始まりの町
「……」
石畳が広がる、大きな広場。
中央にある噴水が、光を反射して輝いている。
あきらかに日本風ではない建物が続き、遠くには大きなお城がある。
そして、見渡す限りの人、人、人!
「……」
思わず、ぼーっとしてしまう。
この広場だけで、何百人いるんだろう?
有名な観光地にでも迷い込んだ気分。
でも、観光地に『剣』とか『槍』を持ち込んでる人はいないよね。
まさに、映画とかゲームの世界が広がっていた。
「SENRI」
「りょーちゃん!」
人ごみをかき分けて、りょーちゃんがやってくる。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いや、問題ない」
黒を基調とした動きやすそうな服装。
腰に差した短剣と、真っ赤なマフラーが印象的。
「それって、ローグの職業服だっけ?」
「ああ」
職業服とは、最初の転職時に支給される基本装備。
公式のサイトやムービーでも使われている。
「かっこいいね!」
「全身S補正で固めたいが、金が足りない」
「お金集めるのって、大変な感じ?」
「金策クエが少ないから、レア堀りがメインだな。地道に素材売ってもいいが」
「レア堀り……」
前にやっていたゲームを思い出す。
レア装備が欲しくて、ひたすら同じ狩場にこもったことがある。
通い続けて1ヶ月半。
ようやく出したと思ったら、その週のアップデートで仕様変更と上位装備が実装。
一気に価値が暴落して、露店で叩き売られる状況に……。
「それにしても、すごいね」
こうしてりょーちゃんと普通に話しているけど、これって全部ゲームの映像なんだよね?
360度、どこからどう見ても、いつものりょーちゃん。
これで服装まで一緒だったら、ゲームとの区別がわからなくなってしまうかも。
「あ、りょーちゃんじゃダメだよね。『krbrx』って呼んだほうがいいのかな?」
あんまりにも自然なので、いつもの呼び方で呼んでしまっていた。
パーティーチャットならともかく、こんなに人のいるところだとマズイよね。
「ログ見てみろ」
「ログ?」
「メニューから周辺会話履歴」
「えーと……あった」
会話の履歴が文章として残っていた。
会話も残るんだ。
『あっ、krbrxちゃんじゃダメだよね。『krbrx』って呼んだほうがいいのかな?』
「あれ?」
りょーちゃんの部分が変わってる?
「オレの住所は、ポコポコ星の3本モニモニの足の中」
「えっと……りょーちゃん……?」
「頭がおかしくなったわけじゃない。実際の住所を言った」
「ポコポコ星がどうのって……」
「登録時の住所や名前には、フィルタがかかるようになっている」
「なるほど」
いきなり不思議なことを言うから、びっくりしちゃった。
「だから、いつも通りで構わない」
「うん、わかった」
『krbrx』って文字で入力するのはいいけど、言葉にすると言いづらい。
「フレンド個別でフィルタ設定もできるから『SENRI』呼びに違和感があるなら変えといてくれ」
「確かに、違和感あるかも」
見た目は同じなので、いつもと違う呼ばれ方すると変な感じがする。
メニューからフィルタ設定を開いて……これかな?
『フレンドへのセーフフィルタを解除する』にチェックを入れる。
「りょーちゃん」
「千里」
「うん、解除できたみたい」
いつもの呼び方になった。
周辺会話のログだと『krbrx』と『SENRI』になっているので、他の人へのフィルタはちゃんと残っている。
「育成方針は決めたのか?」
「まだだけど……りょーちゃんステータス振りはどんな感じ?」
「S極の火力スキル全振り」
「だよね」
瞬間最大ダメージにロマンを求めるタイプだから、いつもとんがった性能のキャラを選んでいる。
そうなると、こっちは『盾』か『遠距離』か『支援』がやりやすいかな?
「こっちに合わせなくても、好きなの選べばいい」
「りょーちゃんと一緒にやるのが好きだから、合わせるのも好きだよ?」
「そうか」
1人でゲームすることもあるけど、りょーちゃんと攻略している時が一番楽しい。
こっちの動きを的確に読んでくれるので、協力プレイできるゲームだと自分もうまくなった気になるし。
動きを読まれちゃうので、対戦ゲームだと負けちゃうんだけど。
「決めた、ヒーラーにする」
公式の紹介ムービーにあった『モンスターのターゲットを集めつつ支援する姿』が頼れる男っぽくて、とても印象に残っている。
マント姿かっこよかった。
「聖堂なら北東の建物だ」
マップにチェックを入れて、こちらに渡してくる。
こんな便利な使い方もできるんだ。
「中央にいる司祭に話しかければ転職できる」
「急いで行ってくる!」
そろそろ狩り場にも行きたいし、すぐ転職してこよう。
目印の建物に向かって走っていく。
「……」
このゲームって、スタミナ(※1)の概念はないのかな?
