レイド戦
「……」
切り立った岩壁。
その下に広がる荒地。
そして、見渡す限りの人、人、人。
「すごい人だね」
どこにいるかわからなかったので、パーティーチャットからりょーちゃんに話しかける。
『全部の町から転送されてるからな』
「こんなに人がいたんだ」
地面を埋め尽くさんばかりの人々が、波のように押しかけている。
テーマパークの開園風景みたい。
数百人どころじゃないよね?
遠くのほうまで姿が見えるので、数千人単位で集まっているのかもしれない。
「?」
その集団が向かっている先。
ビルほどの高さがある岩壁の向こうに、巨大な影が見えた。
大きさからして、あれがレイドボスかな?
ここからだと全身が見えないので、もっと近くまで行かないと。
『ヒャッハー! 待望のレイドだー!』
『腕が鳴るぜぇー!』
『とりあえず脱いだぞ』
『はえーよwwwまだ着とけwww』
『ん? 服なんぞ元々着てないが?』
『お前は5町に帰れwww』
『PT空きありませんかー? 支援型です』
『全裸ですが、こちらへどうぞ』
『何アピールだよwww』
『やっべ、ポーション忘れた』
『どうせ即死するから気にすんな。全裸だし』
『このレイドが終わったら、装備強化するんだ……』
『おう。この戦いが最後の思い出となるから、しっかり使ってやれよ』
『失敗前提www』
『強化する服がないんだが』
『なんでもいいから着ろwww』
『なんか画面の肌色占有率がパネェんだが』
『み、見え……見えた!』
『そりゃ全裸だからなwww』
『彼女になってくれる人いませんかー? できればDカップ以上で』
『仕方ないにゃぁ~。アタシが彼女になってア・ゲ・ル♪』
『すみません。ヒゲ面のおっさんは、ちょっと……』
『アァン? 心は乙女だこの野郎、ぶち犯すぞ』
『セリフが男らしいwww』
『この流れなら言える! 今日、告白成功して、初彼女ゲットできました!』
『氏ね』
『氏ね』
『リア充氏ね』
『穀すぞ』
『お前らwww誰か1人くらい祝福してやれよwww』
『この流れなら言える! 今日、40歳の誕生日を迎えたけど、人生で彼女ができたことは一度もありませんでした!』
『誕生日おめでとう! まだまだ人生これからだよ!』
『俺も彼女できたことないけど、毎日楽しくやってるぜ!』
『うちのギルド入らないか? 独り身のおっさん多いから居心地いいぞ』
『よかったらフレンドになりませんか?』
『この対応の差www』
レイド戦に向けて意気込む人や、雑談をする人。
全部の町から集まっているだけあって、いろんな人がいる。
「……?」
レイドボスの周り。
鳥でも飛んでいる演出かなと思ったけど、どうも違うっぽい。
レイドボスが大きすぎて小さく見えるけど、それなりの大きさがある。
取り巻きのモンスター……だとすると、すごい数。
対応するだけでも、相当の人数を取られそう。
『レイド初参加なんですけど、何か注意することってありますか?』
『まず服を脱ぎます』
『基本は全裸』
『全裸だな』
『おい、やめろwww』
『脱ぎました。次はどうすればいいですか?』
『素直かよwwwホントに脱いじゃったじゃんwww』
『周りの人間にもソレを伝えるのだ』
『だよな。防具なんて飾りですよ』
『みんなで脱げば恥ずかしくないもん!』
『やwwwめwwwろwww』
『みなさーん! 脱いでください!』
『従わなくていいからwww』
『なんか、女性が遠ざかっていくんだが』
『おっさんの裸しか見えねぇ』
『やだ……なんか臭そう』
『お前らのせいだろwww』
周りの人たちは、雑談で盛り上がっている。
攻略法なんかは、わりと適当な感じでいいのかな?
