ぬいぐるみ騒動
料理クエスト無事に終わったし、りょーちゃんを探す。
クエストNPCの近くだけあって、人が多くて探しづらい。
ボクもりょーちゃんくらい背があったら、もっと見つけやすいんだろうけど。
『ちいさい子がぬいぐるみ抱えてる! かわいい!』
『ホントだ、かわいい!』
『SS撮らなきゃ!』
『こっち向いてー♪』
お姉さん2人組が、楽しそうに会話している。
近くに小さい子がいるようだ。
年齢制限はないので、たまに小学生くらいの子も見かける。
はしゃいでる兄弟なんかが通ると、ほんわかする。
『ようじょが現れたと聞いて!』
『どこだし!? オイ! 見えねぇぞ!』
『あー? 正直ロリとかまったく興味なんて……ふぅ』
『股間押さえんなwww垢BANされるぞwww』
『お前ら、ようじょが湧くとすーぐコレだ。紳士として恥ずかしくないのかね』
『お前も素直になれよ』
『ひざの上に乗せてナデナデしたい』
『アウトーwwwGMさーん、ここでーすwww』
……?
人が集まってきているけど、それっぽい子の姿が見えない。
サーバーの負荷軽減のために、表示制限がかかっているのかな?
『こっちこっちー! うわっ! お目目キラッキラしてるよ!』
『月曜の朝のうつろな目をしたあんたとは大違いだな。そういやもう日曜の夕方か』
『やめて、ゲーム中でリアルの話はしないで』
『金曜期限の書類提出しないで帰ったんだっけ?』
『やめて、やめてください、おいやめろ』
『あぁ~。ヒールされたいわー』
『お前の汚れた属性だとダメージ受けそうだけどな』
『ディバインレイ(※1)ぶっ刺されたい』
『魂ごと浄化されてこい』
『汚物を見るような目で蹴り上げてほしい』
『そうだな、病院へ行こうな』
『そういや、ネコの着ぐるみアバターあったよな……ひらめいた!』
『通報しました』
『まだ何もしてないだろ! ネコアバターになって幼女と触れ合いたいだけだ!』
『確実にアウトだよ』
『ネコミミヘアバンドあれば、俺のことも抱きかかえてくれるかな?』
『まずはその豚みたいな腹をどうにかしろ』
『俺、実はネコなんだ……』
『意味ありげな言い方はやめろ』
みんなの視線がこちらに集まってくるけど、背後には建物があるだけ。
小さくて、見た目ヒーラーで、ぬいぐるみ持ってる。
……。
もしかして、ボクのことだったり……?
『なんだ? イベントか?』
『我らの天使が舞い降りたのじゃ』
『あ? ガキがいるだけじゃねーか』
『ガン飛ばすなし! 幼女がおびえてるじゃないか!』
『あ? 別ににらんでねーよ』
『普通にしててもデカくて目付き悪くて怖いんだから、気をつけないと』
『は? そんなん知らねーし……俺のせいじゃねーよな?』
『うお、すでにPT組んでるっぽい……ということは、近くに別のようじょが……!?』
『お前のその発想には感心するわ』
『金髪ツインドリルロリはどこだ!?』
『男だったらどうするんだ』
『ショタだと!? 全然余裕だわ!!』
『お前の守備範囲にはドン引きするわ』
『子供と仲良くなるなら、笑顔が一番だよな。こんな風に……ニコッ』
『快楽殺人者みたいなスマイルやめろ』
『もっと楽しそうに笑わないと。こうやって……ニコッ』
『それは泣いて謝る相手の指を1本ずつへし折っていく時の顔だ』
『まったく、なってねぇヤツらだぜ。俺が手本ってやつを見せてやるよ……ニタァ』
『誰かー、モザイク持ってこーい! 放送できねぇヤツだコレ!』
どうしよう。
楽しそうな雰囲気に釣られて、どんどん人が集まってくる。
あんまり近くで見られたら、男だってバレちゃう!
「行くぞ」
「りょーちゃん!」
手をつかんで、その場から引っ張っていく。
チラッと振り返るけど、追ってくる人はいなかった。
「ありがとう、りょーちゃん。どうしていいのかわからなくて困ってたよ」
「1町では珍しいが、5町なら日常茶飯事」
「そんなにすごいんだ」
いつか行ってみたいけど、なかなか勇気がいりそう。
目立つ格好をしてなければ、大丈夫だと思うけど。
「そういえば、ぬいぐるみをもらったけど」
何に使うアイテムなんだろう?
マイホームを購入することもできるみたいだし、そういうところに飾っておく用なのかな?
「鈍器だぞ、ソレ」
「えっ?」
アイテム説明を開いてみる。
ネコのぬいぐるみ:軒下ネコが自分の毛をむしり取って作ったぬいぐるみ。夜中になると動き出す。
カテゴリー:鈍器
攻撃力:1~1
重さ:軽
スロット:0
OP:おひるね効果1%増加
「ホントだ!」
武器扱いになっていた。
攻撃力はほぼないので、武器としては使えそうにない。
「おひるね効果って……状態異常回復だっけ?」
「ああ、回復速度が増える」
「なるほど」
状態異常がきつい狩場では、使えることもあったり?
