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音楽の時間

「先生、ボクも男性パートに……」

「えっ……!?」


 『心の底から驚いた』といった表情で、こちらを見つめてくる。


千里(ちさと)きゅ……ごほん。夏海(なつみ)さんは、特に変更しなくてもいいのでは?」

「去年と比べたら、低くなったと思います!」

「う、うん……?」


 不思議そうな顔をする。

 大きな変化はないかもしれないけど、低くなってきているはず。

 身長だって1センチは伸びたんだし。


「あー……うん。じゃあ、できるだけ低い声出してみて」

「あ、あーーー」


 精一杯低い声を出してみる。


「んー……ちょっと、こっちきて」


 ピアノがある場所へ案内される。


 ポローン。


「この音は?」

「あーーー」


 ポローン。


「これは?」

「あ……」


 ポローン。


「はい」

「あーーー」


 認めてもらえるように、がんばって音程を合わせる。


「うん、きれいなソプラノ♪」

「……男性パートは?」

「下が出てないから無理ね」

「……」


 女性パートへの振り分けが決まってしまった。

 いつになったら、もっと男らしくなれるんだろう……。


「夏海君、いらっしゃーい」

「さぁ、こちらへ」


 今日の授業は、パートごとに別れて練習。

 女子のみんなと合流する。


「今年も一緒だね!」

「ハァハァ……」

「あいかわらずの天使で安心したわ」

「ハァハァ……」

「いつまでも変わらずにいてほしい」

「ハァハァ……」

「いいんちょ、うるさい」


 始まる前からにぎやかだ。

 決まってしまったことは仕方がない。

 ちゃんと授業に集中しよう。


「あら、あなたはアルトでしょ?」

「イイエ、ソプラノデスー」


 先生の指摘に、委員長が反論する。


「ちゃんと人数も考えて振り分けてあるんだから、大人しく来なさい」

「嫌だ! ここに残るぞ!」

「なんでまた」

「だって、パートが別になったら、千里キュンの背後からすーはーすーはーしたり、向かい合った状態で飛び散る体液を全身で浴びることができないじゃないか!」

「あ、先生お願いします」

「はいよ」

「うぉおおおっ! なぜだぁああああっっ!!」


 連れ去られていく委員長。


「ソプラノやりたいなら、ボクと代わったほうが……」

「ああ、アレは気にしなくて大丈夫」

「そうそう、いつもの発作だから」

「う、うん……?」


 よくわからないけど、大丈夫らしい。

 チームを組んで練習を始める。




「うーん、なんか違うんだよなぁ……」


 一通り歌い終わったところで、パートリーダーが口を開いた。

 どこかで音程がずれていたのかな?


「夏海くん」

「はい」

「服を脱ごう?」

「……ふぇ?」


 予想もしていなかった言葉に、変な声が出てしまう。


「もっと、こう……一体感が欲しいわけよ。統一感というべきか」

「……?」

「つまり、夏海君はスカートを履くべきなのよ!」

「どうして!?」


 突然の申し出に困惑する。


「1人だけズボンというのは、やっぱりオカシイと思うのよ」

「でも、ボク男だよ?」

「なぁに、大丈夫。うちの兄だって、一度履いてからクセになってるし」

「そういう問題でもないような……」

「安心して、痛くしないからハァハァ!」


 鼻息荒くまくし立ててくるパートリーダー。

 周りを見るけど、止めてくれそうな人がいない。


「こんなこともあろうかと、予備の女子制服を用意してあります!」


 パチパチパチ!