走り出してから思ったんだけど、疲労感が全然こない。
現実世界だと運動は得意じゃないので、ちょっとうれしい。
向こうでたくさん走ると、お腹が痛くなっちゃうし。
「……」
街並みもきれい。
近くで見ると、より細部の精密さがわかる。
最近のゲームはみんなリアルだと聞いていたけど、実際に触れてみるとやっぱり感動する。
「ここかな?」
少し外れた場所にある、大きな建物。
この中央……あの人の集まってるところかな?
よく見れば、ヒーラーの職業服を着た人であふれていた。
「……」
どうしよう。
並んだほうがいいのかな?
しばらく様子をうかがう。
「一定範囲内に近づけば、個別空間に入りますよ」
「わっ、ナビ子さん?」
どこからともなくスルっと現れる。
「いるんですよ、遠慮して話しかけられない人が」
「これだけ人がいると、気になってしまって」
あの司祭さんも忙しそうだし。
「クエストNPCの場合は個別に話が進むので、ガンガン話しかけちゃって大丈夫ですよ」
「あ、そうなのですか」
「ささ、もっと近くへ参りましょう!」
ナビ子さんに案内されて、司祭さんの元へ行く。
「ようこそ、聖堂へ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「こんにちは。転職をしたいのですが」
「ヒーラーへの転職でよろしいですか?」
「はい」
「冒険者様は初めての転職となりますので、すぐに転職できます。心の準備はよろしいでしょうか」
「お願いします」
「わかりました。主と精霊の加護を」
司祭さんが手をかざすと、光の粒が落ちてきた。
その粒がたくさん集まって、周囲をぐるぐると取り囲む。
体が暖かくなるような、浮遊するような感覚。
しばらくその光景に立ち尽くしていると、光の粒が胸元へと集まり……弾けた。
「どうか冒険者様の未来に、幸あらんことを」
不思議な光が消えて、元の騒がしさが戻ってくる。
手元を見ると、先ほどとは違う服装になっていた。
無事にヒーラーになれたようだ。
「あ、りょーちゃーん!」
近くまで来ていたりょーちゃんに手を振る。
「どうかな?」
両手を広げて、自分の姿をアピールする。
「ああ、いいと思うぞ」
「えへへ」
これでボクも、あこがれのヒーラーになれた。
動画のヒーラーさんほど身長はないけど、少しはかっこよくなれたかな?
「……?」
あれ?
マントがない?
体をひねってみるけど、マントらしき布がなかった。
職業服じゃなくて、別の装備だったのかな?
あらためて、自分の姿を確認してみる。
「……??」
どうも、イメージしていた姿とちょっと違う。
白っぽいイメージに変わりはないけど……マントがなかったり、ズボンのところがローブっぽくなってたり。
「……」
近くにいる人を見ると、マントありの服装の人もいるし、そうじゃない服装をした人もいる。
同じ職業服でも、2種類ある。
片方は男性用で、もう片方は女性用。
マントがあるのは、男性用で間違いない。
「……?」
なんでボクの服には、マントがないんだろう?
ボクは男なので、男性用装備になっているはず。
身長とか年齢なんかでも変わるのかな?
装備画面を開いて、自分の装備を確認する。
『木の棒』
『見習いヒーラー服(女性用)』
「!?」
どういうこと!?
所持アイテムも調べてみる。
『見習い用ロッド』
『冒険者服(女性用)』
「!!?」
こっちも女性用になってるー!?
予想もしていなかった事態に、うろたえる。
つまり『今支給された装備』が間違っているというより、『最初の装備』から間違っていたということ……?
そこまでじっくり見てなかったので、気づかなかった。
冒険者服はスカートじゃないし。
でもでも、ゲームを始めた時点で、性別は決まっているはず。
キャラクタークリエイトがないゲームだから、装備も性別に合わせたものが配られ……。
「!」
まさかと思い、キャラクター情報を開く。
キャラクター名:SENRI
職業:ヒーラー
性別:女
「なんでーーー!?」
澄み渡る空に、ボクの叫び声が響き渡った。
投稿したあとに『誰も見ていなかったらどうしよう』と布団の中でビクンビクンしていましたが、ブクマークや評価をしてくださった方がいらっしゃいました。
誠にありがとうございます。
うれしさのあまり、うっかり垂れるところでした。
※1、スタミナ:息をするのもめんどくさい。
走ったり、回避したり、スキルを使うのに必要なゲームもある。
このゲームにはないので、現実世界のように近所のコンビニに行くだけで『息切れ動悸めまい発汗手足の震え』が起きたりしない。




