表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/630

第二百八十三話 バスレーという人


 「ふむ、わたしに惚れた、ですか。まあ、あなたとは気が合いますし、そういう素振りをしていたことに気づいていましたけど」

 「だろ! やっぱりお前もそう思っていたか! なら――」

 

 バスレーが片目を細めてそう言うと、色めき立つバーディが手を引こうとした。しかし、バスレーはその手を振り払い、デッドリーベアが地面に倒れるのを見ながら口を開く。


 「先ほどわたしを孤立させたことを正解だと言いましたね? となるとそのデッドリーベアにわたしを連れてこさせたのも偶然じゃないことになります。それに今は作戦中。あなたは『一緒に来ないか』とわたしに言いましたが、どこへ行こうというのでしょうか? ここで城のみんなを待つべきでは?」

 「ここまで来れば後は俺達だけでも――」

 「――何とかなるなら、わたし達は必要ないはずですねえ? ここに来るまで戦った魔物はクリフォトとヴァイキングウルフ、それとそのデッドリーベアだけ。確かにまだ四時間程度しか徘徊していないですが、ここに来るまでの間やあなたたちが言っていたほど魔物に襲われていません」

 「……」


 バスレーがスラスラと目の前のバーディへおかしな点を口にしていく。それをバスレーの目をじっと見ながら黙って聞く。


 「となると、この作戦自体フェイクかと。……あなたたちの本当の目的はなんですか?」

 「それを素直に言うとでも思ってんのか?」

 「わたしに惚れているなら言うかなと」


 バスレーがしれっとそんなことを言い、バーディは目を丸くして口を噤む。しかしすぐに頬を緩めて笑い出す。


 「はっはっは! さすがに言うねえ、俺が惚れただけのことはある。ま、でもそれを言うわけにはいかねえ。まあ付いてこなくても問題ないんだよ。強制的に連れて行けばいいだけだからな!」

 「ふっ!」

 「チッ、素早い!」

 「手伝うかアルバトロス団長」

 「チッ、バーディだっつったろ? ま、今更か。頼む、ヴァイキングウルフでだいぶ引っ掻き回したが、城の人間が来る前に連れていきたい。大丈夫、バスレー自体に戦闘力はほとんどねえ」

 「アルバトロス……それが本当の名前ですか」


 バーディ……アルバトロスが合図をすると、バスレーを捕らえるように数人が近づいてくる。

 

 「お前を連れて行く理由はお前に惚れている。これは間違いねぇ。だがそれと同時にこの後の光景を見せたくねぇのもあるんだ。大人しくついてきてくれねぇかな?」

 「ほうほう、なるほどなるほど……あなた達の正体は‟福音の降臨”でしたか。わたしに惚れてくれているのはありがたいことですが、そうと分かれば容赦するわけにはいきませんねえ」


 バスレーがそれを口にした瞬間、アルバトロスを含むその場に居た全員が息を飲む。


 「……どうしてそんなことを言う? 福音の降臨? そんなものは知らね――」

 「ふっふっふ、これでもわたしはよく手癖が悪いと言われるんですよねえ。あの茶わん蒸しは怪我の功名というやつでしたが」

 「何を言っていやがる!」

 「いえね、アルバトロスさん、でしたか? 左肩の入れ墨、見えてますけど?」

 「!?」


 にやりと笑うバスレーを見て、アルバトロスは自身の左肩を見る。するとそこはいつの間にか肩の袖を切り裂かれ、バスレーの言う通り福音の降臨を司るサソリの入れ墨が見えていた。


 「いやあ、ビンゴでしたね! ……さて、あなたがたはソニアさんに雇われたと言っていましたね? となると彼女が黒で、福音の降臨のメンバーですかね? オリオラ領の時と違って奥方になっているとか相当長いスパンで計画を組んでいたようですねえ。だけどここまでですよ」

 「くっ……だからどうした。俺がメンバーだとしても証拠もない。もういい、さっさと攫うぞ。伝える相手が居なかったらその憶測も意味をなさん。ああ、殺すなよ、そいつは俺のもんだ」

 「誰があなたのものですか? そうと分かれば……ここで全員死んでもらうだけです」


 そう言ってバスレーが低い声で言い放つ。

 ラース君の前では絶対に見せない、冷淡な瞳で全員を見渡す。


 「二十三人。残りはソニアさんの護衛にでもついているんですかね」

 「そういうことだ。お前ひとりで何ができる?」

 「いえ、もう到着していますけど?」

 「なんだと?」


 ダガーをくるくると手の中で弄びながら、視線を後ろに向けると、木の陰から義兄であるヒンメルが姿を現す。にこにこした顔のままバスレーの横に並び立ち、不満げに声をあげる。


 「嫌だなあバスレーちゃん。バレちゃったじゃないか」

 「どうせ出てくるつもりだったでしょう? さあ、潔く死んでもらいましょうか」

 

 不敵に笑うバスレーに、アルバトロスも勘に触ったのか目を細めて首を鳴らしながら大剣を構えた。


 「ふたりで勝てると思ってんのか? 仲間を連れてきた方が良かったと後悔するといいぜ」

 「ああ、ラース君達はダメですよ。あの子たちは優しいですからねえ。悪人でも簡単には殺せない子達です。オリオラ領でも、あなた達のお仲間を助けたりしていました。あの子達に見せられないシーンが今から出てきます。だから――」


 バスレーが『右斜め前』と口にした瞬間、向かって右に回りこもうとしていた男の頭が吹き飛んだ。


 「うわあ!?」

 「な……!?」

 「馬鹿な、今何が――」


 アルバトロスが目を見開いて一瞬だけ振り向きすぐにバスレー達へ目を向ける。


 「てめぇ……!」

 「怒りましたか? では、やりましょうか。ラース君達が来る前にカタをつけないといけませんからね。兄ちゃん、お願いしますよ」

 「ああ、福音の降臨が相手なら気兼ねなく殺らせてもらうよ――」

目覚めし女バスレー! ここに降臨?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『本気モード! わ、私にもあるんだからね!』

いいよ見栄張らなくて……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