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第五百七十五話 『賢者の魂』


 「わー♪」

 「アイナ、なんでここに……ボーデンもか」

 <う、むう……ここは……ラース?>


 カバンが破裂して中身が散乱している中にアイナが現れて俺に抱き着いてきて笑う。

 屋敷で留守番とアイナの遊び相手として残して来たグランドドラゴンのボーデンの姿もあることに俺は困惑を隠せない。

 だが、落ちている転移魔法陣の紙を見て俺は目を見開くことになる。


 「あ、まさか、俺の部屋に入ったのか!?」

 「ラース兄ちゃんの部屋で遊んでたのー!」

 <わ、ワシは止めたんじゃぞ!>


 ボーデンが立ち上がりながら慌てて弁明するが、そこまで慌てることでもないので俺は頭を掻きながらやんわりという。


 「実家はアイナが優先されるだろうからボーデンが悪いとは思ってないよ。転移魔法陣の紙を置きっぱなしにしていた俺も悪い。とりあえずカバンの中身を拾ってくれ、その間にあいつを捕まえる」

 「く、くそ……! あれは!」

 「なんだ? あ!?」


 賢二の視線の先にあったのは『賢者の魂』だった。

 トレントから回収したものとサンディオラの秘宝であったものの二つが床に転がり、その一つが賢二の近くにあるのだ。


 「こいつを奪えば……!!」


 俺が慌てた声を出したことに気づいた賢二がすかさず近くにあった緑色の賢者の魂……すなわちトレントの魂が固まってできたものを手にしてほくそ笑む。


 「……大事なものみてえだな」

 「どうかな?」

 

 俺は返事をしながら前傾姿勢で一気に走る。しかし、賢二はなんの躊躇いも無く――


 「キレイな石だ、高価なものに違いないなあ? へっ……このまま捕まるのも馬鹿らしい、こいつをこうすりゃてめぇは困るんだろ馬鹿兄貴――」

 

 ――『賢者の魂』を飲み込んだ。

 

 サンディオラのゲイリー王はアレを体内に入れて不老になった。

 力を使ったファスさんは若返った。それを飲み込んだら……どうなるんだ?

 やっぱり不老になるのだろうか?


 「馬鹿が石を飲み込んだらダメだなんて、ウチの妹ですら分かるぞ!」

 「ぐえ!? くっく……腹を殴っても、もう遅ぇよ! 胃の中だ」

 「あの、おじさん馬鹿だよ!? アイナは石なんて食べないもん」

 <うむ、アホだなあの者>

 『アイナちゃんの方が賢いわね。ラース、この子は私が守るから賢二を拘束して』

 「だあれ?」

 

 アイナとボーデン、さらに母さんにまでボロクソに言われているが、俺もアホだと思う。

 嫌がらせ目的で石を飲み込むなど天才どころか愚者だからな。


 「うるせえぞ貴様等! うぐ……!?」

 「賢二!?」


 そしてすぐに賢二になんらかの異変が起きたようで、腹を抑えながら膝をついて呻き出した。

 俺が膝をついて様子を伺うと、顔を上げた賢二が脂汗を搔きながら口を開く。


 「が、がは……こ、こいつが『賢者の魂』……か! お、俺が探し求めていたモノらしいなあ……!!」

 「な、んで……!」

 「い、石を飲み込んだら急に頭の中に浮かんで、きたぜ……なる、ほど、こんなものまで持っているとは、兄貴への認識を変えないといけないらしい……」

 「吐き出せ! どうなるか分かったもんじゃないぞ!」

 「うるさぁぁぁい!!」

 「ラース!?」


 賢二が激昂して俺を振り払い、俺は頬を殴られる形になった。

 だが大した威力じゃないのでその腕を掴んでから捻り上げてやり、地面に叩きつける。


 「がは!?」

 「これで終わりにしてやる……!」

 「く、くく……終わりになるのはどっちかな、兄貴! はあ!」

 「なに!?」


 寝たまま俺ごと持ち上げて立ち上がると、凄い力でぶん投げられた。

 あわや壁に激突と思われる瞬間にレビテーションを使って体勢を立て直し、壁に両足をつけて免れる。

 そして賢二の方を見てみると――


 <むう、こやつ……若返っておるのか>

 「くっ……ファスさんの時と同じか。<ファイヤーボール>!」

 「甘いぜ兄貴! <ファイヤーボール>!」


 20代前半くらいまで若返った賢二のファイヤーボールが俺の撃ち出した魔法と相殺させ、威力が申し分ないことを物語っていた。その様子を見て賢二は手を握り高笑いを始めた。


 「はははは! いいぞ! 力がみなぎってくる! これで兄貴とも対等だ! ……さて、あれは妹らしいな? 吹き飛ばされたくなかったら俺を見逃すことだ」

 「……そこにいる爺さんはグランドドラゴンだぞ、ドラゴニックブレイズ一発で倒せるほど甘くはない」

 「試してみるか? 今の俺は全盛期の力を持っている、ドラゴンでもやれる」


 自信ありといった感じで指を鳴らす賢二は、若返ったらアルバート王に少し似ていたのでやっぱり従兄かと思いながら俺は告げる。


 「そうか……でも、相変わらずお前は、弱者にしかそういう言い方ができないのか」

 「ふん、弱いヤツが悪いだけだろうが? <ドラゴニックブレイズ>……!」

 <む?>

 「じいじ!」


 いきなりボーデンに向かってドラゴニックブレイズを放ち、アイナがびっくりして叫ぶが、俺は心配していない。


 <‟ハウリングボイス”>

 「なんだと……!?」


 ボーデンは賢二の放ったドラゴニックブレイズを、口から出した超音波だけで吹き飛ばし、首をこきりと鳴らしていた。


 「ボーデンは人間形態だけど、ドラゴンに戻ったらもっと強いぞ? ちなみに俺に撃ってみてもいい、お前がどの程度の強さか教えてやる」

 「……クソが、見下しやがって! くらえ!」

 

 賢二は忌々し気に再度ドラゴニックブレイズを俺に放ってきたので、それに対抗してこちらも同じく撃ちだしてやる。もちろん、全力で。


 イメージと魔力の込め方で威力が変わるのが魔法。俺はこの17年、ずっと研鑽を積んできたし、ドラゴニックブレイズは小さいころから使っているため慣れたもの。

 確かにぱっと見で古代魔法を使えるのは素晴らしい能力だけど、それを活かすのは……本人次第なのだ。


 「馬鹿な!? うおおおおお……!?」

 「ただ使えるだけじゃ、俺の魔法には勝てないぞ賢二。ファスさんみたいに若いころから修行をして強いならまだしも、お前はあまり訓練や修行をしてないだろ? それじゃいくら覚えても強くなった気がするだけだ」


 これは前に賢二が草原でドラゴニックブレイズを兵士達にばらまいていた時から気づいていて、手加減をするような奴じゃないのに、たいして範囲が大きくなかったので、こいつの魔法力はそういうものなのだろうと思っていたのだ。


 「……嘘だ……嘘だ嘘だ……!! 俺が兄貴より劣っているはずはない! そうだ……俺にはあれがあるじゃないか! 俺のしもべたる悪魔達の魂をやる! だから『賢者の魂』よ、俺に力を……!!」

 「そんなことが……」


 出来るはずがないのだが、俺は嫌な予感がしていた。

 そして――

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[一言] SEEDのコーディネーターみたいなもんかね?
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