第二百四十九話 ミニトレントの処遇
「お父さん! お母さーん!」
「ああ、チェル、チェル!」
「この子はもう……でも無事でよかった……」
イルミネートの町に戻った俺達はすぐにチェルの家へと向かい、無事送り届けることができた。
もちろん探しに出ていたので最初両親は家に居なかったが、ロイ達が町に入ってから町中を探すメンバーに声をかけに散開したことですぐに戻ってきたというわけだ。
「本当にありがとうございました! 報酬はギルド経由で受け取ってください」
「いえ、無事でよかったです。これからはこんなことをしちゃだめよ?」
「うん、ごめんなさい」
チェルがマキナに頭を下げ、これでこの件は解決。両親も大枚をはたいた甲斐があってよかったと思う。
それと戻る途中、他の冒険者にもごめんなさいと言っており、慌てふためいたものの健気なチェルの姿を見て全員が胸を撫でおろしていりとほっこりしていた。
そんなことを考えていると、チェルが不安気に俺の袖を引いて尋ねてくる。
「ラースおにいちゃん、トレちゃんはどうするの?」
「あー、そうだな……」
「!」
肩に馴染んでいてあまり気にしていなかったけど、ミニトレントについて聞かれた。その瞬間、肩からミニトレントが飛び降りると俺の足元で大の字になって寝ころんだ。
「なんだ……?」
「!」
「えっと、『覚悟はしているから煮るなり焼くなり好きにしていい』って」
武士みたいなやつだな……。しかしチェルを頑張って守っていたこいつをあの世へ送ってしまうのは少々しのびないと思う。なので、俺はしゃがんでミニトレントを突いているバスレー先生へ聞くことにした。
「なあ、バスレー先生。こいつ、ウチの庭に住まわせたらダメか? 結構言うことを聞きそうだし、トレントの生き残りを説得してもらえるかもしれない」
「ふむ。この子が魔物ですが、対抗戦に来てくれていた方のように、テイマーという職業も居ますから、飼うこと自体は問題ないかと思います」
「あ、それは良かったかも」
「よかった!」
マキナがチェルと手をパンと合わせて喜ぶ中、バスレー先生は続ける。
「それでもテイマーの資格は無いときちんと飼えませんから、とりあえずラース君かマキナちゃんのどちらかが資格を取る必要があります。自警団や城の騎士団、ギルドと防衛大臣には『資格取得予定』とわたしから伝えておきますよ」
「なるほど……なら、俺が取るよ。お前、ウチで暮らすか? 森に帰るか?」
「!!」
俺がミニトレントに声をかけると、ミニトレントは起き上がり改めてお辞儀をする。どうやら俺達と一緒に暮らす道を選んだらしい。その様子に俺はつい吹き出してしまう。
「ぷっ……はは、お前変なトレントだな? お前の仲間は俺が倒しちゃったけど、悪さをしないなら頑張って飼うよ」
「♪」
「あ、喜んでるわね」
「うふふ、トレちゃん良かったねえ」
小躍りするミニトレントを見てふたりが笑い、チェルはミニトレントを抱き上げる。そこでバスレー先生が話をつづけた。
「とりあえず資格が取れるまでこのミニトレちゃんはわたし達の家から出ないようにしましょう。基本的にマキナちゃんとファスさんが修行をしているからいいと思いますが、町中はちょっとまずいです」
「わかった。それじゃ、チェル。こいつに会いたかったらウチに来るといい。ご両親もそれでいいですか?」
俺が視線を変えると、チェルの両親は困り笑いをしながら口を開く。
「ええ、もしよろしければ。そちらの方はお城にお勤めのようですし信用できますわ。気持ち悪いから捨ててきなさいと言ったことがまさかこんなことになると思いませんでした……」
「本当に面目ありません。俺達がすぐにギルドへ行くか森へ連れて行けばよかったんです。あ、どちらのお家でしょうか? 教えていただければ明日お伺いさせてください」
俺は自宅の位置を地図にして渡すと、目を丸くして驚いていた。一応、いい土地らしいから反応としては正しいのかも。
「またねー! おにいちゃん、おねえちゃん!」
「またね!」
俺とマキナ、バスレー先生はチェルの家を後にすると、ギルドへ報酬を受け取りに向かう。
