表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/630

第百三十六話 実力差


 「ぐがー……」

 「うわあ……リューゼ君ぐっすりだよ……ふあ……」

 「大丈夫、クーデリカ?」

 「うんー……ちょっと吸っちゃったかも」


 大口を開けて寝入るリューゼをつつきながらクーデリカがあくびをしながら俺に振り返る。気絶したルクスは早々に救護され、続いてリューゼを迎えにこちらに向かってくる。


 [一戦目は激戦でしたねぇ。ルクス君は策士のようなポジションのような感じでしたがリューゼ君に轟沈。眠り粉をAクラスに撒くとは最後まで悪あがきを忘れていませんでしたぁ]

 [ルール的には『あ、転んじゃった! てへ』という言い訳が出てきますが、あまり褒められた戦法とは言えないというところでしょう、観客席は少々ざわついていますね]

 [ですねぇ。あ、今の言い方可愛かったですねロザリア先生]

 [う……さ、さあ、次の試合が始まりますよベルナ先生。Aクラスはラース君、Cクラスはセプター君が戦います]


 実況ではルクスの眠り粉についての話が出ていた。

 妨害などは寛容だけど、行動不能……競技の続行を不可能にするのはダメなのだろうか? そういえば上級生はスリープみたいな魔法は使ってない気がする。


 「……どこを見ている?」

 「あ、いや、ちょっとね」


 俺がCクラスを見ていたら目の前に居る相手に声をかけられ向き直る。

 セプターは目が細く、体も細身で戦闘を行うような感じはしない。武器はダガーより少し長いショートソードタイプの木剣を使うらしい。そんな彼がため息を吐きながら口を開く。


 「ルクスか? あいつはまだ目を覚ましてない。あいつの策に色々乗ったものの、追いつかなかったな。いや、正直完敗だ」

 「ウチは負けないように全員で協力して練習していたからね。そっちはどうだったんだい?」

 「練習はしていたけど、まあ授業の延長レベルだ。もちろん俺もな。ルクスは練習していたかどうかも知らん。まあ、ホープは真面目だし、ネミーゴはジャックがいるから頑張っていたみたいだけどな。女子は……あんまり話さないからわからん……」


 女子と話さないタイプか。

 今でこそ俺もクラスメイトの子と話しているけど、実際の十歳なら仲良くなるか、話さない俺かっこいいになるかのラインだ。セプターの気持ちは分からなくもない。

 セプターはスッと腰を落としてショートソードを逆手に構えて細い目をさらに細めた。俺も剣を半身で構えて応戦の形を取ると、目をこすりながらティグレ先生が手を振り下ろす。


 「ふあ……くそ、始めだ始め……!」


 俺は吹き飛ばしたけど、ルクスのウインドで舞った粉がここまで影響するとは、と俺は若干驚いていた。

 

 「……」

 「……」


 さて、セプターとの戦いに集中すべく構えたまま見据える。構えはかなり低く、ほぼ前傾姿勢と言っても過言ではない。一気に踏み込むタイプか? 体格的にスピードが速いと見える。


 「……来ないのかい?」

 「お前の強さはおかしいからな、慎重にやるつもりだ」


 突っ込んでくることは無さそうかな? じりじりと間合いを詰めているので、自分の距離まで動かないのかもしれない。なら俺から――


 [さあ、様子見と思いきや仕掛けたのはセプター君でしたぁ!」

 [言葉での駆け引きは一歩リードというところでしょうか?]


 「フッ!」

 「ん!?」


 俺から向かおうかと思った瞬間、急に逆手に持ったショートソードを、とても小さい動作で投げつけてきた。ショートソードを剣で弾くと、目の前にセプターの顔がぬっと現れた。


 「ハッ!」

 「おっと! 武器が無いけどいいのかい?」

 「……」


 [ラース君もいい動きをしますね。動揺して一発くらい貰いそうなものですが、きちんと避けていますね]

 [挑発をかけたみたいですけどセプター君は冷静ですねぇ]

 

 ベルナ先生の言う通り俺の言葉には答えず、鋭い拳を繰り出してくるセプター。恐らく武器を持っていること自体がフェイクで格闘の方が得意ということだろう。


 「なら、距離を取って俺の間合いで勝負すればいいだけだ! <ファイアーボール>」

 「この距離で!?」


 俺は足元にファイアーボールを撃って爆発させる。それほど大きくないので、爆発の規模は小さいけど驚かせるのと俺が間合いを取るには十分な時間だ。


 [流石にファイアーボールを至近距離で撃つのは驚きますよねぇ♪]

 [自分のことを考えていない無謀にも見えますけどどうでしょうか。あ、砂煙の中からラース君が飛び出しましたね]


 「食らえ!」

 

 何度も繰り返し振っている剣撃をセプターの右手首と左肩に当てると眉をしかめるのが見えた。このまま押し切れば俺の勝ちだ……!


