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「ルーニー」が存在する世界

王子さま と お姫さま

作者: 音塚和音

『白百合と青い石』を読まれている方向け短編小説。

番外編のようなものです。

「しずかに~、新しい仲間を紹介する。飛び級でクラスメイトになった セナ・サルバドールだ。歳は下だがルーニーの強さとセンス、頭脳の方も優秀だ。仲良くするように。」


クラスの担任が新しく入った子のことを紹介した。

しかし名前の「セレイナ」が「セナ」になっていたが、訂正するのも面倒に感じた彼女は挨拶だけをした。


「よろしくお願いします。」


おかげで以後クラスでは「セナ」と呼ばれるようになってしまった。

セレイナ本人はニックネームだと思うことにしたらしい。


この王立学校は絶対的に女子が少ない。

それは女子の殆どは淑女教育という名の女学校へと行くからだ。

上位貴族であり、魔力の強いセレイナは女学校ではなく魔導科のある王立学校へ進学をした。

ほぼ男子という中ではあったが優秀さと元来の負けず嫌いも伴って、初等科3年生の男子より男子らしくなってしまっていた。

入学してからは背がぐんぐんと伸びたので歳が下には見られることはなかった。

兄が2人いるうえに学校では必然的に男子といることが多く言葉使いもそのようになり、剣術・魔導をするので当たり前のように動きやすい服装 = 男子の服装(兄のお下がり)をしていた。

入学当初の教師の紹介が足らなかったことと男女を強く意識する年齢でも無かったため、クラスメイトはセレイナのことを「男子」の「セナ」だと思っていた。


程なく仲良くなったのは、シルベスとアーノルドという男子だった。

学校が夏休みになったある日にシルベスの家で遊ぼうとクラス全員が誘われた。

皆が「すごい!」と言うシルベスの屋敷も、セレイナにとっては自分の家と大差ないので特に何も思わなかった。

そしてこの立派な屋敷で「かくれんぼ」をすることになった。

フィルダナ家の全面協力で鍵がかかっている部屋以外はすべてが隠れる場所だ。

こうして屋敷全体を使っての 大かくれんぼ大会 がスタートした。



貴族の屋敷などどこも似ているものなので、見当をつけながら2階に上がった。

階段を登りきったところでばったり小さな女の子と逢った。

女の子は一瞬驚いた表情をしたがセレイナと目が合うとポッと顔を赤らめ、踵を返してタタタッと走って行ってしまった。

セレイナは少女を気に留めることなく隠れる場所を探して奥へと進んで行き、一つの部屋の扉を押してみると鍵はかかっておらず簡単に開いた。

中に入るとその部屋はとても可愛らしい装飾がされていて、部屋の奥には絵本を抱えた可愛らしいお人形…ではなく、先ほどの少女がぽかんと佇んでいた。


「ごめんね。あなたの部屋だった?」


そう謝って部屋を出ようとしたところ


「まって、おうじさま!」


そう呼び止められた。


今日はクラスメイト(男子)と力いっぱい遊ぶために学校に通う時と同じ男子の服装だった。

セレイナは「おうじさま」って…?と戸惑う。


「ごめんね。私は王子様ではないよ。」


少し申し訳なく思い、女の子にそう告げると少女は絵本を持ってゆっくりと近づいてきた。

その絵本の表紙には王子様とお姫様が幸せそうに手を取り合い微笑み合う姿が描かれている。

女の子が絵本の王子様を、次にセレイナを指さして「おんなじ!」と頬を赤くして言う。

確かに王子様は直毛で背までのばした金髪を細い赤いリボンで一つに結んでいた。

その瞳は夏の空色で背は高く…女の子にとっては自分より背が高いのでそう見えるのだろう…、そして細身の体型がセレイナに似ていた。

おまけに偶然にも今日セレイナが着てきた服装と色が一緒だった。

女の子の純粋な瞳と想いをセレイナは無下にしてはいけないと思った。

ふふっと笑みを零したセレイナは、


「お姫様、あなたのお名前は?」


小さな女の子の夢を壊さないように、その場に跪いて女の子の手を取り王子のまねごとをした。


「マリアンヌよ。」


「マリアンヌ嬢、ここでお会いしたことは二人の秘密です。またいつかお会いしましょうね。」


セレイナは取っていたマリアンヌの手の甲にキスをして立ち上がると、その部屋から出た。

暫らくぽ~っと呆けていたマリアンヌだったがハッと気を取り直しパタパタと走って、重い扉をどうにか自分で開けたときには『王子様』の姿はもうどこにもなかった。

扉の前でキョロキョロと辺りを見渡していると乳母に「昼食にしましょう。」と促され、ワゴンを押してきた侍女と共に部屋に戻されてしまった。




マリアンヌの部屋を出て早足に階段を下りていたセレイナは、途中で自分を捜すアーノルドに出会った。


「セナ!捜していたんだ。サンルームに昼食が用意されたよ。さあ行こう!」


アーノルドはセレイナの手首を掴んで階段を下りていく。

セレイナは一瞬立ち止まると振り返り階段を見上げた。

先を急ぐアーノルドが「どうかした?」と尋ねるとセレイナは独り言のように呟いた。


「小さなお姫様に会ったんだ。」



その後、王子様セレイナとお姫様マリアンヌは出会うことは無かった。

マリアンヌがこの絵本を何度も何度も読んで!とせがんだのは、この日の後からだったとか。





【後日談】

初等科4年に上がったときにシルベスとアーノルドの2人は、「セナ」がセレイナという令嬢であることを、招待された彼女の誕生パーティーで知ったのだった。

兄にエスコートされ可憐なドレス姿で階段を下りてくるセレイナに、シルベスが一目惚れをした…というのは、また別のお話。

お読みくださり、ありがとうございます。

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