弓の使い方
「異議あり!」
「ナビ子さん?」
左手の人差し指を突き出した状態で、ナビ子さんが飛び出してくる。
「先っちょだけとか満足できませんよ! ここはやはりずっぽり奥まで突っ込んで、全身粘着拘束プレイが必要だと思います!」
「えっと……捕まったら、やられてしまいますよ?」
「犯られちゃうとか、そんなこと口にするなんて……いやん、ハレンチ♪」
「?」
捕まったほうがお得なことでもあるのかな?
試すのは怖いので、今はスキル習得を優先しよう。
ブレスと、覚えたばかりの『マナヒール(※1)』を使う。
効果は……。
「?」
よくわからない。
もっとスキルレベルを上げないと、効果は実感できないのかも。
弓に持ち替えて、巣に近づく。
上から来ることがわかってれば、なんとか対処できるはず。
つんつん。
上空を警戒しながら、矢の先で巣をつついてみる。
「?」
降りてこない。
ちょんちょん。
もう少し強めにつついてみる。
ガサガサ!
「!」
今度は反応があった。
ダッシュで距離を取り、一番下まで降りてきたところを狙い……。
「わっ、速い!」
降りてきたのと同じようなスピードで、しゅるしゅると登っていく。
上に落下していると錯覚するほど。
「単発攻撃だから、ステップ無敵(※2)で密着すれば楽だぞ」
「やってみる」
タイミングが難しそうだけど、まずはチャレンジ。
失敗したら、りょーちゃんがフォローしてくれるはず。
ちょんちょん。
巣を刺激して、茶クモを誘い出す。
ステップの無敵時間は少ないので、しっかり引きつけたほうがよさそう。
ガサガサ。
来た!
相手の動きをよく見て、タイミングをはかる。
ガサガサガサ!
一直線に落下してくる茶クモ。
怖いけど、ちょっとだけ我慢。
「っ!」
かみつかれる寸前で、横にステップする。
ガギンッ!
空振りした牙が、すぐ横で大きな音をたてる。
かまれなくてよかった。
と、のんびりしてる場合じゃない。
「……」
すぐに弓を構え直し、木の上に戻ろうとしているところを狙う。
ビュン!
「あっ」
少し外れて、木の葉を数枚落としていく。
やっぱり難しい。
あれだけ動きが速いと、狙うだけでも一苦労。
「もう少し近くに跳んだほうがいい」
「ステップの方向?」
「ちょっと弓貸してくれ」
お手本を見せてくれるようなので、弓矢セットを渡す。
みょーん。
無造作に、矢で巣を払う。
かなり伸縮性にすぐれているようで、切れずにからまっていく。
ガサガサ。
バシュン!
ほとんど狙いをつけずに放った矢が、姿を見せた茶クモに当たる。
バシュン!
落下してくるところに、もう一撃。
ガギンッ!
体当たりするような形で、かみつき攻撃をかわす。
短いステップで真横に位置取り、最大に引き絞った矢を放つ。
バシュン!
クリティカル判定になっているのか、のけぞり時間が長い。
バシュン!
戻ろうとする茶クモに追撃を入れると、ぽとりと地面に落っこちた。
弓だけで倒しきってしまった。
「こんな感じ」
「うん、別のゲームをやっているのかな?」
あまりにも動きが違いすぎる。
今のでよくわかった。
ボクは、弓をまったく使いこなせていない。
「りょーちゃん、弓も使えたんだね」
「βのときはスキリセあったからな。一通り試した」
「それにしては熟練の動きに見えたけど」
βテストの期間だけで、そこまで動けるようになるのかな?
りょーちゃんは2次βテストからの参加だったはず。
不具合や臨時メンテナンスなどもあったから、実質10日くらいしかなかったのに。
「ガチ弓プレイヤーは、動きながらガンガン弱点にぶち込んでいく」
「どうやっても、そのレベルまで到達できる気がしないよ……」
どんなにゲーム上でステータスを鍛えても、中の人性能は変わらない。
りょーちゃんのような上手いプレイヤーと比べると、スタートの時点で違いすぎる。
「慣れだ」
「できる限りがんばってみるけど……」
同じ動きは無理だろうけど、参考にしてみよう。
みょーん。
近くにあった巣を引っかけ、すぐに弓を構える。
ガサガサ。
ビュン!
