過去のダイエット黒歴史
夜になっても、さっき尊敬する前坂次長に言われた最後の一言が、心の中で糸を引いていた。次長の事は心から尊敬してるし、ホントにかわいがってもらってるっていう自覚もある。そして、私がデブというのも動かぬ事実。
・・・でも・・・。
最後の「足削れ」ってのは、どう考えても「暴言」じゃないか。ひど過ぎるんじゃないか。
いや、目をかけてくれているからこそ、私のこのザマに腹が立ったとも言えるのか・・?
あれは実は、次長なりの心を鬼にしての叱咤激励なのか。
あ!それとも試された?もしかして、あそこで怒るか怒らないかで私の痩せる事に賭ける執念を測ろうとしてた?
ショックも怒りもおくびにも出さず穏便に済ませた事で、
「コイツ、この巨体の事、全く意に介してないな」と見損なわれた?
え?実は切り捨てフラグだった??
あの場面で、人目気にせず憤慨して見せれば良かったの?それともプライドをかなぐり捨てて泣きつけば良かったの?
ヨガに来てるのか、雑念に弄ばれに来てるのか、わからないくらい私の思考は相変わらずぐるぐるしていた。自分の妄想が底の見えない深い谷に向かってどんどん引きずり込まれていく気がした。
でもホント、ひとこと言わせて貰えるなら、誰より私が一番不本意なんですけど!
誰が喜んでこんなにブクブク太ります?私だって出来るなら、こんなはち切れんばかりのデブになりたくなかったよ?
何?いつ?どこで私は道を間違えた・・・・・?
ぐるぐるぐるぐる
そしてルーティンのように、また自分の過去を遡り始める。
20代の頃、ダイエットに失敗して、すごい怖い思いをした事があった。当時、巷に流行していた朝バナナダイエットとか、ダイエットシェイクの置き換えダイエットとか、効果がありそうなダイエットを片っ端からやった。その中で、脂肪を燃やすサプリと脂肪を減らすサプリメントを飲みながら、炭水化物を完全にカットする、それもめちゃめちゃ徹底して、葉野菜は糖分の多い茎部分も食べず葉部分だけという極端なダイエットをした事があった。特に炭水化物完全カットダイエットは当初二か月の予定だったのに、結果が出なくて、半年に延長した。半年続けて8キロ痩せた頃には、毎日使っている自分のパソコンのパスワードさえド忘れするようになっていて、ヤバいものを感じて止めた。私は脳が壊れたんだからもう駄目なんだ、と絶望感に苛まれて、自分の浅はかさが悔しくて情けなくて毎晩布団にもぐりこんで泣いた。
ところがご飯を解禁すると、アンビリバボーレベルのド忘れがピタリと治まった。
助かった!と思ったのも束の間、半年もキツい炭水化物制限をして落とした8キロは、何と!お米解禁後たったの十日ほどで+2キロ上乗せして、あっという間に戻ったのだった。
6か月も時間をかけて金もかけて食欲を抑え、好きなものを我慢し、調理するにも気を遣い、それはそれは苦労して圧縮した体のタガが、わずか10日もしないうちに一瞬で弾け飛んだ。それは「脳が壊れた、私はもうダメだ!」と谷底に真っ逆さまに転落した落差も相まって、私の心に超絶ダメージを与えた。
それ以来、所謂「極端なダイエット」には手を出さなくなった。炭水化物は夜だけ主食を食べないという食事制限にして、ほそぼそと地道に続けていくのが一番と、ウォーキングと筋トレをするようになった。
30代は今思えば太りもしなかった代わりに痩せなかった。でも太りもしなかったので、自分の体が痩せなくなっている事に私は気づいてなかった。そして、金銭的に少し余裕が出てきたので自助努力にプラスαとしてエステなるものに通い始めた。自分でやっていた運動や夜に炭水化物を食べないのはそのままで、ただ、エステで痩せる速度が加速できれば、と思っただけだった。頑張りが報われないままだと心が折れそうだから、少しでも体重が落ち始める兆しだけでもエステの力で見えたら、と期待した。
果たして、エステは私の淡い期待には全く応えてくれなかった。エステティシャンに勧められるまま、リンパマッサージ、腸もみ、温熱、冷却、EMS、バンテージ、ラジオ波、キャビテーション、ハイパーナイフ、etc・・・
身体にメスを入れなくて済む痩身エステは、ほぼ試してみた。エステティシャンの忠実な下僕のように、言われる期間、お金を湯水のように惜しみなく使った。これだけ言われる通りやっていれば、相手はプロなんだから、そりゃ当然痩せるっしょ、と思っていた。痩せさせてもらう為に、私は時間を作り、金を支払っているんですよね?と。
なのに、私は1キロも痩せる事ができなかった。エステ、所謂「プロ」の手にかかっても、
ただの1キロさえも、だ。
今でこそエステは数万円で1か月お試しとか、だいぶ価格破壊を起こしているけど、私の30代の頃はエステと言えば数十万円のコースを組まされるのが普通だった。それ以外のお試しコース的なチョイスはなかったのだ。驚いたことに1キロも痩せさせる事が出来なくても、エステ側は責任を取ってくれるわけではなく、お金を返してくれるわけでもない。ただ、あたかも私がダメなデブライフを過ごしているに違いない的な空気を漂わせながら、残念そうに眉を寄せつつ「個人差はありますが、これほど効果がない事は滅多にない事です。」と言うのだ。さも自分たちはベストを尽くしたのに、私がちゃんと頑張らなかった的な、自分達こそが被害者的な空気を漂わせながら、私が殊細かくつけた食事ノートとか、運動内容とか、そういうものは私が嘘の報告をしていると思っているのか、一緒に問題点を見直してくれるわけでもなく、何故エステが効果がなかったか、という検証や分析を一切する素振りさえ見せず、「個人差」という万能ワードで、私の貯金100万円は水の泡のように消えてしまった。
全っ然寄り添ってもらっていない。本当に私の体質や生活を見ようとはしていない。お金さえ支払わせれば、結果なんて出ても出なくてもいい。今と違って「結果にコミット」なんて概念自体なかったのだ。
「個人差」。
全てが片付く魔法の言葉。こんな便利な言葉はない。
痩せさせるプロじゃない。あの手この手でお金を支払わせる「話術のプロ」なだけだった。