 「さすがに強い……! だが、俺は左利きだ、まだ拳は打てるぞ!」

 「何!?」

 

 それは俺も盲点だった。クラスに左利きは居ないので、つい癖で右手を狙ってしまった。あ!? こいつその認識を錯覚させるためショートソードを持っていたのか。だけど、そのくらいのフェイクで俺は負けるつもりはない!


 [さあ、まさかの左利きだったセプター君、初見殺しとはこのことでしょうか]

 [志望は冒険者みたいですからね、あの手のこの手を考えているんだと思いますねぇ]


 確かに意表を突かれたけど、自分で言う通り練習不足感は否めない。


 「避けられた……!? 完璧に裏をかいたと思ったのに!」

 

 俺はすぐに上体を逸らし、顔面を狙ってくる拳を回避。風を切る音が耳に入るが、気にせず、剣の柄を鳩尾にぶち込んでやる。


 「げほっ!?」

 「離れるんだ……!」

 「ぐあ!」


 鳩尾に攻撃が入ると、セプターがたららを踏み距離が離れる。そこへ俺は力強く踏み込んで胴を薙ぐ。鉄鎧がボコンと鍋を殴ったような音を立て、セプターがくの字に曲がる。


 「<ファイアーボール>!」

 「うわあああ!?」


 地面に倒れこむセプター。そこへファイアボールを放つと、セプターの脇で爆発し転がっていく。そして仰向けのまま動かなくなった。


 [直撃はしていないようですが……?]


 ロザリア先生が呟くように言う。確かにピクリとも動かなくなり、目線をティグレ先生に向ける。眠そうなティグレ先生だけどきちんと悪い目つきをさらに悪くして様子を伺っていた。


 「……気絶した、かな? ティグレ先生、俺の勝――」

 「そこだ!」


 俺が一瞬、ティグレ先生に目を向けた瞬間セプターが起き上がりいつの間に手にしていたのか、ショートソードを俺の顔面に向かって投げつけてきた。


 だが――


 「……降参する。ティグレ先生、俺の負けだ」

 「ん? お、おお! Aクラス、ラースの勝ち!」


 ――セプターが動く気配を感じた俺はショートソードを弾き飛ばし、倒れているセプターの顔の横に剣を突き立てていた。


 「よっと……立てるかい?」

 「ああ、意表をついたがまったく意味が無かったな。本当に強いというのはそういうところなのかもしれない」


 俺はセプターの手を取って立ち上がらせると、セプターはそんなことを言った。それを聞いて俺はティグレ先生の方をチラリと見てから、


 「ティグレ先生が真っすぐな人だからね。俺達も正攻法で戦えるだけの力をつけるよう努力したんだよ」

 「なるほど。ウチの担任はサムウェル先生だけど、おっとりしているからなあ。あんまり他のクラスと交流が無かったけど、今度模擬戦やってくれるか?」

 「もちろんいいよ」


 俺が笑ってそう言うと、セプターはきょとんとして肩を震わせて笑う。なんだろ?


 「……いや、かなわないな。次は負けないよ。ルクスの妨害で迷惑をかけた。すまなかったな」


 そう言って踵を返しフィールドを出ていった。セプターはいいやつみたいだ。他クラスの子を集めて遊ぶのも楽しそうだなと思いながら俺もみんなのところへ戻った。

 

 「おかえりなさい! かっこよかったわ!」

 「うんうん! ファイヤーボールをあんな風に使うなんて!」

 「ぐおー……」

 「あはは、リューゼも流石だって言ってるよ多分」

 「はは、本当に?」


 ウルカがそう言って笑い、俺達も大声で笑った。次はクーデリカの番だ。無差別はまた違ったクーデリカが見られそうで楽しみだ。

ラース君、危なげなく一勝!


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『ま、余裕よね』


一年坊主じゃこんなもんよね。来年から頑張って欲しい……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