第四百二十五話 ガストの町
リューゼやルシエール達と近況を話しながら楽しく話をしながら、ルシエールの父親であるソリオさんの好意で夕食をごちそうになった。
「はあ……どっちか貰ってくれないかい?」
「はは……」
ふたりとも結婚についていい話が無いため、お酒を注ぎながらそんなことをこそっと口にするソリオさんに愛想笑いをしてその場を逃れた。ふたりとも顔は可愛いからすぐ見つかりそうだけどな。
そんな楽しい夜を過ごした翌日、俺達は厳しい状況に身を置くことになる。
「デダイト、準備はいいか? ラースは?」
「僕は大丈夫」
「俺もいいよ、母さんとノーラは留守番かな?」
「私も行くわよ、ノーラとアイナもね」
「うんー。オラもアーヴィング家だもん」
母さんとノーラは当たり前でしょと、出かける準備をしていた。残るアイナもアッシュを手放さず、母さんに着替えをさせられていた。
「うー……眠いよう……」
「くおーん」
「遅くまで起きているからよ。アッシュは元気じゃない」
「今日はオラが預かるねー」
「うん。アイナは私が抱っこするわ」
「うー……」
眠いせいでアッシュを拘束できず、あっさり手放して母さんに抱っこされると目を瞑る。昔ずっと抱っこされていたけど安らぐんだよな、あれ。
「マキナちゃんは?」
「マキナは町に居ると思うよ、リューゼ達と人を集めてくれるって言ってた」
「それはありがたいな。さて、行くとしようか」
今日はマキナも実家に帰っているため、広場に集まる側に回っている。父さんが腰を上げて言うと、サージュが玄関に向かって飛びながら口を開いた。
<うむ。いざという時は我を使え。なに、お前達の言葉なら分かってくれる>
心強いサージュの言葉に頷き、真っすぐ広場を目指す。俺達がルシエールの家に行っている間に父さんが何かしらやったらしく結構な人が集まっていた。
「ローエン様、一体どうしたんだい?」
「すみません早朝に。これから重大な発表をします。後でそれとここに集まっていない人にはこの話を伝えて欲しい」
広場には何百人もの人がざわざわとしており、普段こういったことをしない父さん達を不思議そうな目で見ている人も居れば、深刻そうな顔で待っている人もいる。そこで‟メガホン”を使った兄さんが声をあげる。
「すみません、静粛にお願いします! 先日、この町がゴブリンや魔物達に襲われたことは記憶に新しいと思います! やつらの組織である福音の降臨が、近くこの町へ来るとの情報を僕の弟であるラースから聞きました。今度は戦争クラスになるであろうことも聞いています」
その言葉に一瞬で場は静かになり、すぐに大騒ぎになる。
「マ、マジか!? あれがまた……それよりも酷くなるっていうのか!?」
「ど、どうするんだ? 犠牲がでなかったけど怪我人はいたんだ……」
「国は、国王様に救援を呼んだらどう?」
もちろんな意見や怒号が飛び交う広場。前回でも十分恐怖を感じる者は多かっただろうし、その憤りも分かる。俺も喋ろうと思った瞬間、兄さんの言葉がさらに響く。
「お静かにお願いします!」
【カリスマ】のスキルがあるおかげでメガホン強化された言葉が町のみんなに届き、再び静かになった。
「国には要請をしてありますのでご安心を。しかし、先ほどデダイトが言ったように戦争クラスになるとの見解が出ています。そこでラースが考案し、国王様から承認を得た提案があります」
父さんが代わり、国に救援をしているという話をすると、町の人は安堵していた。少し落ち着いたところで目配せをされ、今度は俺が口を開く。
「俺からの提案ですが、この町の人間を全て、そっくり王都へ移住することを進言しました。町のみんなが好きだし、死んで欲しくない。そのために王都で仮住まいをして欲しいんだ。生活の保障は国も持ってくれるし、俺もできるだけのことはする」
