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没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで 【書籍発売中】  作者: 八神 凪
~ブライオン商会の危機編~

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第百七十四話 家族


 『ようアルジャン、元気そうだな』

 「お、親父……か!?」


 ウルカが【霊術】を使いどうも俺達の近くにいたらしいお父さんを呼び出し、薄っすらとだけど姿を見ることが出来るようになった。

 白いシャツに角刈りといかにもな親父さんが歯を見せて笑い片手を上げると、アルジャンさんが慌てて走ってきてお父さんに触ろうとして……こけた。


 「ぐあ!?」

 『こらこら、俺はもう死んでるんだ、抱きしめようだなんて思うなよ?』

 「早く言えよ! ……ちょ、ちょっと待ってくれ母ちゃんを呼んでくる!」

 『あー、いい、いい、母さんが見たら気絶しちまうよ。お前に伝えたいことがあってこの子にお願いしたってわけだ』

 「親父……」


 アルジャンさんが呟くと、お父さんはコホンと咳ばらいをして腰に手を当て、俺に向かって口を開いた。


 『君、もう一度その剣を抜いて俺のところまで来てくれないか?』

 「え? いいですけど」


 俺は言われるまま剣を抜いて傍に行く。剣を目の前に掲げると、お父さんは目を細めて剣の周りをウロウロし始め――


 『……合格だ』

 「合格?」

 『ああ。加工、火の入れ方、装飾……全てにおいて俺とほぼ同格。いや、むしろ僅かに上回っているか?』

 「……へっ、ほんのちょっとかよ」


 鼻を指でかきながら悪態を吐いているけど、アルジャンさんの目には涙が光っていた。お父さんはそれを聞いてにやりと笑う。


 『そりゃあ俺にもプライドってぇやつがあるからな! いや、しかし最後の最後、詰めが甘いのを指摘してやる前に死んで心残りだったんだが……見事に乗り越えてくれたな』

 「ここにいる先生のおかげだよ。それと、素材を提供してくれたこいつらのよ」

 「どうも」


 ティグレ先生が手を上げると、お父さんは眉を片方吊り上げてから言う。


 『ほう……相当強いなあんた。なるほど、あんたほどの男なら見極めもできる、か』

 「俺は見たままを言っただけだ。それを受け入れて、改善をしたのはあんたの息子さ」

 

 ティグレ先生は肩を竦めてそう言い放ち、お父さんは笑みを浮かべる。するとアルジャンさんがポツリと呟く。


 「親父が死んで、職人は離れちまって客は来なくなった。俺の作ったもののどこが悪いって腐りもしたが……やっぱ親父にちゃんと見てもらえなかったのが一番辛かったんだなあ。ありがとう親父……」

 『はっはっは! 男が泣くな! ったく、小せえ頃からの泣き癖は変わってねぇな! 悪かったな、帰ってきてすぐに逝っちまって』

 「おいおい、すり抜けてるじゃねぇかよ……くく……」


 お父さんはアルジャンさんの頭に手を乗せようとしてすり抜け、ふたりは顔を見合わせて大笑いをした。

 

 ウチもそうだけど、親子仲がいいのはどこも同じ。親が子を心配するのは当然のことだと改めて思う。父さんにソリオさん、ルツィアール国の国王様にアルジャンさんのお父さん。形は違い、誤解を生むこともあったけど、それでも最後はきちんと解り合えていた。

 ……ブラオも自己の嫉妬心はあったろうけど、リューゼのためというのもあったろう。手段はともかくとして。

 そう思うと前世での家族は、きっと血は繋がっていても家族では無かったのだろう。自分達より下の存在を作って気分を落ち着かせ、金を運ぶ道具というところか。また少し、頭の中がすっきりしたような気がした。


 「にしてもすげぇなウルカ。もう冒険者じゃなくて、別の仕事でもいいんじゃないか?」

 「うん……でもね、僕はこれをお仕事にはしたくないと思っているよ」

 「どうして?」


 リューゼの問いにウルカは困ったように答え、マキナが聞き返す。


 「あの人もね、未練があってこの辺をずっと彷徨っていたんだ。最近分かってきたんだけど、死んで幽霊になってから日が浅いとあんな風に意識もそれなりにはっきりしているし、意思疎通ができるんだけど、もう何十年も経っていくと自分がなんだったのかすらわからなくなるみたい。それがもどかしくて悪意をぶつけるゴーストになるんだ」

 「そうなんだ……なんか寂しいね」


 パティが目を伏せると、ウルカは続ける。


 「でも、僕はそんな人達がこの世の未練を失くしてあの世に行ってもらうように手伝いたいなって思ってるよ。死んだ人からお金はとれないかな? なんてね」

 「あれ、でも対抗戦で出たスケルトンとゴーストはなんだ?」


 ジャックが問うと、ウルカは困惑しながら言う。


 「ヤーマスさんとオーグレさんだね。あの二人は死んだ息子さんに似ている僕を守るんだって言っててね。僕が寿命を全うするまで逝かないって言うんだ。会った時はぼんやりしてたんだけど精神力が強いんだろうね。あの姿でも意思疎通が取れるんだ」


