第二百三十五話 ファス師匠の下へ
「……今日は流石に居ないか」
開け放たれたバスレー先生の部屋を覗くと、ベッドはもぬけの殻で、昨日着ていた赤いドレスが床に散乱していた。大事にしていたんじゃないのか……
「ま、いいか。さて、今日は俺が朝食当番だし、マキナが起きる前にさっと作っておくか」
キッチンにあるかまどに火を入れ、フライパンに油をひいてスクランブルエッグを作る。ベーコンをカリッと焼き上げて、スクランブルエッグに添え、コッペパンみたいなパンをバスケットに数本入れテーブルに並べたら次はサラダを作る番だ。
「マキナは好き嫌いが無いから助かるな。トマトとキュウリ、レタスを入れてっと」
サラダを盛りつけたら、最後は豆を挽いてコーヒーを入れたら完成だ。この世界は向こうの世界と近い食材なので、道具さえあれば一人暮らしの長かった俺にできない料理はない。コーヒーが布からこされるのを見ながらひとり呟く。
「メイドさんや母さんが居た家じゃ料理はやらせてもらえなかったから久しぶりだ。向こうの料理を再現しても面白いかもしれないな。ステーキもいいけどハンバーグとかカレーが食べたいんだよなあ……ラーメンは……暴れ猪を豚骨に見立てればあるいは……?」
なんてことを考える余裕があるくらいゆっくりした朝だ。そういえばヘレナにも会って家を教えておきたいなレオールさん……は、ここには居ないんだっけか。
それでも衣装は卸しているから、衣装屋さんには行って俺のデザインした服がどう並んでいるのか確認したいところだ。
「……ベーコンのいい匂い……昨日はいっぱい飲んだけど、この匂いはお腹がすくわね」
「ん、おはようマキナ。コーヒーもあるよ」
マキナが部屋から出てきて俺は思考を中断し、テーブルについたマキナに木でできたコーヒーカップを手渡す。
「ふーふー……うん、美味しい! 夜は私が作るから楽しみにしててね」
「そういえばマキナの料理は食べたことが無いな。食材は保存しにくいから商店街でまた買ってこないと」
「商店街に行くならお魚も食べたいわねー」
俺達はバターやジャムをパンを塗りながら夕食の話をする。昨日の宴会でのこともあり、朝食自体は軽めに作った。なのですぐに朝食を終え、今日の目的であるファスさんの下へ向かうため準備を進める。
「今日は馬たちは置いて行こうか。バスレー先生も居ないし、トレーニングがてら歩いて行こう。レビテーションで飛ぶこともできるしな」
「学院時代はよくやっていたから懐かしいわ。まだそんなに経ってないんだけど……あれ?」
家の鍵をかけていると馬たちがぽくぽくとやってきて俺達にすり寄ってくる。餌は上げたはずだけど?
「ぶるるる」
「なあに、あなたたちも行きたいの?」
「ひひーん」
そうだと言わんばかりに嘶くジョニー。
「今日は俺達だけだから悪いけど留守番を頼むよ。また散歩には連れてってやるから」
「ぶる……」
俺がポンポンと首を撫でてやると、不満げではあったが二頭は庭へと戻り静かに庭に座り込んだ。ああ、干し草のベッドとかもあるといいかもなあ。
馬たちが逃げないよう鉄柵の外扉もしっかり施錠し、俺達はファスさんの山へと向かう。
「くっくっく、昨日は酷かったみたいだな? 山に行くのか、気をつけてな」
依頼に出ていく冒険者に聞いたのだろうグルイズさんが笑いながら見送ってくれた。まあ、俺がリューゼやジャック達とどんちゃん騒ぎをやってヨグスやウルカにそれを言われるものだと思えばあり得るかと苦笑する。
「ほっほ……」
「はっ……はっ……」
門から出た後はジョギング感覚で山へ向かい、途中出てきた魔物を倒しつつファスさんの住む家へと到着。久しぶりに走ったけど――
「はあ……はあ……町からだと……山道が……はあ……キツイな……」
「ラースが……ふうふう……疲れているの、久しぶりに見たわ……」
汗だくでノックし、タオルで汗を拭きながらファスさんが出てくるのを待つ。すぐに扉が開き、ファスさんが顔を出して口を開く。
「おお、お主らか。昨日の今日で遊びに来てくれるとは嬉しいのう」
「えっと――」
「待って、私から言うわ」
俺が喋ろうとしたがマキナが俺の肩に手を置きファスさんの前に出る。その雰囲気にファスさんは片方の眉を上げ、マキナの言葉を待つ。
「……私、ファスさんの弟子になりに来ました! 私でよければ技を教えてください」
「何と、これほど早く決心するとはババアちょっと驚いておるぞ……い、いや、しかし善は急げという。マキナよ、辛く苦しい修行になるが良いのじゃな?」
「はい!」
元気よく返事をしたマキナに笑顔でうなずき、ファスさんは玄関を出て庭へと足を運ぶ。
「よし、ではマキナ、早速お主の実力を手合わせで見せて貰おうかのう」
「……! わかりました……!」
ファスさんの前に立ち、マキナが構えるとファスさんもスッと腰を落として右手を広げて前に突き出し、左手は拳を握り、腰に当てて正面に立つ。
……雰囲気はサージュと初めて会った時のティグレ先生と同じ空気をまとっている。家の壁を背に立っている俺のところにもピリピリした空気を感じる。
「さ、マキナからで良いぞどこからでもかかってくるのじゃ」
「……いきます!」
間違って書いていたデータを消してしまい短めに……すみません……
いつも読んでいただきありがとうございます!
【あとがき劇場】
『パソコンを変えた弊害がまさかこんなところで……』
いや、私が悪いんだよ単純に……




