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没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで 【書籍発売中】  作者: 八神 凪
波乱のグラスコ領編

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第二百八十六話 豹変


 「急いだほうがいいかな?」

 「微妙なところですねえ。わたし達が気づいていないと仮定すれば、まだ大丈夫かと。とりあえず素知らぬ顔で屋敷に入って、ソニアさんを拘束するべきですね」

 「……俺はちょっと嫌な予感がしているんだよな。やっぱり急ごう」

 

 ヒンメルさんと二手に分かれてから町に向かって進んでいたけど、どうにも嫌な感じがする。ブラオとの決着をつける際に、レッツェルが国王様達の料理に毒を仕込んだのと同じくらい胸騒ぎがしている。

 俺の言葉に同調してくれ、みんな早足になり先を急ぐ。


 「くおーん」

 「あら、ラースがいいの? ねえ、この子ラースに抱っこして欲しいみたい」

 「ええ?」


 見れば子ベアがじたばたを俺に手を伸ばしているようだった。仕方なくマキナから預かると、鼻を鳴らしながらぎゅっと抱き着いてくる。


 「くおーん♪」

 「凄く懐いているな……デッドリーベアってもっと凶悪じゃなかったっけ?」

 「賢い魔物じゃから親の命を助けたのが伝わっておるのじゃろう」

 「グルル……」

 「親もそんな感じですかね、ラース君がいなきゃわたしを載せるなんてしないと思いますし」

 「ま、どちらにせよ町に入れるわけにはいかないから森の出口でお別れだけどね」

 「うーん、大丈夫かなあ……?」


 マキナが心配した声を出し、俺も少し気になっていた。

 そして心配した通り、森の出口で子ベアを降ろすと俺の足にしがみついて泣き叫びだしたのだ。


 「くおーん! くおーん!」

 「まいったなあ」

 「なんとかならんか?」


 ファスさんがバスレー先生に目を向けるが、さすがに大臣といえどテイマー資格を誰も持ってない中、魔物を町に入れることは無理だと言う。


 「テイマー見習いのラース君、こういう時どうするか教わってないんですか?」

 「……やってみるか」

 

 俺は子ベアを抱きかかえて頭をわしゃわしゃと撫でた後、鼻の頭をぴしゃりと叩く。すると子ベアはびくっと体をこわばらせて小さく鳴く。


 「くおーん……」

 「お前達を連れて行くわけにはいかないんだ、悪いけど森へ帰ってくれ」

 「グル……」


 子ベアを親の背中に載せてやると、まだ名残惜しそうな目で俺達を見つめる親子。


 「頼むよ、俺を困らせないでくれ」


 俺がそう言ったその瞬間、バスレー先生からもらった指輪が鈍く光る。


 「なんだ? あ……」

 「グルル」

 「くおーん……」

 

 指輪の光が消えた瞬間、ビクンと体がこわばり、その後すぐに名残惜しそうなものの、大人しくデッドリーベアの親子は踵を返して森の方へ歩き出した。どうやら分かってくれたみたいだ。


 「元気でな! あまり人間の前に姿を現すんじゃないぞ!」

 「さようならー!」

 「!!」


 時間は惜しいものの、何となく情が移ってしまった親子の姿が見えなくなるまでその場に立っていた。

 

 「よし、ザンビアの屋敷に行こう」



 ◆ ◇ ◆


 

 「あなた、少しお話があるのですが」

 「なんだ? ……入れ」


 ソニアが執務室のノックをすると、中からザンビアが不機嫌そうな声を出しながらも招き入れる。


 「どうした、まだソニアが呼んだクランの連中は戻ってきておらんだろう? 城からの騎士達が同行したとしても魔物達がそう簡単に駆逐できるはずもない」

 「ええ、恐らく森の中腹あたりかと。それにまだ城の連中を始末できておりませんでしょうね」

 「ああ、私は忙しい。ことが済んでから――」


 そう言いながら視線を書類に向けるザンビアだが、ソニアが口にした不穏な文言に気づき顔を上げる。


 「ソニア、お前、今なんと言った!? 城の人間を始末だと……! そ、そんなことをしたらどうなるか分からんわけではあるまい!」

 「ええ、もちろん存じておりますよ? でもこれは必要なことなんです。この領地を繁栄させるためには」

 「馬鹿なことを……国あっての領地、領地あっての国だ。この二十五年、共にここで暮らしてそれは理解できているだろう。馬鹿なことは止めて、こっちに残したクランの人間を向かわせろ!」


 ザンビアが青ざめた顔で怒声を浴びせるが、ソニアは妖艶に笑いながらものともせず聞いていた。その冷静さに気味悪さを感じつつ、ひとつの考えに至る。


 「いや、おかしい……何故今、その話を私にしたのだ……? まさかお前!」

 「ええ」


 ソニアがパチンと指を鳴らした直後、部屋の中に三人の男がなだれ込んでくる。その手には武器が握られていた。


 「どういうつもりだ……!?」

 「簡単なことですよあなた。バーニッシュを領主にするため、そろそろ引退していただきたいと思いまして」

 「馬鹿なことを……あいつはまだまだ未熟だ。知識も経験も少ないバーニッシュが領地を継いだところで数年持つかどうかだ。それもお前の甘やかした教育のせいだぞ?」

 

 ザンビアが部屋の隅に逃げながらそう言うと、ソニアは嫌らしく口を歪めて髪をかき上げてから返答する。


 「それでいいのよ。領主が賢くてはこちらが困りますもの。バーニッシュが二十歳になるこの年を待っていました。……城の連中が来たのは計画外でしたけど、アルバトロスを含むクランの人間は手練ればかり。騎士に後れを取ることはありません。農林水産大臣と審問官などさらに余裕ですわね。ご安心を、領地経営は滞りなく、私達が運営してまいります」

 「お、お前はいったい……」

 「……」


 疑問の声には反応せず、手を掲げると男達が一斉にザンビアへ襲い掛かる。


 「ひ、ひぃ!?」

 「あはははは! できるだけ残酷にバラすんだよ? そうだね、姿を見せないルクスが来て襲った……それで行こうかしら!」

 「らしいぜ、死にな!」

 「……!」


 剣を高く掲げられた瞬間、ザンビアは死を覚悟し、屈んで頭を守るように床に伏せる。だが、凶刃は振り下ろされることなく、その代わりに――


 「<アクアバレット>!」

 「ぐあ!?」

 「うお……! 背後から!?」

 「なんだい!?」


 ――ザンビアに迫る男達の背中にアクアバレットが飛び交い、膝をつかせていた。ソニアが振り返ると同時に、その脇を人影が抜けて男達に不意打ちを食らわした。


 「クソ親父、無事か!」

 「な!? お、お前はルクス!?」


 部屋の隅でザンビアを庇うようにして立つその人影はまごうことなきルクスだった。追い打ちで魔法を放ちながらソニアを睨みつける。 


 「ラース達が出ていったあとこっちに忍び込んでみればいい場面に出くわすとは。そしてようやく尻尾をだしたな義母さん……いや、ソニア!」

 「ルクス……! どこに隠れていたか分からないけど、丁度いい、メダリオンを返してもらおうか……!」

 「できるものならな……!」

今年最後の更新です!


皆さま、今年もありがとうございました!

これからも更新を続けていきますので、応援お願いします!


【あとがき劇場】


『……Zzz ……ハッチ!? あけました!?』

まだだよ!?

『なら一分前に起こして!』

むちゃくちゃいうなあ……


※このあとがきは2020年12月31日の20時に書かれたものです。

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