性別がヘン1
「どうしよう、りょーちゃん!」
どうしたらいいのかわからず、りょーちゃんに泣きつく。
「女性として登録されちゃってるよ!」
「そうだな」
「気づいてたの!?」
「服装が違った」
「恥ずかしい!」
その場にしゃがみ込み、両手で顔を隠す。
ずっと、こんな姿を見られてたんだ。
今すぐどこかに消え去りたい……。
「うう……気づいてたなら、言ってくれてもよかったのに……」
「たいした問題でもないかと」
「大いにたいした問題だよ!?」
女性キャラクターを選べるゲームなら、女性物の服装でも問題ない。
中身は違っても、見た目は合ってるわけだし。
でも、自分の見た目で、女性用の服を着るとか、とんでもない罰ゲームだよ!
「お? どうしたー? 痴話ゲンカか?」
「おい、にーちゃん。女の子を泣かせるのはよくないぜ」
「リア充め……ゲームの中でまでイチャツキやがって」
「よ、ようじょがおるでござる……ハァハァ」
人通りの多い場所で騒いだせいか、周りにどんどんが集まってくる。
「場所を変えるか」
「う、うん」
りょーちゃんに連れられて、ひとけのない路地裏に入っていく。
その間も原因を考えてみるけど……。
「……」
思い当たることがない。
ID登録時に、間違えて入力した?
でも、性別入力するところなんかあったかな……。
あっ。
もしかしたら、名前のせいかな?
『夏海 千里』
この名前のせいで、よく性別を間違えられることがある。
実名登録したし、これが関係しているのかも。
……とはいっても、生体認証システムを採用している。
登録と違っていたら、エラーが出ると思うんだけど……。
ピコーン。
「えっ、何?」
ひたすら考え事をしていたら、システムメッセージが現れた。
『外部音声を認識しました』
『ただいまー』
この声……お母さん?
『ちーちゃん。あれー? ちーちゃーん』
ボクのことを呼んでいる。
ゲーム内にいても、ちゃんと外からの情報も入ってくるようだ。
「お母さん帰ってきたみたい」
「どうする?」
「ごめん、いったん落ちるね」
「わかった」
「うん、またあとで!」
ログアウトのやり方は、メニューからでいいのかな……あった。
『ログアウトしますか?』
『はい』を選択。
『ゲームを終了します』
ログインした時と同じように、画面が白くなっていく。
「……」
浮遊感がなくなり、自分がベッドにいると気づく。
戻ってきたんだ……。
端末を外し、ゆっくり起き上がる。
「……」
なんか、ちょっとふわふわしてる。
こっちが現実なのに、変な感じ。
『うぇーん、ちーちゃーん!』
お母さんが探し回っている。
部屋を出て、1階のリビングに降りていく。
「おかえり、お母さん」
「いたー! ちーちゃん!」
姿を視認するなり、いきなり飛びついてくる。
「ちーちゃんに会えなくて、さびしかった!」
「今朝、会ったばっかりだけど」
「半日も会えなかったもん!」
顔をぐりぐりと押しつけてくる。
「はぁー、いやされるぅ……」
「それより、おなか減ってない? すぐに用意するから待ってて」
「ちーちゃん大好き!」
なおさら強く抱きしめてくる。
放してもらわないと、用意できないんだけど……。
「今日のごはんってなぁに?」
「カレーだよ」
「あまくち?」
「もちろん」
ボクもお母さんも、辛いの苦手。
甘口のルーと、多めのはちみつで、あまーく仕上げてある。
辛いのが平気なのは、うちだとお父さんだけ。
「やったー!」
子供のようにはしゃぐ。
この言動と、この見た目のせいで、学生と間違われることも多い。
会社でうまくやれているのか、心配になる。
「ご飯は炊けてる……うん」
カレーを温めなおして、サラダを盛り付けて……あと、お新香もあったような?
冷蔵庫にあるものを適当に並べて、見た目だけでも手抜きっぽさをごまかす。
お父さんがいない間は、ボクが家事をしっかりする……と約束したんだけど、今日くらいはいいよね。
明日からは、もっと時間をかけて料理を作るから。
「いっただっきまーす!」
「いだだきます」
いつものように、2人でご飯を食べ始める。
『父』『母』『自分』の3人家族。
お父さんは、今、海外に出張中。
今月末くらいには戻ってくるって言ってたけど、どうなんだろう?