 なぜか拍手がわき起こる。


「ほんの少しでいいから! 先っちょだけでいいから!」

「あ、あの……」

「怖がらなくていいのよ。すぐに楽になるから」

「そうそう。抵抗があるのは最初だけよ」

「さぁ、お着替えしましょうねー。うへ、うへへへへへ……」



『おい。ナツが襲われてるぞ』

『誰か助けてやれよ』

『うかつに手を出したら、こっちまで被害が出るしなぁ』

『そいつはヤベェな……すね毛の処理してこないと』

『お前の女装は公害レベルだろ!』

『いや、意外とイケルっしょ?』

『何言ってんだ、コイツ。小林からもなんか言ってやれよ』

『……』

『小林、どうした?』

『腹でも壊したのか?』

『それとも、ケツに抱えている持病のアレが爆発した?』

『……想像したら、男の事情が……』

『ん?』

『男の事情?』

『想像って……ナツの女子制服姿?』

『ああ……』

『お、おう……?』

『ま、まあ、似合うことは間違いないし?』

『付き合えるかどうか? と聞かれたら、余裕で土下座するレベルではある。だが、股間にくるのは男同士としてどうよ?』

『違うんだ、そんなつもりはないんだ。ただ……今日も夢に出てきて、目が覚めたら布団が盛り上がっていて……』

『オーケー、落ち着け。誰にでもある朝の現象だ』

『そうだぞ。気にするほどのことじゃないさ』

『健康的な証拠じゃないか』

『なぜか、白いワンピースを着ていて……お花畑で2人きりで……アレやらコレやらイロイロと……』

『こ、小林……?』

『ゆ、夢ならば仕方がない』

『ああ。アレな本を見た後なんかは、そういう夢を見ることもあるさ』

『パンツの中が……ねっとりと……』

『ダメだ! 小林! 帰ってこい!』

『まだ戻れる! すべてを忘れるんだ!』

『たまたまたまたまが暴発しちゃっただけさ!』

『……』

『小林……?』

『まさか、お前……』

『こんなところで……?』

『小林! 小林ぃー!?』

『あなたたち! 騒いでないで練習しなさい』

『あ、はい』

『あなたたちも、何をしているの』


 先生がこっちにやってくる。


「理想のハーモニーを追求しているだけです!」


 事情を説明する。


「なるほど。制服の統一感を出すことで、より結束を高めようとしたのね」

「イエス! その通りです!」

「でも、無理強いはダメよ。せっかくの和に乱れが出ちゃうわ」

「はっ! つい、かわいさに目がくらんで……」

「ごめん、夏海くん!」

「簡易カーテンくらい用意するべきだよね!」

「う、うん……?」


 わかってくれた、のかな……?

 そうだよね。

 ボクが女子用の制服を着たら、絶対変だよね。


「それに、可愛い男の子には『半ズボン』こそが至高のアイテムだと思うのよ」

「先生……?」


 真顔で語り出した。


「スカートで恥ずかしがる姿を愛でるのもいいけど、半ズボンの健康的な生足をハスハスするのも悪くないでしょ?」

「一理ある」


 先生と女子とで、話が進んでいく。


「そういうわけで、ここに半ズボンがあります」

「おおー」


 パチパチパチ!


 さっきと同じような流れに。


「じゃあ、夏海くん。脱ごうか!」


 どこからか取り出した半ズボンを持って、先生が近づいてくる。


「大丈夫! 半ズボンだから恥ずかしくないよ!」

「私たちがカーテンになるから!」

「さぁ、みずみずしい太ももを見せて!」



『半ズボンとか勘弁してくれよ……すね毛そらないと』

『俺なんか、太ももまでびっしりだぞ』

『小林……大丈夫か?』

『ああ、もう大丈夫だ。半ズボンもいいよな』

『大丈夫じゃないぞ!』

『しっかりしろ! 小林!』

『まだ人生の方向性を決める時じゃない!』

『わかってるよ。男同士なら温泉行けるよな』

『小林ぃぃぃ!!!』

『早まるんじゃない!』

『それ以上いけない!』

『そうだよな。口移しでジュース飲むくらいなら合法だよな』

『先生! 小林がーっ!』

『このままだと、先生みたいになっちゃう!』

『助けて! 先生!』

『うっさいわね! 今いいところなのよ!』


 騒がしくなっていく教室内。


「ほらほら、夏海くん!」

「それはマズいぞ! 小林!」

「ハァハァハァ……」


 あの……授業は……?

 こ、小林ぃーーーーーー!


 ちなみに先生はオネエ疑惑がかかっている妻子持ち。

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