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第五百六十七話 あの手この手で


 「大丈夫なのー?」

 「そうですよ、バスレー先生。安請け合いし過ぎです!」

 「まあまあ、大丈夫ですよ。ラース君とマキナちゃんなら、この状況を見たらやるって言いますし」


 絶対言わないと思う。

 僕とノーラは訝し気な目をバスレー先生に向けて無言で威圧する。

 だけど、決まってしまったことは仕方がないと、ヘレナさんが口を開いた。


 「感動、ってことならアタシの出番ねえ♪ 歌と踊りには自信があるしい?」

 「アイドルだもんね、ヘレナちゃん!」

 「ふむ、確かにそうですね。では、先鋒は任せましたよ!」

 「これで終わらせるからねえ♪」

 『……来なさい!』


 ベンチに座って手を叩き、挑発するように手招きをするアディシェスさん。悪い人では無さそうだけど、福音の降臨の悪魔の一人……油断はできない。


 「あ、ひとつだけ質問いいですか?」

 『なんでしょうか?』

 「失敗した場合ペナルティはありますか?」

 『特にはありませんね。わたくしを感動させることなど出来ないでしょうし、戦いが始まればあなた達などすぐに塵と化します』

 「なるほど、あなたは負けるつもりがないと」


 僕の言葉に返事も頷きもせず目を見据え、それが肯定だと言いたいらしい。

 どちらにしてもやるしかないので、僕はヘレナさんに場を譲る。


 「さてさて、お客様におきましては設備もないところで申し訳ありません♪ ですが、ぜひ最後までお聞きいただけると幸いです♪ ヘレナ、うたいまーす!」

 「わーい!」

 

 ノーラがアディシェスさんの隣で拍手をし、シュナイダーとラディナもその辺の草むらに寝転がって様子を伺う。


 始まったヘレナさんの単独ライブは見事だった。

 音楽も無いのに、澄んだ歌声は広場に居る人達を集めうっとりと聞き惚れていた。

 あれ? これ目立ってるんじゃ……?

 少し不安になったけど、最悪城に招かれたらラースにも会えそうな気がする。それくらい、ヘレナさんは見事だった。


 「……ふう、どう! 感動したでしょ!」

 『まあまあでしたね』

 「なんですって!? ちょ、耳か頭が腐っているんじゃないのかしらあ?」

 『今のでまあまあも消えました』

 「横暴すぎなあい? もう一回――」

 

 ヘレナさんが別の歌をやろうとしたところで、アディシェスさんが手を前に出して首を振る。


 『貴女は終わり。次』

 「え、一回だけ!?」

 『回数は聞かれなかったから』

 「なら次はオラがやるよー!」


 僕が行こうと思ったけど、ノーラがベンチから立ち上がり手を上げて前に立つ。

 そこで周囲を見渡し、近くの子供達や店へ走って行った。


 「なにをするのかしらあ?」

 「まあ、見てみましょう」

 「いっぱいあったよー! それじゃ始めるねー」


 ヘレナのように一礼をした後、ノーラは指笛を吹いてシュナイダーとラディナを呼ぶ。


 「わおん?」

 「がるう?」

 「オラの言うことを聞いてねー? まずはラディナのボール乗り!」

 「がう!」


 ノーラの【動物愛護】のおかげでラースのテイムした魔物でも、十分言うことを聞いてくれるためラディナは意気揚々とボールに乗る。

 まあ、ウチの魔物達はみんないい子達だけどね。


 「おおー!! 凄いぞあんな小さいボールにでかいクマが!?」

 「お姉ちゃんすごーい!」

 「ラディナ降りていいよー! 次はシュナイダーにこの輪っかを潜って貰うねー」

 「わふ!」


 ノーラがひとつずつ輪っかを上に投げ、落ちてくるそれをシュナイダーが縦横無尽に抜けていく。ランダムな向きなのに、一つもミスをすることなく、くぐり抜けて、きちんと回収してノーラの下へ。


 「賢いねー! わたしあんな犬が欲しい!」

 「わふ!?」

 「あはは、シュナイダーは狼さんだよー! それじゃ最後はみんなでやろー」


 再び口笛を吹くと、今度はどこからともなく猫の集団が現れてノーラの足元に集結した。


 「わ、すごいなこりゃ!?」


 見物人のおじさんが感嘆の声を上げるけど、僕もそう思う。

 町中の猫が全部来たのかと思うくらいの数だからだ。


 「それじゃあ、はじめ♪」

 「にゃーん♪」

 「ふみゃー」


 猫達は華麗にステップを踏み、まるでダンスを踊るようにあちこち動き、ノーラもそれに混ざってくるくると回る。色とりどりの猫が地面を鮮やかに彩り、見ていた人たちの顔が綻ぶのが分かった。


