朝の時間
「……」
目を覚ますと、お母さんの姿が見えなかった。
トイレかな?
いつもだと『いっしょにいこー』って起こされるんだけど……。
もにゅ。
「?」
ベッドから降りようとしたら、何かが足に触れた。
こんなところに、何か置いたっけ?
ベッドの上からのぞきこんでみると……。
「落ちてる!」
お母さんが寝ていた。
どうしてこんなところに……?
落ちたというのは理解できるけど、こっち側はボクが寝ていたほう。
飛び越えながら落ちたんだろうか?
「んっ……重い……」
がんばって持ち上げようとするけど、なかなか大変。
直接は無理なので、テコの原理で少しずつ上げる。
かなりズリズリしちゃったけど、なんとか引っ張り上げることができた。
「……くー」
そんなことにはまったく気づかず、すやすや眠り続けている。
起こさなくてよかった。
また落ちてもいいように、クッションを集めて置いておく。
体が冷えないように毛布を掛けてから部屋を出た。
いつものように朝の準備を済ませて、余った時間で攻略サイトを見る。
スキルシミュレーター(※1)があったので、現状のレベルとスキルを入力してチェック。
「……」
気になっていたリザレクションは、あと2レベルで取れる。
他の支援スキルも一通り取って、さらに全部10まで上げると……。
『累計レベル580』
「……」
うん。
毎月100レベルまでスキルポイントを稼いでも、半年くらいかかる計算になる。
基本スキルや弓スキルなどに浮気したら、今年中には終わらない。
何を優先して、何を切り捨てるか……。
今からしっかり考えておかないと、ポイント不足で泣くことになりそうだ。
「お母さん、ご飯できたよ」
時間になったので、起こしに行く。
「……あれ?」
またベッドの上からいなくなっている。
床に置いたクッションの上にもいない。
「……?」
クッションの横。
ベッドの下に、何か肌色のモノが。
「……どうしてこんなところに」
ベッドの下にもぐりこむようにして、お母さんが寝ていた。
枕だけはしっかりと抱えている。
「ほこりがついちゃうよ」
掃除をしてないわけじゃないけど、掃除機が入りづらい場所は怪しい。
ちょこっとだけ見えている両足を持って、お母さんを引っ張り出す。
「朝だよ」
「……んー」
もぞもぞと、ベッドの下へ帰っていく。
「ダメだよ。寝るならベッドで寝ないと」
「……んー」
ベッドによじ登って、真ん中で丸くなる。
「もう起きる時間だけどね」
「……あと5ふん」
「そう言って、5分だったためしがないんだけど……」
「……んー」
枕に顔をうずめてしまう。
今日もギリギリになりそうなので、着替えやお弁当なども用意しておこう。
ピンポーン。
朝食を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。
三井さんが迎えにきたようだ。
お母さんはまだ食べているので、ボクが対応する。
「おはようございます、三井さん」
「ああ、おはよう」
「ごめんなさい、まだ朝食の途中です」
「いいって。起きてるだけマシなほうだろ」
「……」
実際にその通りなので、何も言えない。
もっと早く起こしたかったんだけど、5分が10分、15分と……。
「上がっていいか?」
「はい、どうぞ」
スリッパを用意して、お母さんの元へと連れていく。
「お母さーん、三井さんが来たよ」
「……すぴー」
テーブルの上から落ちそうになっていた。
「寝てんじゃん!」
「えっと……こうすれば……」
豆腐をハシでつまんで、お母さんの口元へ持っていく。
……パク。
もぐもぐと食べる。
目が糸みたいな状態だけど、口だけはちゃんと動いている。
同様に、他のおかずも運んで食べさせる。
「こりゃまた素敵な朝食風景だな」
「苦手な野菜を食べさせやすいので、そういう時は助かってます」
味が残っていると『ぺっ!』ってされちゃうけど。
「なんというか……母親がこんなんで、めんどくさくない?」
「そんなことはないですよ?」
お父さんがいる時もそうだったし、特に気にしたこともない。
他の家庭だと、もうちょっと違ったりするのかな?
「君は天使か何かなのか?」
「?」
「すまん、天使だったわ。持ち帰ってもいいか?」
「ちーちゃんはー、だーめぇー……」
お母さんが反応する。
ようやく起きたみたいだ。
「……すぴー」
そうでもなかった。
せっせとご飯を運んで、さっさと朝食を終わらせる。
口元をふいて、身支度を整えて、三井さんに渡す。
「お母さんをよろしくお願いします」
「急がせて悪いな」
「こちらこそ、遅くなって申し訳ありません」
「やっぱり持ち帰っていいか?」
「だぁーめぇー」
糸目のまま反応する。
今日は、なかなか夢から覚めないっぽい。
「ほれ、楽しい楽しいお仕事の時間だぞ」
「……すぴー」
抱きかかえて運んでいく。
「そんじゃ、いってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
2人を見送る。
『……あれ? ちーちゃんは?』
『さっきまで存分に堪能してただろ』
『いってきますのチューしてない!』
『代わりにやってやるよ』
『ざらざらしてるから、やだー』
『おいコラ、吸い尽くすぞ』
『おうちかえる』
『いいから車に乗れ』
『うわーん! ちーちゃ……』
バタン。
ブロロロロ……。
楽しそうに話しながら出勤していった。
ボクも遅れるわけにはいかない。
後片付けをやってから家を出る。
私は露天風呂が大好きです。
合法的に全裸で外を歩けます。
※1、スキルシミュレーター:明るいスキル計画。
『このスキルを10まで上がるのに、あとどれくらいLv上げればいいの?』といった疑問を解消してくれる便利なツール。
欲しいスキルすべてにチェックを入れると、必要Lv数に絶望する。
現実世界で説明すると、『リポ払いの借金を今の給料で全額返金するのにどれくらいかかるの?』を計算して、必要年月に絶望するのと同じ。




