はじめてのおりょうり
「あとは、コレを振るだけだね」
牛乳を入れたビンのふたを、しっかりと閉める。
そして、ひたすら上下に振って、振って、振って……。
「疲れはしないけど、大変かも……」
一向に固まる気配がない。
かなり時間がかかりそう。
この手順で合ってるよね?
動画のチャレンジ企画で作っていたのを、前に見たことがある。
その動画では、ちゃんとバターになっていた。
「もっと楽な方法がある」
「?」
りょーちゃんが歩き始めたので、あとをついていく。
すぐそばのスライム地帯。
見渡す限りの草原で、それっぽい装置はない。
サクッ。
1本だけ生えている木のところへ行き、そのすぐ横に剣を突き立てる。
いつも使ってる短剣とは違う、長い剣。
予備の武器かな?
突き刺した剣の柄と、木の幹をつなぐように、太めのヒモを結んでいく。
ヒモというよりは、ゴムっぽい感じ?
ぶるぶるしていて弾力がありそう。
ぐるぐる巻いてから立ち上がる。
「?」
今度は小石を拾い、スライム目がけて投げつけた。
アクティブになったスライムが、りょーちゃんに近づいていく。
ぽいーん、ぽいーん……ガッ!
木と剣で作った柵に引っかかる。
さらに突き進もうと、その場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
ぽいん、ぽいん、ぽいん。
「どんどんめり込んでる」
「直進するAIしかないからな」
体の3分の1ほどめり込んだところで、それ以上前に進まなくなる。
それでもまだ進もうと、ぴょんぴょん跳ね続ける。
「適当に埋め込んどけばいい」
「ビン?」
「ああ」
なるほど。
こうしておけば、振る作業を肩代わりしてくれる。
そっとビンを乗せると、その重さで体にめり込んだ。
落ちて割れる心配はなさそうだ。
「ブレスかけるともっと元気になる」
「?」
言われた通り、スライムにブレスをかけてみる。
ぽぽぽぽぽぽぽぽぽいーん!
「ぷるぷるしてる!」
速度が上がって、激しく跳ね回る。
ゴムの反射と合わさって、残像が見えるほどの勢いとなっている。
「薪でも集めとくか」
「そっか、燃料も必要なんだね」
ガスや電気で調理という感じではないし、火を起こす必要がある。
使えそうなものがないか、周辺を探していく。
「生木しかないけど燃えるかな?」
「インフェで炭になるから問題ない」
生活面でも魔法は便利。
近くに大きな木はないので、小枝を集める。
1回分の料理なら、これくらいでなんとかなるかな?
集めた枝を収納していく。
「そろそろだな」
薪を集め終え、座って景色を眺めること10分くらい。
りょーちゃんが、スライムに近づいていく。
ザシュ!
「あ」
問答無用で両断。
ドロップしたビンを拾う。
「ほら」
「うん、ありがとう……」
ビンを受け取る。
中を見ると、少しだけ固形物があった。
ちゃんとバターができた。
それはうれしいんだけど……。
「……」
地面へ消えていくスライムの残骸。
働かせるだけ働かせて、用が済んだら処分。
いくら相手がモンスターとはいえ、罪悪感が……。
「戻るか」
「……うん」
心の中で感謝してから、町へと戻った。
「キャンプ場みたいだね」
ずらーっと並んだかまど。
たくさんの人々が、そこで料理を作っていた。
使用料などは特にないようなので、空いている場所を確保する。
「集めた小枝は、どうすればいいの?」
「普通にセットすればいい」
バーベキューをする時の要領で、拾ってきた物を組んでいく。
りょーちゃんが手を上げると、近くにいた魔法使いらしきお姉さんが寄ってきた。
「頼む」
「オッケー」
杖の先が光り、かまどの中に炎が生まれる。
少しずつ広がっていき、かまどを覆い尽くしていく。
「助かった」
「こちらこそ」
慣れた感じで去っていく。
「あ、ありがとうございます!」
ボクも背中に声をかけると、振り返って笑顔を残していった。
「あの人は……?」
「スキル修練(※1)の一環」
「対象はモンスターじゃなくてもいいの?」
「インフェの修練は物でもカウントされる」
「そうなんだ」
視線を移すと、他にも火をつけている人がいた。
火を起こす必要がないので、料理する側としては助かる。
「早くしないと燃え尽きるぞ」
「そうだった!」
フライパンを取り出して熱する。
その間に食材を切って……まな板がなかった!