「そ、そんなことができるのか? 王都まで七日はかかるんだぞ?」
「それは俺の転移魔法を使って――」
と、昨日リューゼ達に見せたのと同じ感じで、ショートワープである<跳躍>でおじさんの後ろに飛ぶ。
「――みんなを王都へ運びます。家は用意して、そこでほとぼりが冷めるまで……どうでしょうか?」
「う、むう……」
驚きながらも提案に少しだけ難色を示す。しかしノーラと母さんが援護に入ってくれた。
「オラみんなが死んじゃうのは嫌だよ? おうちは壊れちゃうかもしれないけど……」
「いきなりこんなことを言われても困ると思うけど、分かって欲しいの。準備期間は七日で、順次向こうへ移動する予定よ。一応、状況にもよるけど、家に物を取りに帰るのは許可制にするつもり」
「ああ、それなら、まあ……」
おおむね受け入れて貰える状態になり安堵する俺達に、いつの間にかこの場に居たリューゼ達やティグレ先生、ベルナ先生等も援護射撃に参加してくれていた。
「久しぶりねぇラース君。もちろんお手伝いするわよぅ」
「それに町の人間は入れ替わりで騎士達が待ち構えるんだろ? 俺も参戦する。町のみんなは王都でのんびりしててくれ」
「領主様の言葉だ、従おうぜ! もちろんなんかあったら俺からラースに文句を言うけどな!」
リューゼがそう言って場が笑いに包まれ、俺のところに近づいてくる老夫婦が目に入る。
「爺ちゃんと婆ちゃん!」
「あんなに小さかったのに、でかくなったのう……王都に行って寂しかったが、お主の言うことなら聞くとするぞ」
「そうですよ、あなた達一家は私たちのことを一番に考えてくれているからねえ。みんなも分かってくれるよ。あたしもまだ死にたくないからねえ? ラースちゃんが結婚するまではね」
俺が五歳のころ、ギルドで依頼を受けるときにお世話になっていた老夫婦だった。あの時よりも少し小さく見える爺ちゃんが俺の背中を叩きながら笑い、その様子を見て町の人達が息巻いていく。
「おお、確かに死んだらどうしようもねえ! 七日もありゃ十分だ、やつらに一泡吹かせる罠でも仕掛けとくか?」
「お、いいなそれ! 家の玄関を開けたら水の入ったツボがおちてくるとかどうだ!?」
「あんた自分が引っかかりそうだけどね……」
よし、これならスムーズに行けそうだ。ダメ押しでひとつやっておくか?
「アイナ、起きろ。ノーラ、アッシュを貸してくれ」
「ラースにいちゃん? あ、アッシュー……」
「どうするのー?」
「ま、見ててよ。サージュ、大きくなれるかい?」
<む、構わんが>
そう言ってサージュは大きくなり、俺はレビテーションで頭の上にのると、町の人達が見上げてきた。
「ほら、アイナもアーヴィング家なんだから何か言いなよ」
「えー? 王都に行くはなしー?」
「アイナちゃん頑張ってー」
下でティリアちゃんが手を振っているのが見え、アイナはアッシュを抱きあげて笑顔で言う。
「ティリアちゃん、王都で遊ぼうね! おじちゃんたちもゆっくりしようね!」
「はっはっは、アイナちゃんにはかなわないなあ。よーし、他のみんなにも伝えようぜ! その前にやつらがきたらぶっとばしてやるけどな!」
「あ、もし意見がある人が居たら屋敷まで来るように伝えてくれ!」
町の人達はアイナの様子にほっこりしながら、町の人達は解散していき、その人たちに声をかける父さん。この後俺達も町を回るけど、全員に伝えたわけじゃないので、何かあれば聞かないといけないしね。
それでも土台はできたので、概ねうまくいくはず。
次は俺の仕事かと、サージュの頭の上から町を見渡してそう思うのだった――
そろそろ王都へ戻りますかね? 魔物の園とか気になる……
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