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三井さん再び

「うん、ぴったり♪」

「……」


 フリフリ付きのワンピースに着替えて、お母さんに見せる。

 ヒザが出てしまう長さなので、なんだか落ち着かない。

 これなら、いつものヒーラー服のほうがいいかも。

 あっちのほうが露出は抑えられるし、ここまでリボンは付いてない。


「……」


 いやいやいや!

 よくないよ!

 アレだって女の子の服だよ!

 あわてて首を振る。

 ゲームの中では、ずっとあの格好してるせいだろうか。

 だんだんと、抵抗がなくなってきている気がする。

 ……いつか慣れてしまいそうで怖い。


「ほぁー……ちーちゃん、かわいい♪」


 ぐるぐる回って確認しているようだけど、服の感想だけでいいと思う。

 ボクに対する感想は必要ないと思う。


「もういい?」

「んー……たまらん!」

「わっ!」


 押し倒された。


「急に抱きついてきたら、危ないよ……」

「くんかくんか……」


 顔をうずめて、においをかいでくる。

 ボクは特に感じないけど、新しい服のにおいでもするのかな?


「ちーちゃん……はぁはぁ」

「ここまで近いと、服はよく見えてないよね?」

「感触が大事なの!」


 そういうことらしい。

 満足するまで、しばらく待つ。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


「長いよ!」

「ちーちゃん、おなかすいたー」

「わかったから、まずはこの手を離して」


 よいしょと、お母さんを引きはがす。

 それから、服を脱いで……。


「脱いじゃうの!?」

「うん、料理するからね」

「やだー!」

「やだーって……せっかく新しい服なのに、汚れちゃうよ?」

「エプロンつければだいじょーぶ!」

「そこまで万能じゃないんだけど」


 普通のエプロンなので、汚れるときは汚れる。

 揚げ物なんかを作る場合は、どうしても油はねするし。


「むしろ、エプロンつけたところを見たい!」

「……」


 だんだんと、目的が変わってきているような……?

