第六百八話 エバーライドの王
「……本当にありがとうございましたわ。ベリアースはこれからエバーライドからの撤退、それと支援をすることに決めました」
「事情を知っている俺達がサポートをするさ」
「ま、あんた達には世話になったし遊びに来たら歓迎するぜ」
エリュシュに続いて騎士団長のヒッツライトと、偵察などをやってくれていたアルバトロスが謁見の間で笑う。一応、あの時一緒に帰って来ていたのだが他の騎士達への対応、砦への救援対応などを行っていたため姿を見せていなかったがようやく落ち着いた。
ゴタゴタが片付いたのは福音の降臨がどうするのか決定してから三日後のことで、手配は全て終わり、エリュシュは各国へ書状を出すことに。少しやつれていて吹っ切れるにはまだ時間が必要だろう。
それと福音の降臨はエレキムを筆頭に旅立った。
しかし彼と一緒に出ていった者は総勢の三割くらいでレフレクシオン王国を始め、各国に散っている信者へ話をしにいくとのこと。
残りはベリアース国民になるなら家や仕事を。他の国へ行く者へは僅かだが支度金を国庫から出したそうだ。
「彼らのおかげで儲けていた部分もありますし、それを返しているだけですわ」
とはエリュシュの弁。
それでも家族が死ぬ元凶となった福音の降臨に施しを行うことができたことは尊敬に値する。復讐相手が居ないせいもあるかもしれないが、俺ならそこまでしてやれないと思う。
<では、エバーライドへ行くか?>
「そうだな。頼むよサージュ」
「マキナちゃん達、どうなってるかな? 強い人がいっぱいいるけど大丈夫かな?」
「バスレー先生だしねえ」
信用の無い元・俺達の教師バスレー先生はいざという時になんとかするだろうから言うだけでそんなこともないんだけどね。
「それじゃ、そろそろ俺達は行くよ。利用した形になってすまない」
「いえ……ラース様が倒してくれなかったらこの国は恐らく各国への泥沼となる戦争へ向かっていたでしょうから、これで良かったんですよ」
「エリュシュ様、これから大変だと思うけど負けないでね! なにかあったらわたし達も駆けつけるし」
「疲れたらウチの劇場に来てもいいわよう? 歓迎するわ♪」
「クーデリカさん……ヘレナさん……」
<わたくしならさっと来れますし>
女性陣は気を利かせてそんなことを言い、エリュシュは目に涙を浮かべて『ありがとう』と頭を下げ、俺達は城を後にする。クーデリカは『頑張って』と言わず『負けないで』と言った。
すでに頑張っている彼女に頑張れというのは酷だ。それを分かっているあたり能天気そうなのに見ているところは見ているクーデリカはやはりAクラスの一員だと思う。
程なくしてサージュやシャルルに乗って庭から飛び立つ。彼女達の見送りは無かったが、エリュシュなりのケジメだったのかもしれないな。
「しかし、初めて会った時からタダ者じゃないと思っていたけどついに神様を倒しちまったなあ。お前はこれからどうするんだ?」
「タダ者じゃないって……ジャックはそんなことを思ってたんだ? 色々あったけど王都に行って仕事をするってのは変わらないかな?」
「お前なあ……世界を救った英雄なんだからもうちょっとあるんじゃないか?」
「でもマキナが居て、みんなも仲良くしてくれるし満足なんだけど……。それより今は目を覚まさないセフィロとエバーライドが心配だ」
「ラースは欲が無いなあ」
ジャックが呆れて世界を救ったのにと言い、兄さんが苦笑するが俺としてはこれで本当に憂いがなにも無くなったことに喜んでいるくらいだ。
後はセフィロが目を覚ましてくれればと思うのだが……。
<国を作ってもいいんじゃないかい? 私達の島を使うとか>
「ドラゴンの島に国はまずいだろ……。だいたい人間が嫌で島に移住したんだろうに」
<その通りだな。ロザはこいつらだけを見て人間を好きになりすぎだ>
ジレにぴしゃりと言われロザは頭を振る。そこでアイナがグランドドラゴンのボーデンに近づいて口を開く。
「じいじの家で王様になる?」
<ほっほ、ワシはそれでもいいがラースなら人間の世界のがいいと思うわい。アイナと遊びたいからワシはデダイトの家に行くぞ>
「また勝手なことを……」
「あはは、ドラゴンさんがいっぱい集まるねラース君の家」
ルシエールが心底面白いといった感じで笑うと、渋い顔でサージュが背中のボーデンとアイナへ言う。
<我がアイナと居るからボーデンは要らんが……>
<そういうなサージュや>
「じいじが一緒でも楽しいよ?」
それを聞いたサージュが『アイナを取られた』とポツリと呟き、俺達は爆笑する。
これくらいがちょうどいい。
そう思いながら進路をエバーライドに取るのだった。
……ベリアース、次に来る時はどういう風になっているか少し楽しみだなと思いながら小さくなる王都を一度だけ振り返った――
◆ ◇ ◆
「ごめんなさいね! ここは解放させてもらうことになったから!」
「馬鹿な……!? 砦が落ちただと……」
「陛下が亡くなった!? そんな嘘――」
「今頃エリュシュ王女が戻っているからお前達も撤退しろ。福音の降臨の教主は死んだ。報復で国王夫妻と王子も巻き込まれたが王女だけは助かった」
「むう……それを信じろと……」
エバーライドの王都へ到着した私達は警告の意味も込めてドラゴン状態のままヴィンシュで降下し、集まって来たベリアースの兵士へティグレ先生が説明をする。
だけど王様が亡くなったとか砦が壊れたという話をしてもそれを証明するものが無いので説得するのが難しい状態なのよね。
すぐに襲い掛かってこなかったのはティグレ先生を始めとして達人クラスがたくさんいるのもあるかも?
それはともかくこんな問答が続いていたところにバスレー先生が割り込んできた。
「やあやあ、ベリアースの勇敢な兵士達よ。恐らく書状などが回ってくると思うので待機していてもいいですよ。とりあえず城に戻らないといけないのでそこを通してもらえませんかね?」
「それはできん。というかお前は何者だ……?」
「よくぞ聞いてくれました! このエバーライドの大臣だった者の娘バスレーと言います。あなた達が攻めてきた時に命を落としましたが、わたしは帰って来た!! まあそんなわけでこのエバーライドの貴族ですね。一応、説明させてもらうと王位継承権を持っています」
「それは言い過ぎじゃないですか……?」
私がそういうとバスレー先生はウインクをしながらニヤリと笑い、懐からメダリオンを取り出して口を開く。
「元陛下の弟がわたしの父親でしてねえ。いわゆる陛下は伯父にあたるんですよ。だから、国を獲り返しに来たと思ってもらえれば」
「「「はあ!?」」」
「な、なんですか皆さん!? なにかおかしいところがありましたかね?」
色々と言いたいことはあるけど、どうやら本当のことらしい。
先生はいったいどれだけのことを隠しているというのかとみんなで呆れていると――
「なにがどうだか分からんが、ここを通すわけにはいかん」
「チッ、結局こうなるか。仕方ねえ、まずは城を解放するぞ」
「オッケー、ティグレ先生」
「行くわよ!」
説得が無理と判断した私達は兵士達を制圧するため攻撃を仕掛けた――