『見えてきたぞ!』
『み、見え……見え……』
『なんで男のケツ追ってんだよwww見えても困るだろwww』
『近くに女性の姿がないので……』
『服着ろwww服www』
『連続で死にまくると脱げるやん?』
『ああ、そういうシステムだな』
『じゃあ、服なんていらなくない?』
『避けろよwww死ななきゃいいだろwww』
『バカ野郎! リアルで頭くるくるパーなめんなよ!? そんな上等なマネできるわけねーだろ!!』
『いや、攻撃モーションでかいから、結構避けるの楽よ?』
『敵がいる。攻撃する。死ぬ。OK?』
『脳筋すぎるだろwww』
岩壁を抜けて、レイドボスの全身が見えてきた。
足元には大勢の人々。
すでに戦っている。
「……??」
プレイヤーのサイズは、大きい人なら2メートル近くあるはず。
それが、米粒のように見えている。
それくらい離れているのに、レイドボスの姿がはっきり見える。
どれくらいの大きさがあるんだろう?
家の近所にあるマンションより、はるかに大きい。
おおげさではなく、山のようなサイズ。
「すっごく大きいね」
『レイドの中では並みくらい』
「そうなの!?」
近くで見上げたら、首が痛くなりそうなほどの高さ。
100メートルくらいありそうな気がする。
これより大きいって……もう想像もできない。
『このゲーム最大のレイドは、全長5kmのクジラ(※1)』
「5キロメートルって……」
予想のケタが1つ違っていた。
うん。
大きすぎて、よくわからない。
家から学校までより遠いと言われても、ピンとこない。
『やべぇ、なんか来た』
『ただの取り巻きだろ? びびるこたぁねーよ』
『しょせんは雑魚モンスターよ。返り討ちにしてやん……おぎゃぁああああ!!?』
取り巻きのワイバーンたちが、一斉に襲いかかってきた。
近くにいた男性にのしかかり、ガシガシ頭をかみ始める。
「ヒール!」
すぐに回復魔法を唱える。
『野郎ども! 戦じゃぁ!』
『っしゃぁ! かかってこいやぁ!』
『支援は任せろ!』
『ヒール装備にしてるぜ!』
『リザあります!』
『デバフまくわ』
『俺の後ろに居たらかばってやるぜ!』
『いや、誰か攻撃しろよwww』
各地で戦闘が始まる。
『おかーちゃーん!』
前にいた男性が襲われ、地面に倒れる。
復活薬を投げて、支援スキルを……。
『どぉえへぷ!!』
また別の男性が襲われる。
動きが速く、攻撃力も高い。
そして、この大きさ。
遠くから見たときは小さく見えたけど、全然そんなことはなかった。
羽を広げたら、5メートルはある。
『ソロでやり合ったら食われるぞ! 囲め囲め!』
『支援かけた!』
『ヒール準備おk』
『いつでも生き返らせてやんよ!』
『鈍足かかったぞ!』
『ヤツの攻撃は、俺が受け止めてやる!』
『だから、攻撃しろよwww』
人数だけなら、プレイヤー側のほうが多い。
数人で臨時パーティーを作り、共闘していく。
「……」
りょーちゃんの場所をマップで確認すると、レイドボスのすぐ近くにいた。
ブレスやディレイカットの支援アイコンが付いている(※2)ので、誰かに支援してもらったようだ。
急いで合流しなくても、大丈夫そうかな?
近くで戦っている人がいるので、そちらを優先しよう。
ひたすら回復、支援、蘇生を繰り返していく。
ツイッターにレイドボスの大きさ参考用イラストを載せました。
https://twitter.com/yosagenanamae/status/1155116037261578241
※1、クジラ:ファンタジーではおなじみの空飛ぶクジラ。
ゲーム中最大のモンスター。
性格は温厚でのんびり。
普段は空のどこかを自由に泳いでいる。
体がかゆくなると地面まで下りてきて、自然や町を破壊する。
シロナガスクジラではなく、マッコウクジラ型。
頭から出てくるドリルを破壊すると、ボーナスポイントが高い。
※2、パーティーアイコン:パーティーを組んでいると、遠く離れていてもメンバーの状況がアイコンで表示される。
違うマップに行くとログイン状況のみが表示される。
現実世界でも、出先からペットの状況を見守れるカメラがあったりする。
いつでも状況を確認できるので、飼い主も安心。
あーっ!
困ります!
新しく買ったソファーでの爪とぎは困り!
あーっ!
かわいい!
あーっ!
困りますあーっ!
困-っ!
中の綿を出すのだけは!
あーっ!!




