ファーストダンジョン1
「……だいぶ雰囲気が違うね」
明るい町とは違った、薄暗いダンジョン。
いかにも何か出そうな感じ。
……というか、すでに何かいる!
カタカタカタ……。
のっそりと近づいてくる、骨の集団。
RPGでおなじみの『スケルトン』。
「……わりとリアルなんだね」
スライムは丸々としていてかわいかったけど、スケルトンはリアル路線。
理科室のガイコツ標本に、それっぽい汚れを足した感じ。
フラフラと動いているし、近寄るには勇気がいる。
「表示設定でデフォルメも選べる」
「苦手な人もいそうだよね」
これくらいならまだ平気だけど、ゾンビとか出てきたら考えちゃうかも。
「敵全滅させれば次の扉が開く。それを繰り返していくとボス」
「何か注意点とかある?」
実戦としては、これが初めて。
ゲーム特有の注意点などがあれば、先に知っておきたい。
「チュートリアルやったならわかると思うが、すべての行動には『発動時間』と『硬直時間』が発生する」
「そういえば、すぐには動けないことがあったかも」
スライムに攻撃した時、逃げようと思っても体が動かなかった。
腕を上げることすらできなかった。
「あくまで『ゲーム』を重視した作りになっているからな。他のVRシステムのような自由自在な動きはできない」
「行動には制限がかかる、ってことだよね?」
「ああ。プレイヤー性能差が出ないようにするための措置だな」
「なるほど」
自由度がありすぎると、プレイヤー格差が広がってしまう。
ボクが1回攻撃する間に、りょーちゃんなら3回は攻撃できそうだし。
「同じように、敵MOB(※1)にも行動制限がある」
「そうなると……先に手を出さないほうがいいのかな?」
「相手の硬直を狙うのは基本」
「ふむふむ」
カウンターを狙うのがいいみたいだけど……反応できるかな?
攻撃までの発動時間があるなら、見てからでも対応できるのかも?
「敵MOBは最速フレーム(※2)で攻撃してくるから、同射程で殴り合うとまず負ける」
「フレーム勝負になると、勝ち目がなさそうだね」
どんなにがんばっても、AIの反応速度には勝てる気がしない。
おとなしく、反撃を狙っていこう。
「習うより慣れろだ」
そう言って、近くのスケルトンに突っ込んでいく。
うまくできるかわからないけど、ボクもやってみよう。
「えーと……ブレッシング!」
さっそく、覚えたスキルを使ってみる。
手にしていたロッドの先に、光が集まっていく。
「……?」
これだけだと発動しないようだ。
あっ。
対象を選ばないとダメなのかな?
「えいっ!」
りょーちゃんに向かってロッドを振る。
しゅわーん。
キラキラした光が降り注ぎ、頭上にスキルアイコンが追加される。
パーティーステータスのほうには、残り時間も表示されていた。
初めて魔法を使ってみたけど、ゲームっぽくてかっこいい!
「ブレス!」
続けて、自分にもブレスを……あ、他のゲームのくせで『ブレス』って言っちゃった。
でも、ロッドが光り出したので、これでも通じたみたい。
よく使われる略式だと、発動条件が満たせるのかも。
「……?」
自分に支援をかけるには、どうしたらいいんだろう?
こうかな?
ロッドの先を、自分の顔へ向けてみる。
しゅわーん。
「あ、できた」
キラキラと光が降りてきて、自分のステータスにもブレスアイコンが表示された。
これで、少しは強くなったはず。
「えーと……」
キャラクター情報を開く。
STR:2+1
INT:2+1
DEX:2+1
VIT:2
MND:2
LUK:2
3つステータスが1ずつしか増えてない。
まだスキルレベル1だし、こんなものかな?
スキルポイント入ったら、早いところレベルを上げていこう。
「……」
りょーちゃんのほうを見ると、慣れた動きでサクサクと敵を倒していた。
これくらいの相手なら、ヒールをする必要もなさそうだ。
「!」
近くにいたスケルトンが、剣を振りかぶって襲ってきた。
攻撃速度は……見える!
よかった。
ボクでも反応できる速度。
しっかりと避けてから、ロッドで殴る。
ぺちぺちぺち。
カラララ……。
3回ほど殴ったところで、崩れ落ちていった。
スライムよりはタフだけど、そこまでHPがあるわけじゃないようだ。
1発当てると相手がのけぞるので、連続で攻撃を叩き込めるっぽい。
カタカタカタ。
次のスケルトンが、こっちに向かってくる。
アクティブモンスターのようだけど、他のスケルトンと目(?)が合っても襲ってこない。
初級のダンジョンだし、ターゲット制限(※3)があるのかも。
カタカタ……。
途中で歩くのを止めて、腕を交差する。
チュートリアルでもやった、防御の構えかな?
スライムと違ってわかりやすい。
ぽっこーん!
