淑女
『みんなー、新しいブレスよー』
レイドボスの口が、大きく開く。
竜巻も周囲に発生したままなので、場所によっては避けるのが難しそう。
なるべく安全そうな場所に移動して、ウィンドブレスが来るのを待つ。
シュゴォオオオ!
ステップで回避。
3回目ともなれば、タイミングもばっちり。
取り巻きなどに邪魔された人もいるので、そちらの支援に向かう。
『やーらーれーたー』
女の人が倒れていたので、復活薬を投げる。
「ありが……んん?」
起き上がると、目を見開いてこちらを凝視してきた。
「よ……」
「よ?」
「幼女げっとぉおおお!」
両手を広げて、飛びかかってきた。
ずざー。
頭から地面にダイブする。
びっくりしたので、思わず避けてしまった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ハァハァ……ハァハァ……」
血走った目で、荒い呼吸を繰り返す。
システム上、ゲーム内で疲れることはない。
となると、現実の体調が悪いのかな……?
「あの……無理をしないで休んでください」
「おほー、心配してくれるの?」
「はい、体調が悪そうに見えたので」
「だいじょーぶ……あ、大丈夫じゃないかも。ちょっとお願いしてもいい?」
「なんでしょうか?」
「なめ回し……お持ち帰り……いや、まずはフレンド登録から……」
「?」
「ええい、めんどくさい! 抱かせろぉ!」
さっきと同じように飛びかかってきた。
すぱーん!
横からやってきた女性が、その人の頭をひっぱたく。
「……なにをする?」
「なにをする? じゃない! 人に迷惑かけないようにと、あれほど言っておいたのに!」
「だって、突然かわいい幼女がやってきたから……」
「変質者の発想だよ! 人としての軸を保とうよ!」
「おさわりくらいならセーフじゃない?」
「アウトだよ! 同性でもセクハラは成り立つよ!」
「あたしは、ただ……かわいい子の○○を○○○って○○したいだけなのに……」
「ピー音出てんぞ! BAN対象だよ!」
仲がよさそうに話し出す2人。
同じギルドのメンバーらしい。
「ごめんなさいね。ちょっと頭がおかしいだけで、悪いヤツじゃないんです」
「なにを言う。医者から処置しなくてもいいと太鼓判を押されたんだぞ」
「さじを投げられたんだよ! 手の施しようがないって意味だよ!」
「ここに放置しておいたら、どんな変態が寄ってくるかわからないじゃないか。持ち帰って大切に愛でないと」
「お前が一番危険だよ!!」
がしっと首根っこをつかんで、引っ張っていく。
「失礼しました」
「あー! 新鮮な生幼女がー!」
ずるずると引きずられながら、レイドボスのほうへと消えていった。
どういった要件だったんだろう?
ボクのお母さんみたいに、誰かに抱きつくのが好きな人だったのかな?
『めきょー!』
別の人が空から降ってきた。
復活薬を投げにいく。
「助かっ……おぅ?」
この女性も、さっきの人と同じように二度見してくる。
「や……」
「や?」
「やったぁー! フレッシュなロリだぁー!」
両手をワキワキさせながら、飛びかかってきた。
ぱこーん!
横から女性が走り込んできて叩き落とす。
さっきの人だ。
「目を離すとすぐにコレだ! あんたらには理性というものがないのか!?」
「だって、かわいいロリが地面に落ちてたから……」
「親御さんのルート権(※1)が付いてるので、拾っちゃいけません!」
「せめて○○○まさぐっちゃダメ?」
「アウトォオオオ!」
この人も同じギルドのメンバーのようだ。
女性が多いギルドなのかもしれない。
「うちのギルメンが度々問題を起こして申し訳ありません。よくしつけておきますので」
「よかったらうちのギルドこない? かわいい子は歓迎するよー」
「ハウス!」
首に腕をかけ、ずりずり引っ張っていく。
「何度も失礼しました」
「あー! 貴重なロリがー!」
人ごみの中に消えていく。
『んっごるっぺ!』
取り巻きに体当たりされた人が、ゴロゴロと地面を転がってくる。
回復は間に合わなかったので、復活薬を投げる。
「サンキュー……ぬぁ?」
今回も女性だった。
そして、同じような反応をする。
「か……」
「か?」
「神様ありがとー! いただきまーっす!」
ドゴォ!
ドロップキックを食らい、吹き飛ばされていく。
「……おお、ギルマス様ではないか」
「ちょっかい出すなって言ってんでしょーが! どいつもこいつも!」
またまたさっきの女性。
ギルドマスターをしているらしい。
「だって、天使が贈り物だったから……」
「まとめて通報すんぞお前ら!」
「ギルマス、自分に正直に生きないと」
「お前らみたいなのを野放しにしないために『法律』ってものがあるんだよ!」
ワイワイと会話する2人。
みんな仲がいい。
「多大なるご迷惑をおかけしました。きつーく言い聞かせておきますので」
「天使ちゃん。このあとお茶でもどう?」
「人の謝罪を無にすんじゃねぇ!」
「ご無体な!」
耳をつかんで引っ張っていく。
「せめて……せめて、スカートに顔を突っ込ませるだけでも……!」
「どうして、こんなのばっかり集まるんだ……ギルド解散してぇ……」
追いかけていって、支援スキルをかける。
「あの……がんばってください」
「……」
「……」
顔を見合わせる2人。
「ヤバイよこれ。ギルドに持ち帰って永久保存すべきなのでは?」
「えーと……SENRIちゃん?」
「はい」
「あまり見知らぬ変態にやさしくしちゃダメよ? さらわれるから」
「?」
「わからなくても仕方ないけど……こういう変な人が近づいてきたら、GMさんに通報してね」
「な、失礼な。わたしはいたって正常だ」
「あんたが正常だったら、人類は文明など築いてないわ!」
よくわからないけど、心配してくれているらしい。
PKがないゲームなので、危ないことは起きないと思うけど。
「くれぐれも、変な人にはついていかないように」
「ギルド通りにいるから、気が向いたら来てね!」
手を振って別れる。
ギルドでワイワイプレイするのも楽しそう。
このレイド戦でも、同じギルドで参加している人がたくさんいる。
そういうのを見ていると、ギルドに入ってみたくなる。
バグが直って堂々と男としてプレイできれば、だけど……。
取り巻きのワイバーン「……そっとしとこう」
※1、ルート権:ドロップしたアイテムを拾う権利。
複数人で同じモンスターを攻撃した場合、ファーストアタック、与えたダメージ、被ダメージ、トドメの一撃などから計算して選出される。
競争相手が多いフィールドボスなどでは、誰から攻撃を仕掛けてパーティー内のルート権を維持するかが重要になってくる。
ゲーム内だとルート権がないとそもそも拾うことはできないが、現実だとうっかり可愛い子を拾うことができてしまうのでおまわりさーん!




