人妻の会話
「おはよー、ちーちゃん……」
くるくるになった髪を戻していると、ほとんど目が閉じてる状態のお母さんが下りてきた。
「おはよう。ちゃんと前見て歩かないと危ないよ?」
「んー……」
ソファーまで歩いていって、ごろんと横になる。
そして、すやすやと寝息をたて始める。
「まったく、起こすのに苦労した……うぉおおおい!!」
戻ってきた三井さんが、盛大につっこみを入れる。
お母さん、朝が弱いからなぁ。
なかなか起きてくれないから、ボクも苦労している。
朝というか、今はもうお昼近い時間だけど。
「買い物行くって言ってたのは、どこのどちら様だったっけ? あぁ?」
ぷにぷにと、お母さんのほっぺたをつつく。
やっぱり、予定があったみたい。
「うちの母がご迷惑をおかけして、申し訳ありません……」
「まったく……どうしてこの親から、こんないい子が生まれたんだか」
「お母さんにも、いいところはたくさんありますよ?」
「そりゃ知ってる。そうじゃなきゃ、小学校の頃から付き合ったりせんよ」
びよーんと、ほっぺたを伸ばす。
いろいろと文句は言うけど、仲のいい2人。
だからこそ、お母さんにはもっとしっかりしてほしい。
「お母さん、起きないと」
「んー……」
がしっ。
肩を叩こうとしたら、抱きつかれた。
「お母さんってば」
「……ぐー」
「なんというか……千里くんも苦労してるな」
三井さんにも手伝ってもらい、どうにかして起こす。
「ほら、顔を洗ってこないと」
「んー……」
ふらふらと、洗面所のほうへ歩いていく。
「いつもあんな感じなのか?」
「だいたいあんな感じです」
「そうか……」
「はい……」
2人して肩を落とす。
今までもこうだったし、これからも変わることはなさそう。
ボクも着替えを済ませてこよう。
「ちーちゃん、ご飯は?」
着替えから戻ってくると、半分くらい目が開いたお母さんが聞いてきた。
まだちょっと髪がはねてるので、クシを持ってきて直す。
「簡単な物でよければ、すぐに作れるけど……三井さん、時間は大丈夫ですか?」
「急ぎの用でもないから、時間は大丈夫だ」
「三井さんも食べていきませんか? せめてもの気持ちです」
「……なぁ、茜」
「うん?」
「何をどうしたら、こう育つんだ?」
「あれ食べたい! って言ったら、なんでも作ってくれるよ?」
「ああ……とてもご立派な反面教師がいるわけね」
「すごいでしょ!」
「ああ、すごすぎて涙が出そう」
ぽんぽんと肩を叩いてくる。
「辛くなったら、いつでもうちに来てもいいからな?」
「? 料理は好きですよ?」
「……なぁ、茜」
「うん?」
「持ち帰っていいか?」
「それはダメ!」
「……じゃあ、ここに住む」
「それならいいよ」
「今日は帰らないと!」
あわてて止める。
「旦那さん、泣いちゃいますよ?」
「大丈夫、毎日だ」
「あんまり大丈夫じゃないです!」
ちゃんと説得して、仲良く暮らしてもらうことにしました。
「どうでしょうか?」
朝食、兼昼食を作り、料理の感想を聞く。
「おいしーよ、ちーちゃん」
「うまいぞ。これならいつでも嫁に行けるな」
「お嫁には行けないです」
男なので。
「ちーちゃんは、お嫁にやりません!」
「うん、行けないからね?」
男です。
「そうは言っても、好きな子の1人くらいいるだろ?」
「好きな子ですか?」
「ほら、前に一緒にいた、背の高い男の子とか」
「りょーちゃんのことですか?」
「そうそう」
「りょーちゃんのことは好きですよ」
りょーちゃんだけでなく、友達もみんな好き。
「こりゃ、あと数年もしたら結婚してるな」
「ちーちゃん、結婚するの……?」
「する予定はないです」
そんな先の話は考えたこともない。
まだ中学生だし。
「あんたらだって、さっさと結婚したじゃん。そういう話が出てきても、おかしくはないだろ」
「ちーちゃん、結婚しちゃうんだ……」
「しちゃいません」
まずは大人にならないと。
「りょーくん、かわいそうに……」
「?」
ボクが結婚しないこと、りょーちゃんの幸せ。
何か関係があるんだろうか?
