りょーちゃん家で宿題2
「終わったー!」
りょーちゃんが見てくれたおかげで、ずいぶんと早く終わった。
「ありがとう、りょーちゃん」
「構わない」
「このあとは、すぐにログインする?」
「ああ」
「じゃあ、ボクもやろうかな」
夕食まで時間があるし、ちょっとくらいならやれそうだ。
「家に帰るね」
「わかった」
荷物をまとめて……の前に、着替えないと。
「そろそろ宿題終わった? 部屋に持ってっていい?」」
着替えようとしたところで、智子さんがやってきた。
「あれ? もう帰っちゃうの?」
「はい、お邪魔しました」
「なんてこったい!」
大げさな動作で、頭を抱える。
「りょーちゃんと遊ぶ約束があるので」
「ああー、最近やってるピコピコ?」
「そうです」
「まあ、何をして遊ぼうと口を出すつもりはないけど……ん? 今って家に誰もいないよね?」
「はい、母はまだ仕事中ですから」
「そんな物騒な!」
「えっ?」
「無防備な姿で寝ているところを襲われたらどうするの!」
「どうすると言われましても……」
「最近この近くで変質者が出るって聞くし、口では言えないような『あんなこと』や『そんなこと』されちゃうに決まってるわ!」
「外部の音は聞こえるので、何かあったら気づきますよ?」
「ダメよ! 私が犯人だったら、秒速でアレコレしちゃうもの! 絶対に!」
「えーと……」
「というわけで、やるならここでやるように」
「ここでですか?」
「ええ、ここで!」
力強く言い放つ。
そんなに危険なんだろうか?
端末の持ち運びは楽なので、場所はどこでも問題はないけれど。
「場所用意しとくから」
「わかりました。お願いします」
せっかくなので、ご厚意に甘えることにする。
「着替え、ありがとうございました」
「ん? すぐ戻ってくるんだから、必要ないでしょ?」
「えっ? この格好で外に出るのは、ちょっと……」
「すぐ近くなんだから、誰にも会わないでしょ」
「そうかもしれませんが……」
「りょう、エスコート」
りょーちゃんが立ち上がる。
そして、玄関へ。
「行ってらっしゃーい」
智子さんに見送られて、家を出る。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「気にするな」
1人だと心細かったけど、りょーちゃんがいれば安心。
通りに人はいないようので、さっさと行ってこよう。
「すぐに取ってくるから」
なるべく人に見つからないよう、駆け足で家まで向かう。
「あらあら」
「!」
途中にある丁字路から、誰かがやってきた。
町田さんの奥さんだ。
「千里ちゃん、こんにちはー」
「こ、こんにちは」
「あらあらー、おめかししちゃって……デートかしら?」
「違います」
「あら、そうなの?」
「すみません、急いでいるので……」
「あらあら」
下を向きながら、家の中に駆け込む。
「……」
恥ずかしい!
玄関のところでうずくまる。
油断していたので、ばっちり見られてしまった。
りょーちゃんの陰に隠れていればよかった……。
「……りょーちゃん待ってるよね」
ここで反省していても仕方がない。
必要な物を持って外に出る。
「……」
塀のすきまから、外の様子をうかがう。
『お父さんに似てきたわねぇ』
『ホント、目元なんてそっくり』
『うちの旦那にも似てきたわね』
『あんたの旦那は、若い頃からトドみたいだったでしょ』
『そんなことは……そうだったかも!』
『気をつけないとダメよ? 今は良くても、年を取ったら体にくるんだから』
『そうなんだけど……もう、帰ってきたらすぐビール』
『うちもそうよー。飲むだけ飲んだらゴロン』
『お腹だけは息子のように成長期』
『せめて運動くらいはしてほしいわ』
『まったくよねー』
増えてる!
