駄菓子屋店主
「結局、誰もヤツに勝てないというのか……」
「やってらんねぇぜ! 飲むしかねぇわ!」
「大将! ギンギンに冷えたヤツ頼むわ!」
「こっちにも1本!」
「俺アイス」
「あれ? 大将どこいった?」
「おーい、よっちーん」
店主さんの姿を探し回る。
「いねーのか?」
「店は開いてるから、家のほうにいるんじゃね?」
「まだ日も明るいうちからエロゲーかよ。うらやましいな!」
「あ、出てきた」
お店の奥から、店主さんがやってくる。
「うるせーガキどもだな。おちおちゲームもできねーや」
ぼさぼさの髪と、無精ヒゲ。
よれた甚平に、底がペラペラしているサンダル。
あまり健康そうじゃない肌の色。
やせ型の40代。
店主のよっちんさん。
このお店を始める前は、商社に勤めるバリバリのサラリーマンだったらしい。
「あー! それアレじゃん!」
「ホントだ! アレだ!」
店主さんを見て、田中くんたちが騒ぐ。
「最近のガキどもは、日本語すらまともに話せねーのか」
「手に持ってるソレだよ!」
「あー?」
田中くんが指差す先には、見覚えのある黒いアイマスク。
ボクやりょーちゃんが使っている端末と同じ物だ。
「くっそー! よっちんも持ってやがるんか!」
「もふってんのか? もふもふしてんのか!?」
「今はメンテ中だろ」
「そーなのか」
「じゃあエロゲーか」
「まだ日があるうちから……」
「お盛んですな!」
「待て、なぜにすぐエロい方向へ持っていこうとする」
「違うの?」
「いや、違くはないが……」
もふオン以外のゲームもやってるらしい。
アクション、スポーツ、シミュレーション、アドベンチャーなどなど。
対応しているゲームなら、同一端末で遊べるようになっている。
「実際のところ、どーなん?」
「……すごいぞ?」
「す、すごいとな?」
「ああ。これがあれば、もう現実なんていらねーぜ」
「そ、そんなに!?」
「アイちゃん(※1)が俺を待っているな! かわいいよアイちゃん! ハァハァ……」
「……あれ? よっちんって彼女いなかったっけ?」
「おい、やめろ」
「えっ? あっ……」
店主さんが遠くをながめる。
それを見て察する田中くんたち。
何かあったんだろうか?
「まあ、もふオン内でナンパすればいいじゃん」
「そうそう、女性プレイヤーも結構いるんでしょ?」
「危うくBANされるところだったんだが?」
「えっ? 何したの?」
「ミニスカ履いてる子の近くで『ウインド(※2)』→『死んだフリ』でパンツ見ようとしてたら、GM呼ばれた」
「よっちん、何してんの……」
「そりゃGM呼ばれますわ」
「納得の破局」
「いや、だって、あんな短い布ひらかせて町中歩いてるんだぜ? 男なら見るだろうが!」
「実行に移しちゃダメでしょ」
「中学生じゃないんだから」
みんなから責められる店主さん。
「……ちなみに、何色だった? SSくらい撮ってあるんでしょ?」
「そいつは……自分の目で確かめてみるんだな」
「あ、きたねぇ! お宝独り占めする気だ!」
「俺にも見せろよ!」
「お前らもGMに追われりゃいいんだ!」
叫ぶ店主さん。
「くっそー……俺がログインしたあかつきには、真っ先にPKしてやるからな!」
「ほぅ……やってみろ」
「お、よっちん強気じゃん」
「ゲーム画面見てると目がショボショボするって言ってたのに」
「おっさん補正があるからな」
「何それ?」
聞き返す田中くん。
ボクも知らない言葉だ。
「リアル年齢が上がるにつれて、ステータスにボーナスが付くんだよ。20台後半くらいから」
「きたねぇ! 大人きたねぇ!」
「おっさんなめんなよ? この介護システムがなきゃ5秒で床ペロ(※1)よ」
「よっちん……」
「まあ、お前らごときなら、システム切っても勝てるだろうが」
「おもしれぇ……そこまで言うならやってやんよ!」
「勝ったら見せろよ?」
「勝てたらな」
「うぉおおおっ!」
『打倒よっちん!』で、盛り上がるみんな。
そういえば、PvP系はノータッチだったかも。
気軽に参加できるコンテンツもあるようだし、今度やってみようかな。
「よし、前祝いで飲むぜー!」
「おうよ!」
「よっちん、ツケといて!」
「追い出すぞコラ」
本業である駄菓子を売っていく。
ちなみに、店内は飲食自由。
機械を壊したら弁償なので、観戦用の席で食べるのが慣例になっている。
「お、やってるやってる」
近所のお兄さんがやってきた。
このお店の常連さんで、よく対戦ゲームをしている人。
「……」
NPC戦を続けているりょーちゃんを見るけど、スルー。
このお店でりょーちゃんは有名なので、あんまり乱入してくる人もいない。
他にやりたがる人もないみたいだし、もう1回やってこようかな。
『K・O』
ダメだった。
なんとか1本取れたけど、そのあとは1ライフも削れずに負けてしまった。
逆方向に避けていたら、もう少し粘れたのに。
「ぬぁーぜだぁ!」
違う台で田中くんが叫んでいる。
さっきとは別の格闘ゲームをやっていた。
「今、投げたって! 俺も投げたって!」
「あと6フレほど早く動け」
「え、ちょ、待って! 今、立ったって! 中段(※4)見えてたって!」
「見えてもガードできなきゃ意味ないぞ」
