おりょうり納品
ドサッ。
「?」
作った料理を納品しようと歩いていたら、物音が聞こえた。
その方向を振り返ると、誰かが倒れていた。
あわてて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うーん……」
じゃがれた声が聞こえてくる。
やせ細ったおじいさん。
「あれ?」
抱き起してみると、どこかで見たような顔が……。
「ばーさんや、飯はまだかのぅ……」
「あの時の!」
最初のクエストで出会ったおじいさんだった。
ずいぶんとやつれている。
「ご飯を食べていないのですか?」
「め、飯……」
「これでよければ」
フライパンを取り出して、おじいさんに渡す。
ハシやフォークがないので、おたまで我慢してもらう。
「すまんのう、ばーさんや」
「おばあさんではないですけど」
体を動かすのが辛そうだったので、そっと支える。
クエスト用に作った料理だけど、材料は多めに用意してある。
5分もあれば作り直せる。
あ、でも、バターは足りないかも?
「ふー、生き返ったわい」
「元気になったみたいで、よかったです」
ぺろりと完食。
ホントにお腹がすいてたらしい。
『わんっ!』
「?」
ドドドドっという地響きと共に、何かが近づいてきて……。
「わっ!」
押し倒される。
「……ポチさん?」
「わんっ!」
ぺろぺろと顔をなめてくる。
こちらもクエストで出会った雪ウサギさん。
「こら! ポチ! 人を押し倒しちゃダメって言ってるでしょ!」
どこかで聞いたことのある少女の声。
そちらに顔を向けると、おじいさんのお孫さん……アイリさんがいた。
「あら、逆さになってパンツ見えそうになってた子じゃない」
「それは忘れてください!」
確かに、そんな出会いだったけど!
思い出したら恥ずかしくなってきた。
早く普通の服を着たい。
「ポチ、お座り」
「わんっ!」
さっと地面にうずくまり、普通のウサギっぽい姿になる。
ここって石畳なんだけど、どうやって体を収納してるんだろう?
質量がファンタジーしている。
「あ、おじいちゃん! 探したんだから!」
「おお、飯の時間か……?」
「あとで食べさせてあげるから、それまで待って……あら?」
手にしたフライパンに気づく。
「おじいちゃんに食事を与えてくれたの?」
「ちょうどクエストで作っていたので」
「ありがとう、3日前から探してたのよ」
「そんなに前から!?」
予想以上に食べてなかった!
無事で見つかって、本当によかった。
「ポチ、お願い」
「わんっ!」
ひょいっと、おじいさんを担ぎ上げる。
「本当ならお礼をしたいところだけど、おじいちゃんを病院へ連れて行かないと……」
「早く連れて行ってあげてください。目に見えてやつれていますし」
ゲーム上の演出なんだろうけど、かわいそうなくらいほっそりしている。
「ありがとう」
「お大事に」
みんなを見送る。
特にクエストが発生した感じでもないし、ただの偶然だったようだ。
元気に動き回るのはいいけど、迷子になるのは困っちゃうかも。
「さて」
クエスト用に、料理を作り直してこよう。
おいしそうに食べてくれていたし、作り方は同じでいいかな。
「おお、出来たんですね!」
「ニールさん?」
回れ右したところで、ニールさんがやってきた。
「お待ちしておりましたよ! これですね!」
「あ、それは……!」
食べ終わったフライパンを持っていく。
「さっそく渡してきます!」
「待ってください!」
あわてて後を追いかける。
渡すもなにも、残り汁くらいしか残ってない。
「待って……待ってください!」
速い!
歩き慣れているのか、人ごみの中をするりと抜けていく。
なんとか追いつこうとしている間に、お店の前まで来しまった。
「さあ、どうぞー!」
地面にフライパンを置く。
「?」
どうして地面に……?