 うーん、グリエール皇帝のネクロマンシーよりも高度な能力を手に入れたなと思う。でも、冒険者志望のウルカには心強い味方かもしれない。


 「久しぶりに挨拶する?」

 「ややややや、止めて! ごめん、本当にお願いだから……! アルジャンさんのお父さんでギリギリなのに……」

 「あ、そうだったね」


 ウルカが呼び出そうとしたものの、マキナは幽霊の類が苦手なので慌てて止められ、少し残念そうに言う。そしてふたりが色々話しているのを見ていると、アルジャンさんが俺達に向き直り笑顔でとんでもないことを言いだした。


 「お前等、どれだけ俺を喜ばせてくれるんだ! お前らの欲しいもの全部タダでやってやるよ!」

 「えええええええ!? そ、それはダメでしょ! 生活だってあるのに!」

 「気にすんな、それくらい今、親父と話せたのは価値があるってこった。ほら、素材と欲しいもの書いた紙を置いていきやがれ!」

 「マジか……」


 ジャックがごくりを息を飲むと、ティグレ先生がその頭に手を乗せる。


 「まあ職人ってのは変わり者が多い。だが、本当の価値を知っているやつも多いってな。百万ベリルより親父さんってことだな」

 「アルジャンさん嬉しそうだもんねー!」

 「僕達もこういうの、見習いたいね」


 ノーラと兄さんがそんなことを言い、作って欲しいものリストをそれぞれ大きなテーブルに置いていく。

 すると、工房にルシエール達が入ってきた。


 「終わったわよー」

 「あ、私もメモを書きたい!」


 ルシエールはマキナ達の様子を見てテーブルに駆け寄るが、お母さんはアルジャンさんとお父さんを見て固まっていた。


 「あ、あんた……!?」

 『あ、か、母ちゃん! ……よう』


 バツが悪そうにお父さんが頬をかきながら目を逸らす。会わずに成仏したかったと言っていたからそのせいかな?


 「よう、じゃないわよ! どうして……」


 お母さんが駆け寄り涙ぐむ。お父さんは事情を話し、お母さんがウルカにお礼を言った。


 「ありがとうね。もう会えないもんだと思っていたから……」

 「いえ、僕は最後に伝えたかったことを後押ししただけですから」


 ウルカがそう言うと、お父さんが少し思案した後、ウルカに聞く。


 『なあ、俺はすぐ成仏しなきゃいけないのか? それとこの姿はいつまでいられる?』

 「え? ううん、本人がそう思わないと逝けないです。僕がもう一回霊術で消すか成仏するまではそのままですけど……まさか……」

 『よし! なら俺はもうちょっとここに居るぜ。母ちゃんが死ぬまでな』

 

 またとんでもないことを言う。この父にして息子ありって感じだ。


 「ウルカ、悪霊になったりしないか?」

 「うーん、本人の意思が強いから大丈夫だと思うよ。今は姿が見えるか見えないかの差だけだし、見えなくても悪霊にはなるし」

 「職人はすげぇな、おい……」


 本人たちがいいなら、とそのままお父さんは残るとのこと。ティグレ先生が呆れていると、また工房に誰かが入ってくる。


 「すみません……先輩たちに言われて一緒に出ていったんですが、やっぱり納得いかなくて……雑用でもなんでもいいので居させてもらえませんか!」


 と、姿勢を正して大声で叫ぶ青年。俺達が見守る中、お父さんが声をかけた。


 『なんだ、クアじゃないか。……そういや誰も居ないのはおかしいと思ったがそういうことか』

 「お、親方!? 亡くなったはずじゃ……」

 『まあ、見ての通り幽霊ってやつよ。で、どうするアルジャン?』

 「……」


 クアという人が尻もちをつき、アルジャンさんが無言で近づいていく。クアさんがおっかなびっくり見上げていると、アルジャンさんはニカっと歯を見せて笑う。


 「俺の名声が上がって帰ってきたって訳ではなさそうだな?」

 「……! は、はい。出ていってこんなことを言うのも勝手ですが、親方たちと居たここが楽しかったんです……本当にすみませんでした!」

 「しょうがねえなあ。また手伝ってくれるか? 次はねえからな」

 「はい……はい!」


 クアさんは涙を流しながら土下座し、アルジャンさんは頭をかきながら立たせていた。本心は分からないけど、彼は大丈夫のような気がする。

 

 そんなドタバタした工房での出来事だったけど、アルジャンさん達が嬉しそうで良かったなと思う。ウルカのおかげだけどね。そしてオーダーを全部聞き入れてくれ、俺達は工房を後にした。

 


 ――そこからは何事も無く穏やかに学院生活を送り、二か月後にはサージュのくれた素材は全てそれぞれの欲しいものに変わり、受け取った。それから程なくして兄さんとルシエラが学院を卒業。

 

 俺達は進級し、授業にギルド部、対抗戦や実践訓練、キャンプに子守……色々な出来事を綴っていった。

 たまに喧嘩し、仲直りし、女の子のことでからかうという、ごく普通の、俺が以前手に入れられなかったもの、全部。


 そしてみんなとの楽しい日々は、卒業という区切りを迎えていったんの終わりを迎える――

次回で少年編、ラスト!

リクエストの多かった幕間を二話挟んで次章へと向かいます!


【あとがき劇場】


『いい話だったわね』


ここまでで家族の在り方を書きたかったのですよ。次からはラース君個人がどう生きていくか? に変わっていく予定。


『飲んだくれとかだったら意表をつける……?』


誰も読まないだろ……お前がやるか?


『ぜひ!』


やめれ

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