これといって連絡はこないので、順調だとは思うけど。
お母さんがさみしがっているから、早く帰ってきてほしい。
「おいしー♪」
幸せそうにご飯をほおばる。
「ほっぺにご飯つぶついてるよ」
「んぅ?」
「ほら、ここ」
どっちが子供なんだかわからない。
和やかな食事を続けるけど、ついさっきの出来事を思い出してしまう。
「……ねぇ、お母さん」
「なぁに?」
「ボクって……ちゃんと、男だよね?」
「?」
「やっぱり、なんでもない」
何を聞いているんだろう、ボクは。
わざわざ確認するまでもない。
どこからどう見ても、男だ。
「ちーちゃん……」
「ごめんね、変な質問しちゃって」
「ついに、女の子になる決意をしたのね!」
「えっ?」
なんだか変な反応が返ってくる。
「だいじょーぶ! お母さんは応援するから!」
「大丈夫も何も、そんなつもりはまったくないんだけど……」
「恥ずかしがらなくてもいいのに! だって、こんなにかわいいんだから!」
「……」
カレーおいしい。
きっとただのバグだから、あとで運営さんにメール送ろう。
「そうだ! かわいい服も用意しなくちゃ!」
「やめて!」
放っておけば治まると思ったら、暴走していた。
「化粧もしちゃう? モテモテな感じにしちゃう?」
「しないから! ボク男だから!」
「かわいければ大丈夫だよー」
「よくわからない理論だよ!」
お母さん補正があると、かわいく見えるものなのだろうか?
ボクだって、もう中学生男子。
そろそろ、男らしさが全面に出てきているはず。
「でも、急にどうしたの? ちーちゃんはかわいくてかわいい最高にかわいい男の子だよ?」
「なんでもないよ。もうちょっと男らしくなりたいなぁと思っただけ」
それは本当のこと。
背が伸びないのは、ここ最近……というより、ずっと悩んでいる。
りょーちゃんくらい背が高ければ、こんなこと言われないんだろう。
ここ1年くらいでだいぶ伸びたって言ってたし、ボクにも成長期が来るはず。
お母さんは……ともかく、お父さんは普通くらいの身長がある。
だから、ボクも大きくなるはず。
「またご飯ついてるよ」
「んぅ?」
そんな感じで、いつもの夕食の時間が過ぎていった。
「お風呂用意してあるよ?」
ご飯も食べ終わり、ゴロゴロとだらけているお母さんに言う。
「ちーちゃんもいっしょに入る?」
「食器洗ってくる」
「ちーちゃんが冷たい!」
後片付けだけしたら、ログインしようかな。
それとも、じっくりやるために、お風呂入ったあとにしようかな。
「……(じー)」
「……」
「……(じー)」
「……」
「……(じー)」
「……背中流してあげるから」
「わぁい!」
続きをやるのは、お母さんが眠ったあとになりそうだ。
「こんなところで寝てたら、カゼひくよ」
お母さんをお風呂に入れて、食事の後片づけをして、ボクもお風呂に入って、すぐに出てきたら、もう寝てた。
最近は忙しいみたいだし、お仕事で疲れているんだろう。
「んー……」
「ほら、ベッドまで行くよ?」
「ちーちゃんも……」
「うん、行くから」
ふらつくお母さんを支えながら、どうにか寝室まで連れていく。
「……ぐぅ」
到着するなり、ぱったりと倒れる。
下敷きになった布団やら毛布を引っ張り出して、その上にかける。
「おやすみなさい」
起こさないよう、小さく声をかけてから部屋を出る。
「……ふぅ」
リビングに戻って、一息つく。
お父さんなら『ひょい』って感じで運んでっちゃうのに。
ボクも、早く大きくなりたい。
「さて」
やることはやったし、ログインしよう。
足音立てぬように階段を上がり、自分の部屋に入る。
準備を整えて電源を入れる。
2回目以降は自動ログインになっているみたいで、すぐにゲームサーバーへつながった。
ゴールデンウィークで帰省中のバスの中から投稿しています。
乗り物酔いしやすいのですが、なるべく更新をがんばろうとビニール袋片手にオロロロロロ。