「あ、帰ったね。ご苦労さん」
「送り届けたか? ま、大した額じゃないが見つかってよかったな」
「こういうのも仕事の内だ、金額は問題じゃない。それにしてもラース君は凄かったな……」
「まあ、ずっと訓練していたからな」
「【戦鬼】とか……おっかねぇなあ」
ソネアさんから報酬を受け取り少し会話をする。ロイやドウン達、森捜索に回っていたメンバーはまだ陽も高い時間だというのに酒を飲んでいた。あまり掴まっているとヘレナの晴れ姿を見れなくなるので、また何かあったら声をかけてくれとだけ言いギルドを後にする。
「そういえばさっきは聞きそびれたけどバスレー先生はなんでここにいるのさ?」
「ああ、そうでしたねえ。実は昨日食べたハンブンバカの自慢を兄ちゃんとケディに自慢していたんですが、その時オルデン王子に聞かれちゃいましてね? 危うく家を強襲されるところでした。そこでわたしはちょうど空を飛んでいたラース君とマキナちゃんを発見したので、それを口実に城から抜け出てきたというわけです!」
「うわあ……」
「ハンバーグだよバスレー先生。それと相当どうでもいい理由で出て来たんだ……ケディさんも大変だ……」
「まあまあ、流石に王子を家に招くのはわたしとしても居心地が悪いので勘弁してください。それより、今日もハンバーグ作ってくださいよ! わたし、あれ気に入っちゃいました! このままお肉を買いに行きましょう」
目を輝かせて拳を振るバスレー先生。名前を憶えていなかったくせに、とは口に出さず、俺はこの後の予定を言う。
「悪いけど今日は料理できないんだ。ヘレナの舞台を見れる当日チケットを貰ったんだ。夜はマキナとふたりで劇場でごはんを食べるつもり」
「レストランあったみたいだもんね」
「ばかな……!」
「!」
俺が告げるとバスレー先生は両ひざから崩れ落ち、地面に手をついてはらはらと涙を流す。あまりの様子にびっくりしたのか、ミニトレントがバスレー先生の前でオロオロと右往左往しはじめる。
「折角早めにお肉を調達してやろうと抜け出て来たのに……うう、ミニトレちゃんと泥水をすすって生きます……」
「大げさな……ファスさんと外で食べてくればいいじゃないか」
「とほほ……」
程なくして家に到着すると、ファスさんも戻ってきていて馬を背に庭で寝ころんでいた。
「戻りましたよ」
「おお、マキナ達か。どうやら見つかったようじゃの、良かったわい」
「はい! 師匠は何を?」
「特にすることも無いので昼寝じゃ! ん? それはなんじゃ?」
「えっと……」
俺達はここまでの経緯を話す。ヘレナとミニトレントのこと、夕食は準備できないことを言うと、ファスさんはミニトレントを抱えてまじまじと見つめて口を開いた。
「珍しい魔物じゃのう。いや、トレント自体は珍しくもないが人に慣れる個体は初めて見たわい。あいわかった。ヘレナとやらの活躍を見に行っている間ワシが逃げないよう見ておくぞ。夕食はバスレー、適当に食べようではないか」
「ですねえ……明日は作ってくださいよ!」
「オッケー、肉は頼むよ」
と、諸々のことが決定するとファスさんはポンと手を打って、家に入ろうとした俺に声をかけてきた。
「ふむ、こやつが逃げんように庭をもう少し変えたいが良いか? 金はワシが出す」
「え? うーん、まあいいかな? お金は全部は申し訳ないからいくらかかったかちゃんと教えてほしい」
「律儀じゃのう。承知したぞい」
「楽しみねミニトレちゃん」
「♪」
そんな感じでチェルとミニトレントの事件は幕を閉じ、俺達はヘレナの舞台へ行くための準備を進める。
服は母さんが持たせてくれたちょっといいやつにするか……それにしてもテイマーの資格も取ることになるとは……まあ、【超器用貧乏】ならすぐかな?
さて、次はテイマーか? その前にイベントがありますが……
いつも読んでいただきありがとうございます!
【あとがき劇場】
『てんこ盛りになったわねえ』
さらにこの後驚きの白さに!
『バスレーが消えるの?』
展開的にめちゃくちゃ難しいよねそれ……




