飛ばされた近衛騎士の途切れそうな息遣い。
言う通りにしなさいという
力強い表情のジュリエット。
「オオオオオオオオオオオオオ!!!」
(逃げろッ!!!)
ツノノワグマを前に叫ぶ黒いマントの男。
(瀕死の護衛に近づくな…オマエの相手は俺だ!!!)
「お、お嬢様!!!立てますか!!!?回復薬をお飲みください!!!」
「な…なんなの…あの人…」
「格好から見るに冒険者でしょうか!?しかも高ランク…ツノノワグマの爪を受けきるなど信じられませんが…な、なんであれ!好都合です!お嬢様は荷台の裏に隠れていてください!まだ息のある近衛騎士を安全な場所に移動いたします!」
野生の狼のような表情。
品性のカケラもない言葉遣い。
なのに…
「心音」で聞こえる声は誰よりも
あたたかくて優しい…
「グモォオオオオオオオ!!!!」
「おおおおおおおおお!!!!」
(野蛮で横暴な冒険者め)
セバスはそう、心で言い返していた。
だけど私には…
ジュリエットの目に映ったその後の光景は、
ツノノワグマの恐怖ではなく、
黒いマントをなびかせた、
狼のような冒険者の優しい背中。
真っ黒な王子様の姿だった。
ー
これは私の真っ黒な王子様。
ギルバードと出会った時の話。
性別を偽ってロミオと名乗る前の記憶。
すいません!またまた久々のアップです!
ドタバタで手がつけられずにいました!!!
Twitterしています!@kuze45526408
是非楽しんでください!