アップデート情報
「りょーちゃんは、帰ったらすぐログインする?」
「ああ」
即答する。
表情は変わらないけど、ソワソワしているのがよくわかる。
ボクはどうしようかな。
家に帰ったら、すぐにやりたい気持ちもある。
でも、いろいろと済ませてからのほうが、ゆっくりできる。
「ご飯を食べてからログインするね」
「わかった」
りょーちゃんと別れて、家に入る。
まずは、掃除などの家事全般。
夕食は、簡単な和食メニュー。
途中、どうしても気になったので、アップデート情報だけチェックする。
「……」
公式ホームページから、お知らせの部分に目を通す。
大型アップデートではないので、そこまで大きな変化はない。
・誤字脱字、細かな不具合の修正。
・敵AIの調整。
・一部スキルで他人の衣服へ影響を与えることができた問題の修正。
・ドロップの調整。
・新規MOBの追加。
・新規アイテムの追加。
気になるところは『新規MOB』と『新規アイテム』。
まだ始めたばかりなので、元々あるモノと区別がつかないけど。
いいアイテムがあったら、りょーちゃんは狙いそう。
やることが終わったので、ベッドに倒れ込んで準備をする。
いつものように起動して……。
『闇城行くぞ』
ログインするなり、りょーちゃんからチャットが飛んできた。
「やみしろ?」
『IDの1つ』
「うん、いいよ」
『ID前で』
「わかった」
町中でログアウトしてあったので、すぐに合流する。
「何かいいアイテムでもあったの?」
「毒短剣を落とすらしい」
「新規アイテム?」
「ああ」
「情報早いね」
まだアップデートから何時間もたってないのに、もう情報が出ているんだ。
「毒ってことは、例の一撃用?」
「ああ」
状態異常があると、ダメージが上乗せになったはず。
りょーちゃんが欲しがるのも納得。
『パーティーリーダーが、闇に潜む城(上級)を受諾しました』
「上級なんだ」
「情報出てるのが、上級の闇短だからな」
「大丈夫そう?」
「ダメなら死に戻ればいい」
「まあ、そうなんだけど」
まだこのシステムに慣れない。
「中級と比べると、ステータスが倍以上になって、AIが強化される程度」
「程度って言うほど、楽そうに思えないけど……」
「中級でも上級でも、当たれば死ぬから問題ない」
「そう……なのかな?」
当たっただけでやられてしまうこと自体、問題のような気も。
画面が暗転して、ミッション先へ転送される。
「……」
まず視界に入ってきたのは、大きなお城。
正面玄関に飛ばされたのかな?
入口と思われる門が、どっしりとたたずんでる。
「ここは夜なんだね」
「闇城だからな」
うす暗い月明かりがあるだけで、周りに何もない。
外壁に生い茂ったツル。
ところどころ崩れ落ちているレンガ。
虫の鳴き声すら聞こえない、闇に包まれた世界。
クエスト名が『闇に潜む城』ということだけあって、なかなか雰囲気が出ている。
吸血鬼とか、お化けなんかが出てきそう。
「行くか」
扉の前に近づくと、自動で扉が動き出した。
ギィーっという重い音と共に、ゆっくりと開かれて……。
「わぁ……」
目の前の光景に、思わず声が出る。
大理石と思われる、四角い模様の入った床。
きらびやかなシャンデリア。
精巧な細工がほどこされた階段。
外の荒れ果てた印象とは打って変わって、まばゆいばかりの豪華な空間が広がっていた。
壁や天井にも、美しい細工が彫り込まれている。
舞踏会でも開かれそうな場所。
でも……。
「……」
いる。
広間の中央。
鎧を身にまとった、人型の何か。
『人ではない』と思う理由は、実体がないこと。
鎧と鎧のすき間……本来、人の手足がある場所に、何もなかった。
黒い影だけが、ゆらめいている。
『ダークウォーリア』
頭上にそう表示されている。
戦士型の黒い影のモンスター。
唯一、目に当たる部分だけが、赤く光っている。
「強そうだね」
「弱くはないな」
数は8体。
よく見れば、鎧や手にしている武器が違っていた。
片手剣に盾装備が2、両手剣が3、弓が2。
それと、斧を持った重装型が1。
この距離は索敵範囲(※1)ではないのか、先手を取って襲ってくることはなかった。
「ブレス!」
りょーちゃんが動き出したので、こちらも支援スキルをかけていく。
相手の行動がわからないので、まずは支援に徹したほうがいいかもしれない。
ズシャ!