「ふざけんな! なんで名無しの雑兵ごときが、こんなにつえーんだよ!」
「人は槍で突かれたら死ぬ」
「オイ、待てって。ガードできねぇって。死ぬって。死んだわ」
「死んだな」
「いや今のハメでしょ? 俺のシマじゃ今のノーカンだから」
「農民で乱入してくるほうが悪い」
「うおぉお! 待ってろよ? すぐにボコってやるからな!」
田中くんが席を立つ。
両替に行くのかと思ったら、こっちにやってきた。
「リョウ先生、ヤツらをやっちゃってください。お願いします」
刺客のお誘いだった。
「これ、つまらないブツですが……」
駄菓子を懐から取り出して、りょーちゃんに押しつけてくる。
「おい! リョウ出すのは反則だろ!」
「フリスビー……うっ、頭が……」
「ストーキング……うっ、頭が……」
「胴上げ……うっ、頭が……」
「ほら! 大惨事だよ!」
前にりょーちゃんと対戦した時の記憶を思い出して、みんなが頭を押さえる。
あの対戦ゲームも、ハメ技(※5)や即死コンボ(※6)がたくさんある。
30連勝くらいしたところで、全員の心が折れてしまった。
「帰る」
「あれ?」
対戦のチャンスだから、受けると思ったけど。
「メンテが終わった」
「もうそんな時間なんだ」
19時くらいからと聞いてたけど、今日はそこまで延長しなかったらしい。
「え? マジで?」
「リョウ帰るの?」
「よかった。1クレ(※7)入れて陸上競技を眺める子はいなかったんだ」
「待ってくれ! せめて、あいつらを! あいつらをボコってからにしてくれ!」
田中くんが引き止めるけど、帰る意思は変わらない。
すっごいワクワクしてるのが見て取れる。
「俺もやってくるか」
「よっちんも裏切る気だ!」
「欲しいもんあったら、そこのカゴに金入れて持っていって」
「やらせはせん、やらせはせんぞ!」
「オイ! 変なとこつかむな! 俺の息子がアップデートしちまう!」
店主さんに田中くんがじゃれつく。
「行くか?」
NPC戦をきっちり最後まで終えて、りょーちゃんが立ち上がる。
「うん」
そろそろ夕食の準備もしたいし、ボクも帰ろう。
みんなにあいさつしてから、お店を出る。
「……当たり前のように、2人で帰っていったな」
「あの2人が別行動してたら、町内新聞に載るわ」
「ん? あいつら恋人同士だろ?」
「よっちん、違うんだ……」
「いや、違くはないのかもしれないが」
「でも、違うんだ」
「お前らが何言ってるのか、さっぱりわからんのだが」
「よっちんは……ナツのこと、どう思う」
「どうって……お前らと違って、礼儀正しくてかわいい子だな」
「このロリコンめ!」
「違うわ! おっぱい大好きだわ!」
「ほら。その返しが、もう違うんだよ」
「はぁ?」
「つまり、成長しておっぱい増量したら、ナツでもいいってことだろ?」
「まあ、将来が楽しみではあるな。できればDカップ以上で」
「やっぱり、わかってない」
「何が?」
メンテナンスが終わって家に帰っていったので、ようやく本編に戻れそうです。
※1、アイちゃん:よっちんがプレイしている大人向けゲームのキャラクター。
ロリ巨乳で口が悪い。
仲良くなると髪型や服装を変更できるシステムがあるので、別れた元彼女と似た感じにしているらしい。
よっちん……。
※2、ウインド:単体風魔法。
ウインドの周辺がそよそよするので、チラリズム愛好家のメインスキルになっている。
『スキル修練です!』と言いながら町中で使っている人の99割がそういう目的。
※3、床ペロ:戦闘不能のこと。
床に倒れて地面をペロペロしているように見えることから。
床に落としたアイスをペロペロしている姿を親に見られたことがある私もいる。
※4、中段:しゃがんだ状態ではガードできない攻撃のこと。
立った状態ではガードできない『しゃがみキック』などと組み合わせると当たりやすくなる。
現実世界で説明すると、小さい子の攻撃はしゃがんでいると顔や首に入って痛いが、立っていればどうということはない。
ただ、身長差によってはちょうど頭が急所の高さになるので、普通の抱きつきが一撃必殺になる可能性もある。
※5、ハメ技:一度ハマったら抜け出せない攻撃。
そのまま倒されたり、時間切れで負けになる。
相手のミスが唯一の回避方法になるので、プレイヤーにダイレクトアタックを仕掛けるのが最善行動になる。
現実世界で説明すると、トイレですっきりした後に尻をふこうとしたら、トイレットペーパーがなかった状態。
※6、即死コンボ:HPの10割を持っていく凶悪なコンボのこと。
『超必殺ゲージが満タンで相手が画面端にいること』みたいな条件だったり、入力難易度が非常に高かったりと、見た目ほど簡単ではなかったりする。
たまに弱キック連打だけで永久パターンになるゲームもある。
そういうゲームは他にもお手軽即死があったりするので、ある意味バランスが取れていたりする。
修羅が多く生息しているゲームセンターだと、毎日当たり前のように繰り広げられている。
※7、1クレ:プレイに必要なお金。
ゲームによって『クレジット』だったり『コイン』だったり『お金を入れてね』だったりわかりづらい。
好きなアーケードゲームが家庭用で発売されると、無駄にクレジットボタンを連打して金持ち気分を楽しむ私もいる。




