そこはかとなく大きな赤クモ
ぶすり。
「やった!」
最後の1匹で、ようやく4回当てに成功する。
クリティカル判定は全然出ていないので、まだまだりょーちゃんには程遠いけど。
「終わったか」
「うん」
習得条件を満たしたので、さっそくポイントを振ってスロウショットを取る。
『スロウショットを習得しました!』
スキル説明にあるモーション発動を見ながら、試し撃ちをしてみる。
ぷしゅーん。
スキルによって白く光った矢が、近くの木に向かって飛んでいく。
……。
……。
……。
ぶすり。
「……遅いね」
「遅いぞ」
遅いとは聞いていたけど、予想以上のスロウっぷりだった。
スキルキャンセルしてすぐに走れば、追いつけるんじゃないかな?
動いている相手に当てるには、かなりの先読み技術が必要になりそう。
『た、助けてくれー!』
「?」
森の中から、男の人の悲鳴が聞こえてきた。
わりと近く。
りょーちゃんとうなずき合い、声がしたほうへと走る。
「あれは……」
空中でもがいている男性。
よく見れば、木々の間にたくさんのクモの姿が。
「中ボスの『そこはかとなく大きな赤クモ』と、その取り巻き」
「とにかく助けないと!」
すぐに救出したいところだけど、糸を断ち切るのは難しい。
まずは、襲いかかろうとしているクモに攻撃を当て、ターゲットをこちらへ向ける。
逃げ回って時間を稼いでるうちに、りょーちゃんがズバズバと糸を切断。
落下してくる男性を救出する。
「やだ……イケメン……」
お姫様抱っこの状態で、男性がつぶやく。
無事でよかった。
「いやー、すみません。ソロで狩ってたら急に襲われて……」
「手を貸すか?」
複数の茶クモの奥に、ひときわ大きな赤いクモの姿が見えた。
隠れていて全体は見えないけど、お尻の部分だけで2メートルくらいありそう。
「お願いします! 自分ソロじゃ無理です!」
「わかった」
『かんぱち様がパーティーに参加しました』
即席パーティーを組んで、中ボス退治に挑む。
「ヒール!」
かんぱちさんを回復し、各種支援をかける。
準備が整ったら、取り巻きから倒していく。
「ファイア!」
かんぱちさんが構えた杖の先から、バレーボール大の火の玉が飛び出していく。
職業『マジシャン』の初級魔法。
プレイ動画で見たことはあったけど、実際に見るのは初めてだ。
ゴォオオオ!
当たった部分が炎上し、クモの巣が溶け落ちていく。
熱には弱いようだ。
ぼとっ。
足場を失った茶クモが、地面に落ちてくる。
ドゴォ!
そこを、りょーちゃんが一撃で倒していく。
「ファイア!」
無理に相手を狙ったりせず、足場を消していくかんぱちさん。
ぼとっ、ぼとっ。
まとめて地面に落ちてくる。
戦い慣れている動き。
ぷしゅーん。
ひっくり返ってもがいている茶クモに、スロウショットを当てる。
スキルの当たり判定は広いようで、当たった茶クモと、近くにいたもう1匹が鈍足状態になる。
ドゴォ!
鈍くなった茶クモを、自己支援で強化したりょーちゃんが倒していく。
「火力たっか……」
隣にいたかんぱちさんが、ぼそっとつぶやく。
「そうなのですか?」
「属性相性のいいファイアで、40~50ですよ? デバフ型の短剣なら30くらいなはずなんですが」
ドゴォ!
80ほどのダメージが見える。
「ちなみに、普通だと被ダメージはどれくらいですか?」
「自分だと1発50くらいですね。詠唱速度寄りの装備なんで、耐久力はないです」
「300超えたりはしませんか?」
「あぁ……火力ロマン型ですか」
理由を察する。
妨害や弱体型の短剣と比べて、与ダメージ2.5倍。
魔法使いと比べて、被ダメージ6倍。
デメリットが目立つ。
ロマン扱いなのも納得。
バキバキバキ!
ある程度取り巻きを片付けると、ついに赤クモが襲ってきた。
その巨体に似合わぬ速度で、ズンズン迫ってくる。
「ファイア!」
かんぱちさんがクモの巣を燃やし、足場を奪っていく。
しかし、次々に糸を出して、行動範囲を広げていく。
ズシャ!
すきを見て、りょーちゃんが衝撃波スキルで攻撃する。
ダメージは通るけど、HPが高くてなかなか減らない。
大ダメージを与えるなら、どうにかして地面に落とさないと。
「速すぎて無理かなぁ……」
「何か対処法でもあるのですか?」
「爆裂魔法でまとめて燃やせば、周りの巣ごと落とせると思ったんですが」
「動いていると難しいのでしょうか?」
「位置指定魔法(※1)だから相手に動かれちゃうとね。詠唱から着弾まで7秒くらいかかっちゃうし」
「7秒……」
それだけの時間があったら、余裕で避けられてしまう。
拘束系のスキルはないし、スロウショットは当てられる気がしない。
……とか考えているうちに、りょーちゃんが茶クモの糸に捕まっていた!
