第三十九話 楽しい学院生活?
クーデリカをギルドに連れて行った日から早三日経過し、週末となった。
学院に行きだしてから意識するようになったけど、この世界は向こうとそれほど変わらず、週七日で一日を月、火、水、風、土、闇、光という形で分け、このサイクルを繰り返す。
闇の日は魔物が活発になる日でお休みとなり、次の光の日も”浄化日”ということで続けて休みになる。土日と同じだね。どうして闇の日で魔物が活発になるかは分からず、昔の人が言っていた習慣がそのまま残っているのが有力な説なのだとか。
ただし、休まれると町民が困る店は自主的に開けていることが多い。食材が買えなかったりすると困るからね。
それはともかく、今日は土の日でいわゆる金曜日。お昼も過ぎて、剣術の授業中である。みんなが集まり、ティグレ先生がグラウンドへ来た途端、ヨグスが手を上げた。
「どうしたヨグス?」
「聞きたいことがあるんですけど、例えば僕は【鑑定】を使って調査する学者を志望しています。戦闘訓練に必要性を感じないのですが……」
「えー、男なら剣だろ? なあ?」
ジャックがさも不思議といった感じで俺達に顔を向けると、
「俺は【魔法剣士】だから当然だな!」
「僕は魔法でもいいけどね。でも剣が使えたらかっこいいかな」
「魔物と戦うなら力は欲しいかな?」
俺を含めた男の子は気弱なウルカでもそう言って木剣を握る。この数日、ヨグスを見ていると本当に本が好きらしく、体を動かすのはそれほど好きではないみたいだった。ちなみにあくまで好きじゃないのであって、得意ではないということはない。マラソンは平均的にこなすしね。
そんなヨグスの問いにティグレ先生が腰に手を当て、口元に笑みを浮かべて怖い顔をする。いや、多分質問されて嬉しいんだろうけど、笑顔になっていない。最近ようやくクーデリカが涙目にならなくなった位には慣れたけど。
「まあ将来就く仕事を決めている子には確かに意味がないことだと感じるかもしれないな。だけど、みんなまだ十歳だ。大きくなったらその仕事ができるとは限らないんだ。例えばリューゼは【魔法剣士】かもしれないけど、親父さんは領主だ。だから引き続き領主をやるかもしれない。それに学者も現地調査で魔物と戦うことはよくあるし、移動中襲われることだってある。だからやって無駄ということは絶対にない」
「な、なるほど……」
珍しく先生が『絶対』にないという言葉を使うあたり、経験則で言っているのかもしれないなと思う。ヨグスも『現地調査』という魅力的なワードに緊張しつつも、確かにそうかもと誰にともなく呟いていた。そこは本を読んでいるヨグスならではの納得だ。
「アタシは守ってもらう男の子を探すからいいんだけどねー♪」
「わ、わたしは冒険者志望だから剣術は嬉しいかも……」
「オラもトレーニング好きー」
「ノーラは彼氏が居るからいいじゃない? あーあ、イケメンの年上彼氏いいなあ」
「オ、オラはたまたまデダイト君が……」
「仲いいもんね」
「ルシエールちゃんまでー」
女の子たちはヘレナを筆頭にそんな話をしていた。ヘレナは夢みる子って感じかな? 見た目はギャルっぽいし、背も高いんだけど。だけどやはりぶれない子はいる。
「相手を倒すためならどんな力も必要だもの。先輩たちに負けられないからしっかり学びます!」
「その意気だぞマキナ。だけどただの暴力は意味がないし、使うべきときを間違えるんじゃないぞ? さ、それじゃ素振りからだ!」
「「「「はーい!」」」」
ヨグスも納得いった顔で、時折眼鏡を戻しながら素振りをする。ティグレ先生が体がぶれている子のアドバイスをしたりして有意義な時間が過ぎていく。
――たまに先生がじっと俺の方を見ているのが気になるけど……
「(ラースは寸分たがわず同じ位置で振り続けているな……ノーラもラースほどではないけど鋭い。デダイトもそうだったが、逸材だな)」
ニヤリ……
「!?」
「くちゅん!」
俺を見てにやりと笑う先生に何故か背筋が寒くなり、ノーラがくしゃみをしていた。そして素振り百回が終わり、今度は――
「二人一組で戦ってもらう」
と、模擬戦するようだった。すかさずマキナが手を上げる。
「これだと危なくないですか?」
「確かにそうね。アタシの肌に傷がついたら困るわぁ」
「その心配なんだ……」
木剣では真面目に打ち合うのは確かに危ない。脳筋マキナはこういうところをきちんとできる委員長タイプだったか。そう心の中にメモをしていると、そこでティグレ先生が足元にあった木箱の蓋を開けて二本の棒を取り出す。
「棒?」
「一応、剣に見立てた道具だな。長さはその木剣と同じで、刃の部分はスライムを加工して作った柔らかい素材だから安心して打ち込んでいい」
「へえ……」
ウルカが青い棒を手渡され、リューゼが赤い棒を手に取る。二人は剣をふにゃふにゃと触り笑みを浮かべる。
「おおおお……柔らかい」
「あはは、これいいねー」
「私は青がいいかな。ノーラちゃんは?」
「オラもルシエールちゃんと一緒にするー」
女の子たちも手渡され、不思議な感触に笑い合う。俺も青い棒を貰い触ってみると、
「おお……確かにふにゃふにゃだ……あれ? でもこれ――」
俺がとあることに気づいたその時、ジャックがリューゼの肩へスイングする。
「手がすべったぁぁ!」
「……まあ、痛くないだろうからいいけど……」
べちゃん
「ぎゃあああああ!? き、気持ち悪いぃぃぃ!?」
「え? マジ……?」
柔らかいからとあえて受けたリューゼが絶叫をあげる。すると先生が苦笑しながら説明をする。
「話を聞いてから使えよお前ら? パーティを組んでいて勝手な事したら全滅するんだぞ? まあそれは良しとして、この棒はさっきも言った通りスライムでできている。攻撃を当てると、ほらリューゼの肩のように色がつくようになっているんだ」
あ、これ面白いなあ。兄さんやノーラと遊ぶときに欲しいかも。
「で、ここからが本題だがこの色はスライムがへばりついてつくようになっている。リューゼはもう体感したけど、これが結構気持ち悪い。服の上からでもぬるっとした感触があるんだ」
「なるほど! では当たらないよう、当てていくようにするんですね!」
「なぜ目を輝かせているのかは分からないけどマキナの言う通りだ。それじゃ、二人一組になって――」
十人で男女5人ずつとなると一組は男女ペアになるのかと計算しつつ、ノーラかルシエールならいいなあと呑気に考えていた俺だったんだけど。
「……えー」
「……」
俺の相手はリューゼだったのだ。
ついにリューゼと対面!
いつも読んでいただきありがとうございます!
【あとがき劇場】
『ここからが本番ね』
リューゼの運命やいかに!
『ぼろくそにされるかしら……』