周りを見ても、それらしき人影は見えない。
はてなマークを浮かべていると、お店の軒下から何か出てきた。
「にゃー」
黒いネコ。
ちょっとぽっちゃり体型。
鼻のところだけ、白い模様が付いている。
堂々とした足取りで、フライパンに近づいていく。
「えっ? お客さんって、この子ですか?」
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないです!」
「にゃー」
「人用に作ってあるので食べちゃダメです!」
滑り込みながら、フライパンを取り上げる。
ニンニクや塩を使っているので、ネコに与えるのはよくない。
「案ずるな、娘よ。人の食べ物であっても、腹を壊すことはない」
「しゃべった!?」
「ハハハ、おもしろいことを申す娘よ。そなたも吾輩も、口があるであろう?」
「えーと……はい。それは、そうですけど……」
ボクが知っているネコは、口があっても人語を話さないけど。
「どれ」
ひょいっとジャンプして、ボクの腕に飛び乗ってくる。
そして、フライパンの中をぺろっとなめる。
「熱ぅ!」
「ああ、ごめんなさい!」
ふーふーしてフライパンを冷ます。
「すまんな、猫舌でな」
「そうですね」
どこからどう見てもネコ。
「ふむ、味は悪くない」
ぺろぺろなめながら、感想を言っていく。
「最近だと『トゲ付きの鉄球』や『トゲの盾』を持ってくる者もおったしの」
「た、大変ですね」
食材の要素がどこにもない。
雑草でもクエストクリアになると聞いていたけど、さすがにそれは……。
「歯が折れるかと思ったわ」
「それも食べちゃうのですか!?」
すっごいワイルドだ!
「アレらと比べたら上等ではあるが……キノコが食べたかった」
「少しお時間をいただけましたら、ちゃんとした料理を作ってきます」
「まあ、これでよしとしよう」
『クエストを達成しました!』
条件を満たした(?)ようで、クリアマークがつく。
今回の報酬は、おなじみの『スキルポイント』と『ステータス割り振り(※1)の解放』。
これで、りょーちゃんみたいに『極振り』できるようになった。
ボクはやらないけど。
「ありがとうございます、冒険者様! また何かあったら、お願いします!」
ニールさんが手を取って、ブンブンと振ってくる。
だんだん揺れ幅が増えていってるのは、好感度が上昇してる証なんだろうか。
「料理であれば常に募集中だ。吾輩の元へ持ってくるとよい」
「はい、今度はちゃんとした料理を持ってきます」
「うむ。味の評価、毒の判別、大量に余った食材の処理など、なんでもこの吾輩に任せてくれたまえ」
「お腹壊しちゃいませんか?」
「何事もチャレンジさ」
そう言って、軒下へと戻っていく。
「そうそう」
後ずさりしながら、ネコさんが戻ってくる。
「なかなかよい味付けだったから、これをやろう」
「?」
両手を出して受け取る。
同じくらいのサイズの、ネコぬいぐるみだった。
本人(本ネコ?)に似ているけど、少し手足が長くなって体型がしゅっとしている。
「もしまた気に入った料理があったら、特別な褒美をやろう」
「ありがとうございます」
料理の一部だけでも評価してくれるようだ。
料理を作るのは楽しいし、レベル上げの合間にでも作ってみようかな。
「さらばだ」
「体に気をつけてくださいね」
軒下にもぐって、しっぽを揺らしている。
こうしていると、普通のネコにしか見えない。
『見た目がウサギっぽい何か』といった生物もいる世界だし、ネコがしゃべるくらい普通なのかも?
軒下のネコはなんでも食べます。
『こちら側のどこからでも切れます』と書いてあるのに3カ所くらいぐぃーってなって開かなかった時の切ない気持ちも食べてくれます。
※1、ステータス割り振り:RPGではおなじみの好きなステータスにポイントを振れるシステム。
このゲームでは直接ポイントを振るのではなく、STRに50%、INTに10%みたいに割合で振っておいて、Lvが上がったらその分上昇する方式。
ステータス上限は50。
Lv50になった時点で到達するようになっている。
現実世界ではバグだらけになっており、複数のステータスで上限突破するような人もいれば、すべてのステータスを足しても3くらいにしかならない私もいる。




