第四百八十九話 久しぶりのルツィアール国
ガストの駐留場所から移動して約二日。 俺達はルツィアール国の城下町へと馬車を入れていた。
やはりというか、魔物との遭遇率はガストの町周辺以外はいつもと変わらなかった。
それともう一つ、ルツィアールで戦った魔物はワイバーンのアングリフが威嚇をすると逃げる魔物が多く、ガストの町周辺の魔物が異常状態だということが分かる。
ハウゼンさん達が気になるけど、あのくらいの相手に負けるようなやわな人たちではないかと気を取り直して大通りを進んでいく。
「久しぶりだね。たまに依頼で呼ばれることがあるけど、最近は他の町が忙しかったからね」
「ウルカはなんだかんだで幅広く依頼をこなしているよな。そういえばスケルトンはいるけど、小さいころ一緒にいたゴーストはどうなったんだ?」
「ああ、彼は僕が学院を卒業すると同時にあの世へ行ったよ。息子の門出を見たような感じで満足したって」
「そういえば君も珍しいスキルですね」
「そうだね。昔は嫌だったけど、ラースやクラスのみんな。それにオオグレさんやサージュと会えたから今では誇らしく思う。そういえば『死の書』は返さなくていいんですか?」
不意にレッツェルが会話に割り込み、思い出したようにウルカが尋ねる。
「ああ、そのまま持っていてください。僕では役に立たせることができませんからね。それにしても、君たちが十歳になるまであの町で暮らしていましたが、ラース君のクラスは珍しいスキルを持った子が多かったですね」
「そうか? 俺とウルカ、それとリューゼ、ジャックはあまり聞かないかな?」
「ラース、ルシエールとクーデリカもだよ」
「あ、そうか。半分は珍しいかな? でも、ものすごくレアって程じゃないと思うけど」
俺が御者台から振り返って言うと、レッツェルは指を立てて俺に言う。
「まあ、そう言われると返しようがありませんがね。なんとなくこの状況を見越していたような……」
「それは考えすぎじゃないか? みんなが転生者ってわけじゃないだろうし。お前がこっち側にいることも未だに信じられないしな」
「はは、それは確かに」
「おっと、そんなことを言っている間にお城ですよ。ここは大臣であるわたしがビシッと決めますかね!」
「いや、バスレー先生は大臣辞めてきたじゃないか……」
「あ」
忘れるのが早すぎるとみんなが呆れる中、門番に面通しをして馬車を預けると、騎士が場内へと案内してくれる。……って
「懐かしい顔だ……」
「う、うるせえ!?」
案内役は昔マキナと模擬戦をやって酷い目に合わせたゴングだった。俺がジト目で見ると、口を尖らせて言う。
「あの時は悪かったな。それに結局、あのスケルトン騒動もお前達が片付けたんだろ? それと、あの子は元気か?」
ゴングが肩越しにチラ見しながらそういうと、ウルカが珍しく意地の悪い顔で目を細めて返す。
「マキナはラースの彼女だよ。そのうち結婚するんだ」
「お、おお……そうか……」
「まあ、マキナも俺も昔のことだから恨みなんてないし、そう固くならないでくれると助かる」
「そう、だな……」
「?」
がくりと肩を落とすゴングにウルカと、なぜかバスレー先生がハイタッチをしてクルクルと回っていた。
「なんでそんなにはしゃいでいるんだ?」
「あんたの悪いところよね……商会の娘とかも可哀想だわ」
『ド天然の鈍感モテ男の唯一にして最低の欠点ってやつね』
イルミとリリスにもなんか酷いことを言われている気がする……抗議をしようと思ったけど、その前に謁見の間に到着してしまったので、機会を逃す。
「お連れしました」
「ご苦労、入ってもらってくれ」
「じゃあな。また会おうぜ」
「ああ、ギルドに寄って今日はここで一泊して行くつもりだから、気が向いたら宿に来てくれ」
俺がそう言うとゴングは小さく頷いて通路へ戻って行き、謁見の間の扉が閉じる。するとすぐに玉座の方から声がかかった。
「久しぶりだねラース君にそれとウルカ君。他の子達は居ないのかな?」
「お久しぶりですヴェイグさん。いえ、ルツィアール国王陛下」
「お元気そうでなによりです」
中央まで歩いてから膝をついて元騎士団長で今は国王となったヴェイグさんと、王妃であるシーナさんに頭を下げる。前王はすでに引退していて、ベルナ先生のところへ度々遊びに来ていた次女グレースさんの話だと、俺達が三年生くらいの時に即位したらしい。
「ははは、そうかしこまらないでくれよ。サージュも元気なのかい? 姿が見えないけど」
「はい。少し厄介なことになっているので、サージュやマキナといったあの時の仲間は修行に行っています」
「そう……少し残念ね。それと――」
「厄介なことの事情は知っているつもりだ。救援を頼む可能性があると書状は貰っていたからね。ガストの町はどうなったんだい?」
シーナ王妃とヴェイグさんが真顔で聞いてくると、俺の代わりにバスレー先生が顔を上げて答えてくれた。
「残念ですが今は人が寄り付ける場所ではなくなりました……。しかし、それをなんとかしようとレフレクシオン王国は一丸となって事態の収拾に努めています。相手が相手なので、ルツィアールに手が伸びないとも限りません。くれぐれも警戒を怠らないようにお願いいたします」
『えー……超真面目じゃな……痛いっ!?』
バスレー先生が笑顔でリリスをはたくと、ヴェイグさんが頷き話を続ける。
「承知した。以後、ルツィアールは国を挙げての警戒を行おう。それと、救援の準備はできているので、いつでも申し伝えて欲しい」
「ありがとうございます! それで、早速で申し訳ないのですがひとつ探してほしい人物が居るのです」
「ん? 人探しかい、構わないよ。この国の人間かな?」
「いえ、私とウルカの同期でヨグスという学者の卵です。今、この国に発掘調査で来ていると聞いています」
「学者の卵で発掘……なるほど、こちらでも調べてみよう。見つかった場合は?」
「我々は明日、オーファ国へ向かいます。折り返しを考えて都合十日ほどの道のりなので、十日後ルツィアール国へ帰ってきますのでそこで合流をと考えています」
俺が提案を口にすると、ヴェイグさんが微笑みながら分かったと頷いてくれた。これでひとつ問題をクリアできるかと俺は胸中でホッと息をつく。
「では、お話もまとまったところで夕食は食べて行かれるのでしょう? 明日出発とおっしゃっていましたし」
「いえ、それは流石にご迷惑かと……」
「いいんですよ! あなた達はこの国を救った英雄とも言うべき存在です! それにグレースにも久しぶりに会っていってくださいな」
「は、はあ……」
あの人ちょっと苦手なんだよな……ルシエラと話しているみたいで……とは言えず、俺達は一度宿へ行くことを告げて城を後にしたのだった。