 「そして最後に――」


 ラディナやシュナイダーの背に乗ってびしっと決める猫達に、割れんばかりの拍手で迎えられた。


 「えへへ、どうだったー?」

 『可愛かった。でも、足りない。わんわん』

 「わおん!?」

 「んー、ダメだったかー……」


 「なんかよく分からんけど、良かったぞ嬢ちゃん!」

 「また見せてね!」

 「あ、はーい! ありがとー!」


 町の人たちには好評だったようで、アディシェスさん相手はダメだったけど喜んでもらえて良かったと思う。


 「それじゃ次は――」


 僕がやろうかと思ったところで、ずっと黙っていたバスレー先生が口を開く。


 「……真打登場、ですかね、これは」

 「あれ? 僕は?」

 『誰でもいいわ。かかってきなさい』

 「そのすまし顔を感動の嵐に包んであげましょう……」

 「なんかそのセリフも変だし、僕はいいのかな?」


 横で尋ねるも、バスレー先生は僕を見てにやりと笑うだけだった。

 一旦馬車に戻った先生は、ラースの作った冷蔵庫の魔道具から食材を取り出し、フライパンとセットで持ってくる。


 「すぐにできますからねー」

 『……?』


 口笛を吹きながら焚火を始めたバスレー先生がフライパンに油をひき、食材を乗せる。

 あれは――


 「ハンバーグ……!?」

 「まさか、好物を食べさせるつもり? いやいや、それはバスレー先生になら刺さるかもしれないけど、みんなが好きだとは限らないわよう……」

 「でも美味しいよねー」


 確かにその通りなんだけど、悪魔相手にそれは通用するんだろうか……僕も準備しないといけないな。


 「いい匂いがするわね……」

 「肉か? ステーキとは違う?」

 「あれは美味いぞ……俺には分かる」


 まだ残っている野次馬が何故か状況の分析を始める中、バスレー先生はお構いなしにハンバーグを焼き、やがて完成した。


 「……できました。特製ハンバーグです。いざ、勝負」

 『……』


 差し出されたナイフとフォークを使い、見た目通り綺麗な手さばきでハンバーグを切り分けると口の中へ。


 「ごくり……」

 「いい焼き加減ねえ……」

 「ハンバーグに対する執念は人一倍だからね」


 僕達が見守る中、目を瞑って咀嚼をしていたアディシェスさんが飲み込むと――


 『……!!』

 「あ!」


 ――カッと目開き、一気にハンバーグを食べ始めた。


 そして全て平らげた後、皿をベンチに置くと、膝を叩きながら一言。


 『……感動した!』

 「えええええええ!?」


 少し涙ぐみながらハッキリと告げたのだった。

 僕達は驚いたが、バスレー先生は得意気な顔でアディシェスさんに手を差し出す。


 「ハンバーグには勝てない……そうですよね?」

 『負けたわ。協力しましょう』

 「それでいいんだ……」

 

 握手をしている感動的なシーンなんだろうけど、僕は納得がいかずため息を吐く。すると、バスレー先生はにこりと微笑みながら言う。


 「彼女はパンを適当に食べるような人でしたからねえ。恐らく、食に乏しいのではないのかと勘が働きました。だから未知の食べ物であるハンバーグなら勝てると思ったんですよ」

 「な、なるほど……」

 

 あのパンを食べていたところを見てそれを思いつくとは……やっぱり先生は凄いのかもしれない。


 「では、福音の降臨である貴女に聞きますが、ラースという子がどこに居るか知りませんか? バチカルさんから話は聞いているでしょう?」

 『聞いている。確か今は教主様と共にイルファン国とのいざこざをしている砦へ行っているわね』

 『……!? それはいけませんね。バスレー、デダイトさん、その砦とやらに向かいますよ!!』

 「え?」


 急にバスレーの中からレガーロが出てきて慌てたように言う。

 確かに黒幕とラース達だけというのはなにが起きてもおかしくない。


 「追いましょうバスレー先生。アディシェスさん、砦の場所はわかりますか?」

 『もちろん。行こう』

 「うん!」

 「そうね!」


 僕達が決意を固めていると――


 「こら! そんなところで焚火なんてしちゃいかんぞ!」

 「あ、すみません……」


 バスレー先生が警護団らしき人に怒られていた。しまらないなあ……


 ともあれ、これで協力をとりつけることができたし、ラースの居場所を知ることができた。

 待っててくれ、すぐ助けにいくよ!



 ◆ ◇ ◆



 ――バスレー内 レガーロ――


 (まさかこんなに早く接触しているとは思いませんでしたよ。決着はベリアース王国で全員が攻め込んだ時だと思っていたんですがねえ……。『ラース』の【超器用貧乏】は【天才】と似て異なるスキル。アポスの性格を把握できれば容易いですが、前世と違い、今ならあるいは――)

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[一言] 更新有り難う御座います。 教祖バスレー「ハンバーグは全てを包み込み        癒し、救うのです!」 教団員「「「ハンバ~~~グ!!」」」
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