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第百五話 目標とサージュとハウゼンさん


 「ん……」

 「あ、気が付いた! 良かったぁ……」

 「あれ? ルシエール……? ……痛っ……」


 目を開けるとルシエールが俺の顔を覗き込んで安堵の表情を見せてくれた。どうやらティグレ先生に気絶させられて寝かされたようだ。


 ……正直、もう少しマシな戦いができると考えていたけど、このざまである。思いあがっていたなと痛感する。サージュを連れて帰り、グリエール皇帝を退けるために一役買ったけど、所詮十歳の体ではこんなものなのだと。

 だけど、それなら次に勝てる努力をするだけだ。俺はずっとそうやって来たし、ずっと負け続けていた人生なんだ、今更負けたところでウジウジするのは馬鹿らしい。

 逆にティグレ先生を越えることが出来れば、恩返しになるかもと思うとワクワクする。あの人はそういう人だ。


 「よっ……いてててて……」

 「起きたらダメだよ!?」


 とりあえず起き上がろうとしたけど、左腕に激痛がはしり身を動かすことができなかった。顔を横に動かすと、マキナとクーデリカが戦っていた。

 

 「やあああ!」

 「ええい!」


 二人の形相は珍しく険しい。

 剣での激しい打ち合いがそうさせているのだろう、半泣きで戦っている。思わず俺は呟く。


 「すごい気合いだ……練習に身が入っているね」

 「う、うん……」


 何故か微妙な表情で俺から目を逸らすルシエール。なんだろうと思っていると、グラウンドの片隅に人が倒れているのが見えた。


 「あれって確かマッシュさん、だっけ? なんで倒れてるんだい?」

 「あ、えっとね――」


 ルシエールが口を開こうとした時、リューゼがこちらへ近づいてきた。顔に青あざを作り、笑顔で向かってくる。


 「起きたかラース! 俺もティグレ先生と戦ったけど、ありゃ無理だな! ははは! 見ろよ、ベテランだって言うマッシュですらあのザマだぜ」

 「あ、ティグレ先生と戦ったんだ? ていうかあの人大丈夫なのかい。……いってぇ……」

 「ラース君、回復魔法はどうなの?」

 「あ、そっか」


 言われて俺は早速回復魔法を使う。


 「<ヒーリング>」


 だけどケガの度合いが酷いようで、腫れが若干引いて色が薄くなった程度で効果が無くなった。

 ヒーリングはリューゼを助けた時に相当使って【超器用貧乏】で性能が上がったけど、魔法自体の限界があるため、このケガはここまでしか治らないのかもしれない。……というか折れてるかヒビが入っているかも……ヒーリングは傷を塞ぐにはいいんだけどこういう症状には効きにくいみたい。

 まだ上の魔法があるとベルナ先生に聞いているから、そっちをきちんと覚えないといけないのだろうと思う。

 それはともかく、俺の左腕は動きそうにないのでがっかりとしてぽつりと呟く。


 「これは母さんの薬か病院かな……」

 「今日はもう練習は無理だな、そこでゆっくり寝てろよ、ルシエールもクーデリカ達と交代してやれよ? ウルカ、投擲、急がなくていいだろ? 折角だし相手になってくれよ」

 「あ、うん、いいよ。僕で良ければ」

 「待って、リューゼの顔にも回復魔法をかけておくよ」

 

 サンキューとリューゼが言い、ウルカを引っ張ってまたグラウンドに戻る。本当は俺と戦う予定だったので申し訳ないなと思う。するとそこへティグレ先生もこっちへ来て俺に頭を下げた。


 「目が覚めたんだな、いや、すまねぇ勢いがつきすぎちまった……」

 「大丈夫だよ。本気でって言ったのは俺だしね。でも全然本気じゃないのに、あっさり負けちゃったからやっぱり先生は強いね」


 魔法があればとも思うけど、正直そんな小細工で勝てるとは思えないほどでたらめな強さなので無理かな。だけど、卒業するまでティグレ先生と訓練を続けてこの先、戦闘技術を取りこんで役立てたい。

 ……王都に行けば色々な人がいるだろうし、強くなって損はない。今まで会った人間の中でティグレ先生を越える人は居ない。ただ一人を除いては。


 そのただ一人、レッツェルのような相手がこの先現れないとも限らない。その時ティグレ先生が助けてくれるわけもないしね。

 

