接近
『よっしゃー! ガンガン行こうぜ!』
『支援かけ直すわ!』
『HP減ってるヤツいたら手上げてくれ』
『リザ待機中』
『ワイバーンきたら鈍足ばらまくわ』
『俺こそが肉壁だ!』
『攻めろよwwwガンガン行けよwww』
起き上がったレイドボスが、ゆっくりと歩き出した。
足元にいた人たちが蹴り上げられ、空を飛んでいく。
『がああっ! パ、パワーが違いすぎる…』
近くの人の悲鳴。
空に避難していたワイバーンたちが、再び地上に降りてきた。
すぐに援護へ向かう。
『おおぅ? なんか……こっちに来てね?』
一緒にヒールをかけていた人が、遠くを見ながらつぶやく。
その方向には、のっしのっしと歩くレイドの姿。
ゆっくり歩いているように見えるけど、実際の速度は相当なもの。
1歩1歩が数十メートルあるし。
『上等だオラァ! 返り討ちにしてやるぜ!』
『あなたが手にしてるの、ヒールロッド(※1)なんですが』
『安心しろ。そのためにS振りよ』
『ヒルロで殴んなwwwせめてトゲ杖(※2)使えwww』
『ふっ、この程度の相手、持ち替えるまでもない』
『このゲームの最強格なんですが』
『金がなくて買えないだけだろwww』
支援っぽい人も、ロッドを構えたまま突撃していく。
ボクは攻撃力が低いので、ずっと支援していたほうがいいかな。
近くで倒れている人に、復活薬を投げていく。
『そろそろ逃げねーとヤバいぞ!』
『速ぇえええ!』
予想よりも、さらに速い。
早く逃げないと、踏みつぶされちゃう。
『た、たすけてくれー!』
ワイバーンに捕まった人が、ずるずると引きずられていく。
ヒールをかけて援護。
『く、くるな! 俺なんか食べても、おいしくないぞ!?』
また別の人が狙われていたので、こっちにもヒール。
『じぇ、じぇろにもぉ……』
取り巻きの攻撃が激しい!
逃げる時間もない。
『踏まれるぞー!』
『しまった! もうヤツがこんなに近くに!』
『ここは俺に任せろ! お前たちは早く逃げるんだ!』
『バカ野郎! お前だけに、いいカッコさせるかよ』
『俺もいるぜ!』
『やれやれ。帰ったら酒でもおごってもらうぞ』
『お前たち……』
ぷちっ。
レイドボスの足元にいた人たちが、まとめて踏みつぶされる。
気がついたら、すぐ真上にレイドボスの姿が。
「わぁー……」
口を開けたまま、ぽけーっと見上げてしまう。
お腹の部分が、はるか遠くに見える。
足の長さもすごいけど、太さもすごかった。
ツメだけでも、家くらいのサイズがある。
ズドーン!
ただ歩くだけで、地面が大きく揺れる。
しっかりと踏ん張っていないと、転んでしまいそう。
『今日こそ恨みを晴らさせてもらうぜ!』
『しゃあああああ!!』
『ポケットに入れたティッシュごと洗濯したこの悲しみぃいいいっ!』
『いぇあああああ!!』
『深夜アニメを録画し忘れたこの怒りぃいいいっ!』
『うぉおおおおお!!』
『アイスクリームが溶けてきて手に垂らさないようになめていたらバランスを崩して本体をごっそり落としたこの恨みぃいいいっ!』
『ふぬぅうううう!!』
『古ワイバーンさん関係ねぇwww』
そんな振動をものともせず、我先に攻め込んでいく人たち。
やっぱり、前衛の人たちってすごい。
立っているだけでも精一杯なのに。
ドスーン!
踏まれるかも……と思ったけど、歩幅がすごかった。
20メートルくらい先を踏みしめ、そのまま通り過ぎていった。
『防御力が少し足りなかったか……』
『少しどころじゃねーよwww4ケタダメージだよww』
『もう少し引っ張ってからステップするべきだったか……』
『Lv10でも無敵時間足りねーよ(※3)www走って逃げるのが正解だよwww』
『カウンターのタイミングが悪かったか……』
『どのタイミングで使っても即死するわwwwなんでお前ら正面から立ち向かおうとしてんだよwww』
巻き込まれた人が大量に倒れていたので、復活作業を再開する。
ここまで復活が重要になるなら、先にリザレクションを覚えておきたかった。
「あっ」
人々の間から、りょーちゃんの姿が見えた。
しっぽを狙って攻撃している。
「!」
目が合った気がしたので、ブンブンと手を振る。
気づいたかな?
マップのパーティーメンバー位置表示を見れば、近くにいるとわかるはず。
人の囲まれて見えなくなっちゃったので、ジャンプしながら確認しようとする。
『気づいている』
「あ、見えた?」
『ああ』
「そっか」
これだけの人の中から見つけられたので、ちょっとうれしい。
りょーちゃんもがんばっているみたいだし、ボクも支援がんばろう。
『……やべぇ、今、俺に向かって、幼女が笑顔で手を振ってた』
『おお……ついに幻覚まで見えるようになってしまったか……』
『違うって! マジなやつだって!』
『いいんだよ。ここはゲームの世界なんだから、妄想くらいしたっていいんだ』
『ホントだって! ほら、あそこ!』
『……どこにもいないようだが?』
『小さくて見えないだけだよ! ぴょんぴょんしてたって!』
『現実逃避は悪いことじゃない。辛いことがあったら逃げてもいいんだ』
『ウソじゃないって! 信じてくれよ!』
『大丈夫だ、お前はよくやっているよ。少し疲れているだけだよ』
『くっそ! 見てろよ! フレンドになってくるわ!』
『行っちまった……あいつ、そんなに現実が辛いのかな……』
ゆっくりに見えて時速50キロくらいあります。
※1、ヒールロッド:ヒールの回復量が増えるヒーラー御用達の一品。
値段もお手頃なので、最初に入手する装備としてもおすすめ。
強化すると回復量も増えるので、長く愛用することも可能。
ラブリーなハート形で、おじさんが持っていると思わず目をそらしたくなる可愛さ。
※2、トゲ杖:物理ダメージが増えるヒーラー御用達の一品。
エグい感じのトゲトゲがいっぱいあって、クリティカルダメージを与えやすくなる。
癒しながら壊したい人におすすめ。
愛の告白時に握りしめていると、成功率が高くなるという効果も。
※3、ステップ無敵時間:壊れたエレベータが地面に激突する時にジャンプすれば無傷理論。
スキルレベルが上がると無敵時間がほんのり伸びる。
レベル5からは連続で2回まで使用できる『ダブルステップ』になる。
現実世界だとほとんどの人は1発で打ち止めだが、年齢や個体値によっては『ダブル』だったり『6~8回』に及ぶこともあるらしい。