町田さんたち奥さん仲間が集まって、りょーちゃんを取り囲んでいた。
そのりょーちゃんがこちらを向いたので、奥さんたちの視線もこちらに向く。
「あらー、千里ちゃんと待ち合わせをしていたのね」
「千里ちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
諦めてあいさつを交わす。
「これからデート?」
「違うみたいよ」
「そうなの?」
「はい、家の中で一緒に遊ぶだけです」
「あらー、お家デートってヤツね!」
「いいわねー、若い頃を思い出すわ」
「あんた、若い頃は『男同士のアレコレ』を描いた本ばっか読んでたでしょ」
「そんなことは……あったかも!」
「私たちみたいな枯れた青春とは違うのよ」
「りょう君みたいなイケメンがいなかったから」
「あんたじゃ相手にもされないでしょ」
「そんなことないわ、ね? りょう君?」
「……」
問いかけには答えず、こちらに向かって歩いてくる。
「ほら、2人の邪魔しちゃ悪いわよ」
「そうね」
「ごめんなさいね、引き止めちゃって」
さっと道を開けて、ボクたちを通してくれる。
「またね。千里ちゃん、りょう君」
「あとは若いふたりに任せて、年寄りは退散しましょ」
「うふふ、ごゆっくり」
「さようなら」
奥さんたちと別れて、りょーちゃんの家に向かう。
変に思われなかったかな……?
智子さんは大丈夫と言ってたけど、やっぱりリボンが付いた服は恥ずかしい。
見た目はスカートっぽいし。
「ボク、変じゃないかな?」
確認のために聞いてみる。
「変ではないな」
「ホント?」
「ああ」
りょーちゃんがそう言うなら、大丈夫なのかも。
少し安心しつつ、りょーちゃんの家に入る。
「千里くん、おかえりー」
「ただいまです」
扉を開けると、智子さんが出迎えてくれた。
「こっちよー」
案内されるまま、あとをついていく。
「はい、入ってー」
「……?」
案内された場所は、1階にある和室。
そこに、ベッドが置いてあった。
屋根が付いている豪華なベッド。
「そこで寝転んでー」
「ここですか?」
「ええ、そうよ」
「……」
全体的にピンクな配色。
ベッドだけでなく、小物やカーテンなどもピンクに変わっていた。
前来た時は、普通の和室だったと思うんだけど……。
「さぁ、どうぞどうぞ」
「えっと……」
背中を押されて、ベッドの上に追いやられる。
ふかふかの触り心地。
智子さんの趣味なのかな?
カシャカシャ。
「いいねー! いいよー、その表情!」
再び写真を撮ってくる。
「あの……」
「はい、視線そのままー」
カシャカシャカシャ。
「その……」
「少し足を開く感じで……そう、それそれ!」
カシャカシャカシャカシャ。
「……」
「ほほを染めてうつむいた表情もたまりませんなぁ……そうだ、こコレ持って!」
くまのぬいぐるみを渡される。
両手じゃないと持てないくらい大きいので、体の半分くらいが隠れる形になる。
「……天使か」
カシャカシャカシャカシャカシャ!
猛烈な勢いで写真を撮り出した。
真顔で。
「このぬいぐるみは、どういった意味が……?」
「あらゆる視点から見た多角的なアプローチを構築することは大切でしょ」
「な、なるほど……?」
よくわからなかったけど、なにやら重要な意味があるらしい。
なるべく早く終わってくれることを祈りつつ、撮影が終わるのを待つ。
カシャカシャ。
パシャパシャパシャ。
カシャカシャパシャパシャじゅるり。
「あの……りょーちゃんが待っていると思うので、そろそろ……」
「ああ、そんな話もあったっけ」
こちらから切り出すことで、ようやく止まってくれた。
10分くらい撮り続けていた気がする。
「そうだ、夕食こっちで食べていって」
「お母さんの夕食も作らないといけないので、家で食べます」
「茜ちゃんにも来るよう連絡入れてあるから」
「でしたら、ボクもお手伝いします」
「いいのよ。千里ちゃんフォルダが潤ったお礼なんだから」
「?」
「あー、それと、近くで物音を立てるかもしれないけど気にしないで」
「わかりました」
早くりょーちゃんに会いたかったし、智子さんにお任せしちゃおう。
持ってきた端末をセットして、いつものようにログインする。
「……千里ちゃん?」
……。
……。
……。
「反応がない……今がチャンス」
くんかくんかくんかくんか!
「ちょっとだけ。ご飯作るまでの間だけ……うへへへへ」
変質者の正体がわかってしまった気がする。