 そんな俺の言葉にティグレ先生は頭を掻きながら笑う。顔が怖い。


 「はは、まあこれしか取り柄が無いからなぁ。お前達はまだ色々できる可能性があるから、羨ましいぞ? 俺も色々やりたかったな」

 「でもベルナ先生と結婚できるんだからいいじゃない」

 「……まあな。俺の人生、捨てたもんじゃねぇな。お前達のおかげだぜ」


 そう言ってリューゼやマキナ達の指導へ戻る。


 「嬉しそうだね、先生」

 「だな。あれは大変だったけど……ってそういえば荷物に忍び込ませたのはルシエールじゃなかったっけ? 怒られたんじゃないの?」

 「えへへ……」


 ペロッと舌を出すルシエールは恐らくこっぴどく叱られたのかもしれない。ただ、ノーラをあの場に連れてきてくれた功績は大きい。

 

 「俺達は助かったけどね。サージュも、暴れなくて済んだし」

 「うふふ、サージュちゃん面白いよね。かわいいし。でも、休みの間は家にみんなが遊びに行っていたけど、学院が始まったから寂しがってるんじゃないかな?」

 「あはは、そんなことはないよ。母さんやニーナもいるし、帰ったら遊んでるよ?」


 と、笑っていると――


 <……ース>

 「あれ? 今サージュちゃんの声が聞こえなかった?」

 「え?」


 ルシエールがキョロキョロしながらそう言い、俺も耳を澄ませてみると――


 <ラース、ここにいたか>

 「ええ!? サージュ!?」


 小型サージュがパタパタと空から俺に声をかけながらやってきた。


 「サージュ、ダメだよ勝手に家を出たら。誰かと一緒じゃないと誘拐されるかもしれないよ?」

 <うむ。我はペットじゃないから大丈夫だぞ? それに我だけじゃない>

 「え?」


 サージュが裏口の扉に目を向けると、慌てて訓練場に入ってくる場違いな人物が目に入った。


 「サージュちゃん! わたしから離れたらダメだって言ったじゃありませんか!」

 「ニーナ!? どうしてこんなところに!?」


 何と入ってきたのはウチのメイド、ニーナだった。メイド服のままパタパタとサージュに怒りの声を上げ、飛ぶサージュを掴まえて胸元に抱いた。そして経緯を話しだす。

 

 「サージュちゃんが退屈だって言いだして、散歩で良ければと連れ出したんですよー。そしたら、学院へ行けと……」


 どうも、ルシエールが言っていたように、毎日誰かしら遊びに来ていて楽しかったのが、学院が始まった途端忙しくなり来なくなったのが堪えたようである。

 で、ニーナに散歩と称して学院へ行ったものの、乗馬訓練をしていたノーラに怒られたのだとか。それでヨグスに俺がここに居ることを聞いてやってきたというわけだ。


 「お前なあ……」

 <我も一緒に居させてほしい。屋敷の母君や父君は優しいが、遊んでくれるわけではないからな>

 「そりゃそうだよ……あいた……!?」

 「あ!? ラース様、そのお怪我は!?」


 俺が身を起こそうとしてやっぱり腕に痛みが走り、呻くとニーナが支えてくれた。


 「回復魔法じゃこれ以上治らなくてさ」

 <ふむ、我の血を飲むか? すぐ治るぞ多分>

 「うーん、ここじゃちょっとなあ……」


 ここに居る冒険者の人は知っている顔だし、最初のドラゴン騒動でサージュの存在を知らないわけじゃない。

 けど、サージュの血の効果までは知らないし、さっきも言ったように誘拐しようと企む人がいるかもしれないから迂闊なことはできない。


 「まあ、今は我慢するよ。俺が招いたことだしね」

 

 俺が苦笑してそう言うと、ニーナが出て来た裏口からハウゼンさんがなにやら救急箱のようなものを持ってやってきた。


 「おお、目が覚めたか! ギブソンと薬を集めてきたぞ、どれか効くだろう。……いや、あなたは?」

 「初めまして。わたし、ラース様の屋敷でメイドをしているニーナと申しますー」


 余所行きのフェイスでお淑やかに挨拶をするニーナ。俺とルシエールが笑いをこらえていると、ハウゼンさんの様子がおかしいことに気づく。 


 「お、おお、ああ、はい、お、俺はギルドマスターと言います。このぎるどでハウゼンをやっています!」

 「ハウゼンさん、自己紹介がおかしいことになってるよ!?」

 「お、おお……そ、そうだな……」


 ……んん? ハウゼンさんの様子がおかしい?

あれ……?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


ニーナさんにもそろそろ……


『退場?(鼻ほじ)』


違うわ馬鹿者! あと鼻をほじるな!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者ならともかく、この世界のメイドとしては、 焦っておかしくない年齢だろうしな 主人公を成長させる必要があって時が進んでしまい、 必然的に年を重ねることになって心配してたけど、 作者が無理…
[一言] 次はニーナの番(o^^o)
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