音に反応して、決め撃ちする。
ぶすり。
当たった!
続けて矢をつがえて……。
「っ!」
構える前に、下まで降りてきた。
りょーちゃんの動きを思い出しながら、小さくステップする。
ガギンッ!
目の前で牙が閉じる。
ここが一番のチャンス。
しっかり狙って、矢を放つ。
バシュン!
弱点に当たったようで、大きく揺れる。
このまま続けてもう1発……。
「わっ!」
ガキンッ!
上に戻らないで、直接攻撃してきた。
びっくりして矢を落としてしまう。
するするする。
その間に逃走していく。
りょーちゃんみたいにはいかなかったけど、当たったからいいかな?
「習得判定あるのは、最初の1発のみ」
「あ、そうなんだ」
4ヒット狙う必要はなかったようだ。
でも、弓の練習にもなるし、できるだけ狙っていこう。
ガサガサ。
仕留め損ねた茶クモが、再び降りてくる。
さっと弓を巣に引っかけ、タイミングを計る。
「っ!」
ガギンッ!
密着するように調整して跳び、真横から放つ。
ぶすり。
さすがに、この距離なら外さない。
反撃を受ける前に、もう一発。
ぶすり。
茶クモが吹っ飛んで、地面に落下する。
うまくやれた。
この調子で、残りの回数を稼いでいこう。
時々支援スキルをかけ直しながら、他の茶クモを倒していく。
「うーん」
急いでやっても、4回は当てられない。
時間をかけると間に合わないし、あせってやると外しちゃう。
もっと1つ1つの動作を詰めていかないと……。
「?」
今まではすぐに降りてきた茶クモ。
今回は途中で止まる。
何をしているんだろう?
もぞもぞと動いて、おしりをこちらへ向ける。
シューーーッ!
「!」
突然、白い糸を飛ばしてきた。
とっさに回避するけど、すべては避けきれない。
足にかかった分が、べっとりとまとわりつく。
「わっ!」
糸を引っ張られ、尻もちをつく。
「……っ!」
ぐいぐいと引っ張られ、体が空中に浮き上がる。
見た目以上に力持ち。
地面をつかんで抵抗しようとするけど、すぐに持ち上げられてしまう。
「み、見え……」
「!」
ナビ子さんの声に反応して、スカートのすそを押さえる。
逆さまのまま、宙ぶらりんになっている状態。
見えちゃう!
するするする。
茶クモの牙が、目の前に迫る。
矢で糸を切ろうとするけど、弾力があって全然切れない。
このままだと、食べられちゃう……!
ズシャ!
下から衝撃波が飛んできて、茶クモを吹き飛ばす。
同時に、足にからんでいた糸が切れ、地面へと落下していく。
「っ!」
頭から地面に落ちていく。
助かったけど、助かってない!
トサッ。
「大丈夫か?」
「ありがとう」
りょーちゃんが受け止めてくれた。
地面に下ろしてもらい、どこかで落としてしまっていた弓を拾う。
危なかった。
りょーちゃんがいなかったら、何回やられているかわからない。
「なぜだ、あとちょっとなのに……ぐぉぉぉぉ」
頭を振り乱しながら、ナビ子さんがうなっている。
ナビ子さんなりに、助けようとしてくれたのかな?
「よし!」
みんな応援してくれているみたいだし、さっさと習得しちゃおう。
構えて放って、構えて放って、避けて、構えて……。
基本の動作を繰り返す。
糸を飛ばす攻撃もあったけど、前動作わかっていれば怖くない。
なんとなくお昼頃に投稿していましたが、なんとなく夜頃に変更しようかと思います。
※1、マナヒールの回復量:このゲームの自然回復量は『5秒に1回、最大MPの10%回復』。
この10%部分にマナヒールの効果(110~200%)がかかるで、スキルレベルによって最大MPの11~20%上昇するじみーなスキルになる。
ポテトチップスが『今だけ10%増量!』となっていても、ほとんど体感できないのと同じ。
※2、ステップ無敵:当たらなければどうということはない。
ステップして飛んでいる間は、どんな攻撃でも回避できる無敵時間がある。
横から刀で斬られたとしても、無敵時間中なら体をすり抜けていく。
ただ、運動不足のおっさんのヒザで飛んだくらいの硬直時間が発生するので、連続では使用できない。