「他に追加報酬は?」
「えっと……ぬいぐるみと、スキルポイントと、ステータス振りだけ」
「そうか」
「今回もお金がもらえたの? いろいろあって、ちゃんとした料理を出せなかったんだけど」
「料理の評価で変動して最大5000ゴールド。ぬいぐるみは食べ物だった場合にもらえる」
「ぬいぐるみは普通にもらえるんだ」
お金はもらえなかったので、評価自体は低かったらしい。
「全然お金稼いでないんだけど、金策(※2)したほうがいいかな?」
「テンプレ装備(※3)くらいはあったほうが楽だな」
「そうだよね」
初期装備の見習いロッドと、見習いヒーラー服。
それと、拾ったショートボウと、もらった靴。
これだけしかない。
頭、手、背中といった通常装備部分。
耳、首、指といったアクセサリー部分は空いたまま。
あと、アバター装備もないけど、基本は有料なので気にしないでおこう。
できれば、もっとかっこいい見た目にしたいけど……。
「テンプレ装備って、だいたいどれくらい?」
「支援向きの『ヒール強化』『MP強化』『詠唱減少』どれを選ぶかにもよるが、安い部分なら50kくらいからある」
「5万G……」
所持金がひとケタな身としては、遠い夢物語に感じる。
「地道にためるしかなさそうだね」
「レア出せば一発だ」
「そう簡単にレアって出る?」
「全身光り輝いてる装備に見えるか?」
「やっぱり、そうだよね……」
ベータテストからやってるりょーちゃんでも、お金集めには苦労している。
高額なレアドロップを夢見つつ、地道に稼いでいくのが一番かな。
「太くて立派なキノコと聞いて!」
「わっ! びっくりした」
突然、目の前にナビ子さんが現れる。
お仕事のほうは、もう大丈夫なのかな?
「20になったんですよね!? 当然20クエ受けますよね!?」
「料理作るクエストですよね?」
「イェース! キノコですぜ! 『ロリっ子がひと気のない山奥で猛々しい初物キノコ狩り』とか、字面だけでたぎってきますわっ!!」
ウッヒョーウッ! と、こぶしを突き上げて語るナビ子さん。
キノコが好物なのかな?
「あぁ~ん、ダメェ! こんなに太くて硬くてそそり立ったキノコなんて(カバンに)入らないのぉ~! とかイっちゃうわけですねっ!? わかります! わかりますともぉっ!!」
「さっき終わりました」
「そんなに強く握ったら、先っちょから汁が出ちゃうのぉおおお! もっとやさしく触っ……え?」
飛び回っていたナビ子さんが、こちらを振り返る。
「なんですと……?」
「そのクエストなら、さっき終わりました」
「……」
ぽとりと、地面に落っこちる。
「ナビ子さん……?」
「こんな一大イベントを見逃すとは……ナビ子、一生の不覚!」
「そんなにキノコが好きなのですか?」
「キノコが嫌いな業界人はいません!」
「業界……?」
ナビ妖精さんは、みんなキノコが好きなのかな?
「他には何かやってませんよね!? 見逃してませんよね!?」
「そのクエストをやっただけです」
「だったら……まあ、ギリギリ、なんとか、許容できるか……?」
「キノコを採りに行って、追いかけられて……町に戻って、バターを作って、おじいさんと会って、ネコさんのところへ行きました」
「……バター?」
「はい、牛乳から作りました」
「牛乳……つまり、顔○ミルク!?」
顔に引っ付く勢いで、ナビ子さんが飛んでくる。
「がん……?」
「顔にドピュッと飛び散るって意味です」
「そういえば、顔にちょっと飛び跳ねましたけど……」
「うごぁあああああっっっ!!」
頭を抱えた姿で固まる。
「そんな……ようじょの……どろり濃厚白濁液○○○○○○まみれを見逃すとは……」
「ナビ子さん……?」
ぷるぷると肩を震わせる。
「あの○○GMの野郎……○○○短けぇくせに、お説教だけは長々としやがって! 偉そうな講釈垂れ流す前に、まずは自分の○○○を……」
「?」
ナビ子さんの姿が見えなくなる。
また急な呼び出しかな?
キノコが好きみたいだし、また今度料理を作ってみよう。
ウッヒョーウッ!
※1ディバインレイ:光属性の単体攻撃魔法。
ダメージに関係するステータスがMINDなので、INTが低いタイプのヒーラーが不死や悪魔族を倒すのによく使っている。
現実世界で説明すると、周りはどんどん結婚して幸せになっているのに、いい歳になっても結婚もできず危機感が生まれている独身の人に届く『子供が生まれました』のハガキ。
※2、金策:強力な装備を入手するためには避けて通れない道。
クエストを繰り返して地道に稼いだり、モンスターを倒してレアドロップを狙ったり、課金アイテムを露店で売ったり、錬金術で一発大逆転を狙ったり、カジノで全プッシュしたり。
確率的には勝つか負けるかの50%なので、より配当が高いほうへ流れていくのは必然。
たとえ何回か負けたとしても、一発当たれば負け分は取り戻せるので問題はない。
私はそのおかげで、もやし生活を続けています。
※3、テンプレ装備:入手性がよくて、お値打ちであり、ほどほどな性能をしている装備のこと。
最上級のダンジョンでは厳しいが、ちょっとその辺に行くくらいなら困らない。
現実世界で説明すると、しま○らとかユ○クロ。




