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第二百六十九話 ずれる思惑


 「どこへ行くのかしら? だんだん寂しい場所に入っていくわよ?」

 「とりあえず様子見でいいと思う。あいつは最初からどこかおかしかったし。それに俺達をどうにかできるとは思えないしね。それより考えることが増えたのが問題だ」

 「増えた問題?」


 隣に座るマキナが俺の顔を覗き込みながら聞いてきたので頷く。バスレー先生も興味があるといった感じで、真面目な表情を見せる。


 「ルクスのことだよ。すでに捕まっている前提でザンビアに問いかけたんだけど彼は『知らない』と言い放った。軟禁している可能性はあるけど、ルクスの話題を出した時の三人の態度に焦りはなかったことを考えると本当に知らないような気がする」

 「そういえば見つけたら教えてくれって言ってたわね。……あの母親と息子を思い出したらイラっとしてきたわ。態度が大きすぎるわ」

 「!!」


 そうだそうだとかごのなかでセフィロも憤慨する。

 まあガスト領はウチが領主だし、最近見たオリオラ領もヒューゲルさんが少々だらしない性格ではあったけど、横柄な態度は無かった。

 父さんは領民や町民に横柄な態度を取る理由は無いと言う。結局のところ領民に税を納めてもらわないと町の維持はできないし、そんな態度を取り続けていれば人は町を出ていってしまうだろう。そんなことになれば領地縮小、最悪取り上げられることだって考えられるからね。


 「話を戻すけど、彼らがルクスの行方がわからないとなるとまだ捕まっていないことになる。さらに言うと前にバスレー先生が聞いた『母親を殺しかけた』という話にも疑問が残るんだ。さっきあの母親はバーニッシュを上げて、ルクスを下げるような発言をしていたけど、そんなことよりルクスの名が出たらもっと激昂していいはずと思わないか?」

 「確かにそうですね。わたしが大臣だといった時点で向こうからルクス君の話を出してきてもおかしくありません。あの母親は殺されかけたという割には落ち着いて人前に出るのも今思えば不思議ですね」


 バスレー先生の言うこともその通りで、ルクスが捕まっていないのであればまだ狙われることが考えられる。そうなるとあそこまで堂々とするのはよほど肝が据わっているか『そもそもそんなことは無かった』と思うべきか。


 「ほっほ、となるとルクスとやらをあやつらより先に探すことがカギになってくるのう」

 「そうだね……ルクス、無事だといいけど」


 ちょうど話が終わったころ馬車の速度が徐々に落ちていき、やがて停止した――



 ◆ ◇ ◆


 一方そのころ領主邸では――


 「面倒なことになったなあ……大臣が黙って視察に来るなんてさ。それにルクスだと? くそ、探しているのはこっちも同じだってのに」

 「バーニッシュの言う通りよ。あなた、ちゃんと探しているんでしょうね? あの子が持って行ったアレを回収しないとまずいことになる……審問官も来るって言ってるし、学院を卒業して帰ってきた時追放するべきだったのよ」

 

 バーニッシュが苛立ち、それに追従するようにソニアが爪を噛みながら部屋の中をウロウロしながらぶつぶつと呟く。そこへソファに座り顔の前で腕を組んで何かを考えていたザンビアが顔を上げてふたりへ言う。


 「どちらにせよ、バスレー大臣がここへ来たのは事実で審問官も向かっている。しばらくはおとなしくしていれば良かろう。ルクスとナージャはいったいどこへ……」

 「父上、あのふたりのことはもういいでしょう? ルクスは見つけ次第追放か人知れず……。ナージャは適当な貴族に嫁がせてパイプを作る道具にすれば――」

 「バーニッシュ……腹違いとは言え弟と妹だぞ? そんなことを言うものではない。確かにアレを持って姿を消したのはよくわからんが、見つけて話を聞いてからでも遅くはあるまい」

 

 だがソニアはそんなザンビアの言葉を聞いて金切り声を上げて否定する。


 「何を言うのです! あなたと私の正当な子はバーニッシュだけ他の子は必要ありません。そうだ、今度来る私の知り合いのクランについでに探させましょう! それがいいわ!」

 「例の冒険者集団というやつか……? 信用できるのだろうな。しかし、魔物が多いのは事実で農作物はいつもより収穫が悪い。頭が痛いな」

 「……もちろんです。腕は確かで必ず成功させることができます」


 そう言いながら怪しい目をザンビアへと向けるソニアはさらに言葉を続ける

 

 「……そろそろバーニッシュに後を継がせても良いのでは?」

 「ああ、そうだね母上。僕も結構頑張っていると思うのだけど、どうだい父上?」


 得意げに言い放ち髪をかき上げるバーニッシュ。お腹の肉がぷよんと揺れるのを見て、ザンビアは頭に手を置きため息を吐く。


 「確かに働きは認めるが、まだまだお前など私から見ればひよっこだ。それにその腹、だらしがない。そういうところを直すことも考えておくのだ」

 「ッチ……承知しました父上。では僕はこれで……」

 「奥様、お客様見えられましたがいかがなさいましょう。アルバトロスというお名前ですがご存じでしょうか?」


 バーニッシュが応接室から出ていくのと同時に、使用人が入れ違いで声をかけてくる。ソニアはにたりと笑い、早足で使用人のもとへと向かう。


 「あなた、どうやら来たようです。お話をしないといけませんから、ここでお待ちくださいまし」

 「……わかった」


 軽い足取りでソニアが出ていくのを横目で見ながら再度ため息を吐き、ひとり呟く。


 「確かにバーニッシュはそれなりには出来るが、帰ってきたルクスは年下だがバーニッシュより精神的に一回り大きくなっていた……ナージャは毎年対抗戦に行っていたが、ソニアの要望で学院を遠くにしたのがよかったのかもしれんな……それにしても――」

 「お連れしましたわ」

 「む……」


 思考をまとめる前に、ザンビアは客人の応対をすることを余儀なくされた――

 

 


 

何か予約できてなかった。。

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