ビュン!
すぐに援護して、茶クモを遠ざける。
その間に無事脱出。
何匹も倒しているのに、一向に数が減らない。
再召喚されているのかも?
死角から糸を放たれたら、かなり危険な状態になる。
「……」
糸につかまったら……。
「りょーちゃん!」
思いついたことがあるので、りょーちゃんの元へ近づく。
「ボクが赤クモのターゲットを取るよ」
「わかった」
その言葉だけで、行動を取り巻き対処に切り替える。
「かんぱちさん! 合図したら、爆裂魔法お願いします!」
「うん? わかった!」
かんぱちさんも、すぐにうなずいてくれた。
まずは狙われないと始まらないので、赤クモに向かって矢を放っていく。
「……当たらない!」
すばやい動きで縦横無尽に動き回っている。
なかなか当てられない。
ただ、攻撃自体にヘイト(※2)があるのか、こちらに近づいてくる。
ガギンッ!
ステップで回避。
すぐにスロウショットで狙おうとするも……。
ぷしゅーん。
スキル発動が間に合わず、逃げられてしまう。
密着状態から確定するのは、通常攻撃だけのようだ。
とはいえ、狙いはコレじゃない。
他の攻撃パターンがくるまで、ターゲットを維持する。
りょーちゃんが取り巻きを引きつけてくれているので、避け続けることならできそう。
「!」
赤クモが途中で止まり、おしりをもぞもぞする。
「かんぱちさん!」
すかさず合図を送り、次の行動にそなえる。
シューーーッ!
予想通り糸を飛ばしてきたので、わざと受ける。
「っ!」
予想以上に飛んできて、下半身が白く染まる。
そのまま、ずるずると引きずられていく。
「み、見え……見え……見えない!」
ナビ子さんが叫ぶ。
今回も宙づりになるけど、服ごとガッチリからまっているので安心。
ゴォォ……。
魔法の影響か、周囲の空気が動き出す。
詠唱に気づいたのか、赤クモがそちらへ襲いかかろうとする。
このまま攻撃まで受ける予定だったけど、今逃がすわけにはいかない。
ぷしゅーん。
両手はあいていたので、逆さの状態のままスロウショットを放つ。
ぷすり。
ヒット!
赤クモの動きが、目に見えて遅くなる。
「ファイアブラスト!」
ズガァアアアンッ!!
目の前で、爆裂魔法が発動する。
赤クモと、その周りの糸が焼け落ちていく。
「!」
糸の拘束が解かれ、ボクも一緒に落下していく。
「っと!」
空中で反転。
どうにか足から着地し、落下ダメージを軽減する。
よかった。
一度体験していなかったら、頭から落ちていたと思う。
ザシュ!
赤クモの体が、大きく揺れる。
下で待機していたりょーちゃんが、例の一撃を決めた。
300以上のダメージが入り、地面に倒れ……起き上がった!?
さすが中ボス。
すぐに弓を構えて、援護に回る。
ビュン!
「ファイア!」
ドゴォ!
矢→魔法→スマッシュの連携が、きれいに決まる。
どさっ。
何もできずに飛ばされた赤クモが、すぐ近くに落ちる。
この距離なら、スマッシュ連携が狙えそう。
持ち替えステップで近づき、起き上がりに備える。
「ステップ」
りょーちゃんの声が聞こえたので、とっさにステップをして飛び込む。
『ギィーーー!』
足を回しながら起き上がる赤クモ。
起き上がり攻撃!
タイミングが合っていたようで、無傷で着地する。
ズシャ!
りょーちゃんが、衝撃波を当てる。
スマッシュの準備をするけど、ちょっと間に合わないかも……。
「ファイア!」
横から火の玉が飛んできた。
のけぞり時間が追加され、スマッシュの発動準備が完了する。
ぽっこーん。
りょーちゃんのほうへと、赤クモを吹き飛ばす。
ザシュ!
再び大ダメージを叩き出し、赤クモがひっくり返る。
『レベルが1上がりました!』
今の一撃で決まったようだ。
しばらくピクピクしていた赤クモが、時間経過と共に消えていった。
中ボスにとらわれたプレイヤーを助け出しお姫様抱っこまでしちゃう絶好の好感度アップイベントを、男同士で消化していく。
※1、位置指定魔法:魔法によって『方向』『対象』『地面』『座標』といった指定場所がある。
詠唱中に杖を向けるとサポートマーカーが表示されるので、よほど詠唱速度が遅くない限りは特に気にしなくてもだいたい当たる。
座標指定だけは調整が難しいので、釣り人のようにピクピク杖を動かす必要がある。
※2、ヘイト:野郎ぶっ殺してやる。
モンスターによってキレるポイントが違う。
魔法を使ってくるプレイヤーを優先して攻撃したり、男女でいちゃついているヤツらを念入りに狙ったり、田中だけは絶対に許さなかったりする。
現実世界で説明すると、モテない男子の前で「バレンタインとかだるいよな。毎年チョコ持ち帰るのがめんどうだし」と一族郎党皆殺しに遭っても文句が言えないような残虐な発言をすること。