「だいじょーぶ! ちーちゃんは、私と結婚するから!」
「それもできないよ?」
「がーん!」
「口で言うヤツ初めて見たわ」
「お母さん、口に物を入れながらしゃべらないで」
口の周りをふく。
「いっそのこと、あたしと結婚する?」
「旦那さんと仲良くしてくださいね?」
「あちゃー、フラレちゃったぜ」
「みっちゃんにもあげないもん!」
そんな感じで、にぎやかな食事が進んでいった。
後片付けを終えて、お茶を配る。
三井さんにも満足してもらえたようなので、よかった。
「こんな娘が欲しかったわ」
「いいでしょー」
2人でキャピキャピ話している。
そういえば、智子さんも娘を欲しがっていた。
母親の立場だと、息子より娘が欲しくなるのかな?
「こんだけ可愛いと、悪い虫が付かないか心配だな」
「りょーくんがいるから、だいじょーぶ!」
「そして、そのうち2人は結婚」
「うわーん!」
楽しそうに会話している。
やっぱり、仲がいい。
「さて、そろそろ行くか」
三井さんが立ち上がる。
「じゃあ、ちーちゃんも」
「ボクも?」
何をするのか聞いてないけど。
「買い物するだけだ。茜と一緒だとめんどくさいぞ」
「ちーちゃんに似合う服とか、見にいかない? うんとカワイイやつ!」
「遠慮しておくよ」
「えー!」
お母さんに任せると、変な物を買おうとするから困る。
ワンピースとかスカートとか渡されても、どう反応していいかわからない。
「夕方には戻ってくる。せっかくの休日なんだ、ゆっくりしててくれ」
「はい、ありがとうございます」
「よし、行くぞ」
ひょいっと、お母さんを担ぎ上げる。
「うわーん、ちーちゃーん!」
「いってらっしゃいませ」
2人を見送る。
久しぶりに、家の中がにぎやかだった。
「さて、と」
掃除機が使えるようになったし、掃除の続きでもやっちゃおう。
っと、意気込むほどでもなかった。
そんなに時間もかからず、一通りの家事を終える。
部屋に戻って、ログインの準備をする。
「……」
休日だから、いいよね?
誰にともなく言い訳する。
りょーちゃんほどじゃないにしても、ボクもしっかりハマってるみたいだ。
「……」
まずはフレンド確認。
りょーちゃんがいるので、フレンドチャットをする。
「ごめん、お昼ご飯食べてた」
『こっちもだ』
近くにはいないようだから、町に戻ったみたい。
『20まで上げるか?』
「えーと……」
今のレベルが16。
特に意識してなかったけど、順調に上がっているのかな?
効率や時給(※1)を気にしなくても、勝手に上がってる感じ。
「すぐに上がるモノなの?」
『うまい狩場へ行けば30分かからん』
「そうなんだ」
まだまだ上がりやすいレベル帯らしい。
スキルポイントのためにも、できるだけ上げておきたいところ。
『噴水北のワープゲートで』
「わかった」
帰還の羽を投げて、町に戻る。
矢だけ補充して、ゲートへ向かう。
人妻回。
私に需要があります。
※1、時給:1時間の間にどれだけ稼げるかを数値にしたもの。
お金の時給や、経験値の時給や、アイテムの入手数などいろいろ。
単に時給という場合は経験値をさすことが多い。
無理して強い敵を倒すより、倒しやすい敵をたくさん狩ったほうが効率的によくなることもある。
レベルが上がりにくいゲームだと時給0.1%でも『効率うめぇえええ!』とうれションしながら狩り続ける廃人もいる。