スマッシュを叩き込む。
大の字になって倒れるスケルトン。
一撃では倒せなかったようで、むくっと起き上がってきた。
「ダウン時間は……長め?」
こちらもスマッシュの硬直で動けなかったけど、それ以上に起き上がる速度が遅かった。
壁際でダウンを取れば、追い打ちできるかもしれない。
「近くでダウン取れば、追撃できる」
「やっぱり」
「追撃で殺しきらないと、反撃で死ぬが」
「?」
「起き上がりに無敵時間あるが、追撃した分だけダウン時間が減って無敵時間が増える」
そう言うと、持っていた武器を外し、素手のままスケルトンに近づいていく。
げしっ!
足払いで転がし、そのまま追撃を入れていく。
3発ほど殴ったところで、しゅたっと機敏に起き上がってきた。
無敵時間のせいか、次のりょーちゃんの攻撃はノーダメージ。
スケルトンの反撃で、りょーちゃんにダメージが30ほど。
のけぞったところに、もう一撃。
りょーちゃんは しんでしまった!
「えっ?」
2発!?
予想以上のダメージに、目を疑う。
ボクよりずっとレベルが高いのに、それでも2発!
「こんな感じ」
「……あれ?」
何事もなかったかのように、むくりと生き返る。
たしかに、HPが0になっていたはずなんだけど……。
「このゲームは『その場復活』使える」
「それって、ペナルティーはないの?」
「何度も死ぬと、再使用までの時間が増えていく」
「経験値が減ったりとかは?」
「増えるぞ」
「えっ?」
「死ぬと経験値増える」
「……えっ?」
デスペナルティーで、経験値が増える……?
「このゲームって、そんな仕様なの?」
「オーバーキルボーナスがあるから、凄絶に死んだほうが稼げる」
「ざ、斬新な稼ぎ方だね」
経験といえば、経験……なのかな?
経験値が減らなくて済むのは、ありがたいけど。
「このゲームの制作者が『回線不調のラグ死(※4)で1日分の稼ぎが消し飛び、全裸でマウスパッドをなめ続ける』という奇行に走ったことがあるらしい。デスペナに関しては緩く設定してある」
「ライト層向けだとは聞いていたけど……」
思っていたより緩かった。
ボス狩りなんかでも、気軽に参加できそうだ。
「あと、脱げる」
「脱げる?」
「連続で死に続けると、一定確率で装備中のアイテムを落とす」
「アイテムなくなっちゃったり?」
「近くにドロップするだけだから、拾えば問題ない」
「もし拾わないと……?」
「町に戻ったタイミングで、自動的に倉庫に回収される」
「よかった。装備は消えないんだね」
「引き出す際に、手数料かかるけどな」
「お高い?」
「店売りの10%だから、たいしたことはない」
「なら、安心だね」
装備を引き出せなくて、狩りにも行けない!
みたいなことには、ならなそうだし。
「あれ? 脱げるってことは……防具もドロップするの?」
「するぞ」
「たとえば、今、ボクが着ている服をドロップしたら……?」
「強制的に下着姿になる」
「絶対に死ねないヤツだ!」
とんでもないペナルティーがあった!
「初期服は特に補正ないから、裸で戦っても問題はないぞ」
「問題しかないよ! 男だってバレちゃうよ!」
もしそんなことになったら、二度とこのゲームができなくなっちゃう!
ただでさえ、男だとバレてないか不安なのに。
「連続で死ななければいいだけだ」
「そうは言っても……」
先ほどのダメージを見ても、かなり敵が強い。
動きは遅いのでまだいいけど、この先どうなることか……。
早朝5時、甥っ子と姪っ子の遊んでくれ襲撃。
夜型ダメ人間の自分、スマホを捧げて安眠を確保するファインプレー。
あの……ガチャ用にため込んでいた石が全部なくなっているんですけど。
※1、MOB:「敵モンスター、もしくは敵とかモンスターだけでいいじゃない! なんでこんなよくわからない横文字使うの?」と初めて見る人が思う謎の単語。
『銀座で寿司』を『ザギンでシースー』みたいにちょっとかっこよく言う時に使う感じ。
※2、フレーム:1秒をさらに細かく分割した数字。ゲームだとだいたい1秒が60フレーム。
1秒に16連打=3.75フレームで連打できる速度があればスイカが割れるらしい。
※3、ターゲット:相手の殺意が向いている方向のこと。
タゲる=「右ストレートで ぶっとばす 真っすぐいって ぶっとばす」
1タゲ制限=「お前らは手を出すな、俺1人で十分だ」
2タゲ=「いけェ! おれたちの新空中技!! スカ○ラブ・ハリ○ーン!」
3タゲ=「ガ○ア! オ○テガ! マッ○ュ! ジェッ○スト○ームアタックをかけるぞ!」
※4、ラグ死:どんなプレイヤーでも死に至らしめる最強の敵。
何かしらの理由でゲームがもっさりになり、適切な行動が取れずに死ぬこと。
プレイヤー側の回線やマシンが原因になる場合と、ゲームサーバー自体がダメになっている場合がある。
現実世界で説明すると、『なんか腹の調子が悪いような? ……いや、気のせいだったわ』からの一斉放出。




