学校生活
「……暑い」
隣を見ると、お母さんがべっとりと抱きついていた。
幸せそうな顔をして眠っている。
「……」
時計を見ると、朝の5時。
ボクも、あのまま眠ってしまったようだ。
少し早いけど、朝の準備を済ませてこよう。
起こさないように、そーっとベッドから抜け出す。
毛布をかけ直してから、部屋を出る。
いつものように、朝食の準備と、お母さんのお弁当を作る。
掃除や、ゴミ出しも済ませておく。
余った時間でゲーム……は、さすがにやめておく。
そのせいで遅刻にでもなったら、目も当てられない。
帰ってきてすぐできるよう、夕食の下ごしらえでもやっておこうかな。
「お母さん、朝だよ」
時間になったら、お母さんを起こしにいく。
「んー……あとごふゅん……」
「……」
お母さんがなかなか起きないのも、おなじみの光景。
「早くしないと、また時間ギリギリになっちゃうよ」
「……zzz」
「お母さん」
「んー……」
どうにかお母さんを起こす。
それから、2人でご飯を食べる。
身支度を整えて、持ち物を用意して、『行きたくない!』と駄々をこねるお母さんをなだめて、なんとか時間内に送り出す。
洗い物を片付けて、ボクも学校へ行く準備をする。
忘れ物がないか確認してから、外へ。
「……」
太陽の光が目に入る。
今日もいい天気。
天気予報によると、しばらくは晴れの日が続くとのこと。
りょーちゃん家の前まで行き、しばらく待つ。
ガチャ。
玄関が開いて、りょーちゃんが出てくる。
「おはよう、りょーちゃん」
「おはよう」
気のせいか、少し眠そうな目をしている。
夜遅くまでやっていたのかな?
今日から学校だし、無理してなければいいけど。
「……」
「どうしたの?」
「いや、ずっとあっちの姿で会ってたから、その姿に違和感が」
「こっちが普通だからね!?」
ゲームの中ではアレな姿かもしれないけど、こっちが本来の姿。
あっちに慣れてもらっても困る。
運営さんには、早くなんとかしてほしいところ。
「あら、千里ちゃん?」
学校へ向かって歩いていると、声をかけられた。
近所に住んでいる、田辺さんと中田さんの奥さん。
回覧板を届けるときに、たまに会ったりする。
「おはようございます」
「おはよう……もう中学生だった?」
「はい」
「あらー、時がたつのは早いわねぇ」
「ねぇ」
2人でうんうんと、うなずきあう。
「そちらの彼は?」
「りょーちゃんです」
「りょーちゃんって……えっ? 漣さん家の?」
「……おはようございます」
りょーちゃんがあいさつする。
「あらー、こんなに大きくなって……」
「えぇ……? 中学生よね……?」
ボクとりょーちゃんを、交互に見る。
そして、首をかしげる。
よく比べられるけど、どちらも同じ中学生。
平均よりりょーちゃんの背が高くて、平均よりちょっとだけボクが低い。
「あぁ。これから学校なんだから、邪魔しちゃ悪いわね」
「ええ、そうね」
「いってらっしゃい」
「危ない人についていかないようにね」
「はい、ありがとうございます」
手を振って2人を別れる。
遅れないように家を出ているので、時間はまだ余裕がある。
いつものペースで歩いていく。
『……でも、なんで千里ちゃんはスカートじゃないのかしら?』
『あら、男の子じゃなかったっけ?』
『えっ? あんなにカワイイ子が、男の子のわけないでしょ』
『……それもそうね』
『ほら、今は男も女もアレでしょ? どっちでも選べるようになってるんじゃない?』
『ああー、そういう時代なのね』
『昔はもっとアレだったのにねぇ』
『ねー、髪型一つで文句言われたもの』
『まったくよねー』
「おはよう」
教室に着いてあいさつをする、と……。
「きたぜ!」
田中くんが走り寄ってきた。
「?」
「ついに『アレ』の発送が再開されたんだよ!」
「アレ?」
「そう、アレ!」
興奮気味にまくし立ててくる。
アレってなんだろう?
りょーちゃんのほうを振り返る。
「端末か?」
「そう、ソレ!」
どうやら、ゲーム用の端末のことだったらしい。
「今週中には届くっぽいぜ!」
「そうなんだ」
「おうよ! これでようやくオレも、ファンタジーな世界で英雄プレイができるぜ!」
発売から1ヶ月ほど品薄状態が続いていたけど、ようやくそれが収まってきたようだ。
これで、みんなと一緒にプレイできる。
……と思ったんだけど。
「もうギルド作った!? ヨシ兄とかも誘って、みんなでやろうぜ!」
「そ、そうだね」
「職とかどうした? 強さもそうだけど、見た目も重要だよな!」
「……」
どうしよう……。
このままみんなとゲーム内で会ったら、女装をしていることがバレちゃう。
絶対に変な人だと思われちゃう。
「ナツもやるよな?」
「う、うん……」
「城取りに行こーぜ、城! 狙いは首都で!」
「初期町の城持ってるギルドメンバーは、500人以上いるぞ(※1)」
「あー……うん。まずは地方から順に攻めていこうか」
「少ないところなら10人未満で保持してる」
「それだ! PvP向けの職って何かある? できればかっこいいヤツで……」
みんなで楽しそうに話しているのを、少し離れたところから見つめる。
もう1回、運営さんに連絡してみようかな?
みんながゲームを始める前に、なんとかしないと……。
「お前らー、席につけー」
先生がきたので、いったん話が終了する。
ここで考えていても仕方がないし、今は学業に専念しよう。
リアルステータスを稼ぐためにも、しっかり勉強しなくちゃ。
しばらく日常話が続きます。
※1、ギルド人数:1ギルドの上限は100人。
ギルド同士で『連盟』を組むことにより、巨大な組織として活動できるようになる。
攻城戦は傭兵参加ができるため、とにかく人数を集めたほうが有利。
千人を超える大規模連盟も。
現実世界で説明すると、ラーメンに浮いている油をツンツンして、1つの巨大なかたまりにすること。