近くの両手剣……ダークウォーリアに向かって、剣圧を放つ。
さすがのりょーちゃんでも、この難易度では中央突撃しない。
アクティブになったダークウォーリアが、りょーちゃん目がけて突撃してくる。
「!」
速い!
全身を覆う鎧を着ているのに、予想以上の速度で迫ってきた。
頭をカチ割らんとする勢いで、両手剣を振り下ろす。
サッ。
踏み込むようにして、攻撃をかわす。
そのまま後ろに回り込んで、スマッシュを当てる。
ドゴォ!
こちらに向かって飛んできたので、いつものように準備する。
起き上がりに重ねからの、お返しスマッシュを……。
「!?」
重ね用の飛び道具が見えていたのか、前転しながら起き上がってくる。
「あ……」
ぽっこーん。
ちょうど構えていたところまで転がってきた。
スキル準備が終わっていたスマッシュが発動。
ほどよい角度で飛んでいく。
起き上がりパターンにも変化があるなら、対応も気をつけないと。
ザシュ!
りょーちゃんの一撃が決まって、倒し……倒せてない!?
ミリ残し(※2)で耐えたダークウォーリアが、むくりと起き上がる。
そして、スキル硬直中のりょーちゃんへ攻撃する。
「ヒール!」
『182!』
最大HPの2倍以上のダメージを受けて、その場に倒れるりょーちゃん。
通常攻撃……だよね?
とっさにヒールをかけたけど、まったく意味がなかった。
仮にジャストヒールが成功していたとしても、回復量が全然足りない。
『……』
ゆらりと、こちらを振り向くダークウォーリア。
りょーちゃんが倒れたので、狙いがこっちになる。
すぐさま弓に持ち替えて、矢を放つ。
サッ。
避けられた!
戦士タイプであっても、脳筋(※3)してくるAIではないようだ。
今度はディレイショットを先に撃ち、通常との複合で狙う。
サッ。
これも避けられた。
横ステップからの前転で、華麗にかわしていく。
やっぱり、見た目以上に素早い。
「だったら……」
ディレイショットからの、スロウショット。
さらに、キャンセルで通常攻撃。
今のボクにできる最大手数で、集中攻撃を行う。
ズバッ!
切り払われた!?
振り下ろされた両手剣によって、矢が叩き落とされる。
りょーちゃんがやってるのは見たことあるけど、モンスターも使ってくるんだ。
ブォン!
振り回してくる両手剣を、バックステップで避ける。
距離を詰められてしまったので、矢を放つ余裕はなさそう。
「!」
両手剣の刃の部分が、赤く光り出す。
何か来る!
相手との距離を考え、横へ大きく逃げる。
キィン!
金属音と共に、振り下ろされる両手剣。
一瞬遅れて。
炎をまとったエフェクトが、扇状に走っていった。
「……」
床に残った炎が、その威力の高さを物語っている。
当たったら、1発退場な感じ。
かなり遠くまで飛んでいったので、乱戦になったら避けられそうにない。
ミニトマトという野菜があるじゃないですか。
パリっとした皮と、ぴゅるるるどぴゅっとした中身が、なんともたまらない感じです。
それと、最近は体のいろんなところが緩くなっています。
特に食事中なんかは、口からご飯つぶがこぼれることがよくあります。
何が言いたいかといいますと、ミニトマト汁まみれになった私のキーボード返して。
※1、索敵範囲:敵を見つけて襲ってくる範囲。
1歩でもこの範囲外にいれば、たとえ目が合っても襲いかかってくることはない。
モンスターによって視力が違うためだと思われる。
注意を引きつけることで、その範囲を誘導することも可能。
ムフフな本を設置すると、それを見つけた兵士の索敵範囲が非常に狭くなる。
※2、ミリ残し:HPが残り1ミリくらい残った状態のこと。
勝利を確認して油断していると、思わぬ反撃を受けてピンチに陥ることも。
月曜日の午前中が終わった時点で、だいたいこれくらいの残り体力になる。
※3、脳筋:脳みそまで筋肉が詰まっていること。
何も考えずに真っ直ぐ突っ込んでいってぶん殴ろうとする。
筋肉に思考を支配されているため、何があっても筋肉で解決しようとする。
負けた場合は筋肉が足りないと反省し、さらなる筋トレを重ねる習性がある。