 いまさら抵抗しても無駄ので、お母さんの好きなようにさせておく。

 他に見る人もいないし。


「何か食べたい物ある?」

「んー……マカロン!」

「夕食にはならないと思うけど」

「バニラアイス!」

「それもデザートだよ」

「お魚!」

「うん、わかった」


 冷蔵庫に、アジの干物があったはず。

 豆腐なんかも使って、和食にしよう。

 エプロンをつけて、いつも通りに料理を作っていく。


「じー」


 何が楽しいのかわからないけど、じーっとこちらを見ている。

 特に害はないけど、見られていると気になってしまう。

 あと、距離が近い。


「ちーちゃん、下着もカワイイのにしよ?」

「下からのぞかないで!」


 すそを押さえて後ずさる。


「こんなのどう?」

「はかないからね?」


 新しい下着を見せようとしてくるお母さんを、居間へと移動させる。


「似合うと思うのに」

「ボクには必要ないよね?」

「その服とおそろいなの!」

「じゃあ、この服と一緒に、お母さんが着ればいいと思うよ」

「お母さんだと、サイズが小さいから」

「なんで買っちゃったの!?」


 この家には、お母さん以外に着る人はいない。


「ちーちゃんに似合いそうだと思ったから!」

「……」


 胸を張って言われても……。

 せっかくお金を使うなら、ちゃんと自分のために使ってほしい。

 毎日がんばって働いているんだから。


「だから……ね?」


 料理が完成するまで、ひたすら勧誘は続いた。

 もちろん、すべて断ったけど。




 ピンポーン。


 料理を並べていると、チャイムが鳴った。

 誰か来たみたい。

 お母さんは……もう目の前の料理に夢中。

 全然気づいてない。

 ボクが対応する。


「はーい」

「うっす」


 三井さんだった。


「お母さんに用事ですか?」

「ああ、忘れ物を届けにな」

「ごめんなさい。母がご迷惑をおかけして……」

「千里くんのせいじゃないさ」


 三井さんはそう言うけど、やっぱり申し訳ない気持ちになる。

 今回が初めてじゃない。

 3回お出かけしたら、2回は忘れてくる。


「んじゃ、ちょっとお邪魔するよ」

「はい、どうぞ」


 お母さんのところまで案内する。


(あかね)ー、忘れ物してっただろ」

「んぅ?」


 リスみたいにほっぺたをふくらませたお母さんが、くるりと振り返る。


「ふぁふへほごっへ?」

「お母さん、口の中に食べ物入れたまま話しちゃダメだよ」


 しばらく待ってもらう。


「ほれ、カバン」

「ありがと、みっちゃん」

「帽子」

「ありがと、みっちゃん」

「傘」

「ありがと、みっちゃん」

「お母さん……」


 買い物したらテンションが上がっちゃって、買った物だけ持って帰ってきた姿が目に浮かぶ。

 もう少し、落ち着いて行動してほしい。

 いつものことすぎて、三井さんの反応も淡々としている。


「そんじゃ、帰るわ。明日は遅刻すんなよー」

「それは、ちーちゃん次第だね!」

「ちゃんと起こします」

「母親がコレでも、娘……じゃなかった、息子はちゃんと育つんだな」


 わしゃわしゃと頭をなでてくる。


「しかし、うまそうなニオイがしてるな」

「やらないよ!」


 両手で料理を隠すお母さん。


「ボクはまだ手を付けていないので、よかったらどうぞ」

「いや、旦那が家で待ってるからな」

「仲直りができたのですか?」

「まあ……そんなところだ」


 そっぽを向きながら答える。

 ちゃんと仲良くしてくれたようでよかった。


「あ、それなら……」


 作ってあったマカロンを取りにいく。

 お菓子用のシートで包んで、リボンで結ぶ。


「これ、千里くんが?」

「お母さん用に作ったので、ちょっと甘すぎるかもしれませんが」

「もらっていいのか?」

「はい、どうぞ」

「それじゃ、遠慮なく」


 マカロンの入った袋を差し出すと、それを……受け取らない。


「?」


 ボクのお腹にタックルするような形で密着し、そのまま持ち上げる。


「ごちそうさん」

「えっ?」


 玄関へ向かって歩いていく。


「あの……三井さん?」

「ん?」

「ちーちゃん連れてったらダメー!」


 お母さんが足元にすがりつく。

 がんばって引き戻そうとしているけど、逆に引きずられていく。


「うわーん! ちーちゃーん!」


 泣き出した、

 身長差があるので、親の出勤をごねる子供みたいに。


「悪い悪い」

「ちーちゃん!」


 三井さんに降ろしてもらうと、お母さんが抱きついてきた。


「いやー、きれいにラッピングしてあるから、持ち帰っていいのかと」

「お菓子はこっちです!」

「あー、お菓子もそうだな」

「お菓子もって……」


 まるで、ボクにも包装が付いているみたいな言い方。

 朝のリボンはもう外したし、他におかしいところは……。


「!?」


 そこでようやく自分の姿に気づく。

 お母さんが買ってきた服を着たままだった!


「似合ってるぞ?」

「――っ!」


 顔を覆って、その場にしゃがみ込む。

 恥ずかしい!

 朝のリボンに続いて、2回目の失態!


「でしょー! うちのちーちゃんは!」

「ああ、まったくだ。持ち帰っていいか?」

「ダメ!」

「冗談だって。半分くらいは」


 お菓子を取りに来る。


「どうした? 少年」

「見ないでください……」

「そんな座り方してると、パンツ見えるぞ?」

「っ!」


 太ももを押さえて、距離を取る。


「そんなに気にしなくてもいいのに」

「気にします……」


 男なのにこんな服着てるなんて、絶対に変だと思われる。

 好きで着てるわけじゃないのに……。


「まあ、その……なんだ。もう少し大きくなれば、茜もやらなくなるだろ。成長期なんだから、すぐさ」

「……そうですか?」

「ああ。今、茜との身長差が……10cmくらいか? 今年中に抜かしちゃうかもな」

「ボクも、ちゃんと伸びるでしょうか?」

「もちろんさ」


 そうだよね。

 成長期だもんね。

 これからどんどん伸びていくよね。

 来年の今頃には、お母さんを見下ろす高さになっているかもしれない。

 もしかしたら、すね毛とかも生えてきちゃうかも!


「……ちょろいな」

「えっ?」

「いや、なんでもない。そんじゃ、これもらってくわ」

「はい、気をつけて」

「じゃーねー!」


 お母さんと一緒に、三井さんを見送る。


「ごっはんー、ごっはんー♪」


 食卓へ戻っていく。

 ボクもご飯食べよう。

 いっぱい食べて、早く大きくならなくちゃ。

 ゲーム外でもしっかりと恥ずかしい姿をさらしていく。

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