何か代わりになりそうな物……。
カバンの中を探すけど、それらしき物はない。
「?」
りょーちゃんが、何か差し出してくる。
短剣と、大きなせんべい。
「包丁とまな板の代わりになる」
「ありがと」
せんべいのほうがちょっと気になったので、アイテム説明を見る。
てっこつせんべい:げんこつせんべい1000枚分の硬さ。しょうゆ味。
カテゴリー:盾
防御力:4
スロット:0
OP:遠距離耐性5%
「装備品だった!」
「オクアチャのスマショすら防ぐ。水につかるとふやけるのが難点だが」
「ホントだ、カッチカチ」
軽く叩いてみると『キンキン』という金属っぽい音がした。
これなら、刃を入れても大丈夫そう。
ジュー。
まずは、みじん切りにしたニンニクをバターでいためる。
火力が強いので、焦がさないように注意。
香りが出てきたら、切った食材を投入。
さっといためていく。
焼き色がついたら塩とコショウで味を調え、ハーブで見た目と香りを添える。
最後に、ちゃんとできているか味見をして……。
「……うーん?」
あんまり味がしない?
手順としては間違えるところもないので、分量が違ってたのかな?
「ゲームの補正がかかってるから、味や香りはほぼない(※2)」
「そこは再現してないんだ」
「リアルに再現しすぎると、ゲーム内で満足して現実で食わないのが出てくるからな」
「りょーちゃんみたいに?」
「ああ」
当り前であるかのようにうなずく。
「リアル完全再現だったβ時代だと『腐った肉を食べたプレイヤーが現実でリバースした』という逸話もある」
「それは確かに困るかも」
ホラー映画を見ただけでも、食欲がなくなることだってある。
味やニオイまで再現されていたら、それはもう大変なことになりそう。
「じゃあ、ひとまず完成でいいのかな?」
「そうだな」
あとは、お皿に盛りつけて……お皿もなかった!
必要な物が全然足りてない。
もうお金もないし、フライパンのまま持っていくことにしよう。
「?」
カバンに収納すると『できたての もこもこタケソテー』という名称になっていた。
「完成した時間によって料理名が変わるの?」
「作ってから10分間は『できたての』が、1日過ぎると『カピカピした』が付く」
「『できたて』あったほうが、評価よさそうだね」
「基本はそうなる。熱いと評価下がるNPCもいる」
「猫舌のNPCもいるんだ」
相手によって時間を調整したほうがいいけど、今回の場合はどうなんだろう?
特に指定はないから、できたてでいいのかな?
「とりあえず、渡してくるね」
「ああ」
ゆっくりしてたら冷めちゃうし、さっさと渡してこよう。
りょーちゃんに道具を返して、クエスト開始地点へと向かう。
家にはフライパン系が中華鍋しかないので、ホットケーキを作ると前回作ったチャーハン風味になります。
※1、スキル修練:無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き。
スキルを習得するのにスキル経験値をためる必要があるため、いろんな場所でスキルを使う人が発生している。
町中で剣を振り回していたり、ムチで叩かれていたり、ロウソクを垂らされているのは、すべてスキル修練のためである。
決してそういう性癖なわけではない。
現実世界でもキン○マ鍛えている武術の達人とかいるので、きっと正しい修練方法。
※2、味覚補正:どことなく味がしないような気がしないでもない。
全年齢版の健全なゲームでは規制が厳しいので、味覚や食感はマイルドになる補正がかかっている。
ゲーム内で料理を作っても、昼飯に食べたラーメン餃子セットのニンニク風味が優先される。
現実世界で説明すると、ステーキの画像を見ながら白飯を食べる行為。




