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茶クモマップ

「……あ、いた」


 南門に着くと、りょーちゃんの姿はすぐに見つかった。

 全身が黒の服。

 腰まである真っ赤なマフラー。

 門に背を預け、腕を組んでいる。

 目立つ格好なので、見つけるのは簡単だったけど……。


『君1人? よかったら、おねーさんたちと一緒に狩り行かない?』

『ゴブリンの胸毛集めがしんどくて。支援と魔法はかけるから、手伝ってくれない?』


 大学生くらいの女性2人組に話しかけられていた。

 知り合い、なのかな……?


『ちょうど今、前衛がログインしてなくてねー』

『ちょっとだけでいいから、ね? お願い!』


 パーティーのお誘いかな?

 どうするんだろう……と思っていたら、こっちに気づいた。

 そのまま歩いてくる。


「行くか」

「あれ? よかったの?」


 チラッと後ろを振り返る。


『くっそー、彼女持ちだったか』

『あーあ、めっちゃ好みだったのに』

『っていうか、子供じゃん』

『は? マジか、ロリコンは引くわー。イケメンでもロリコンはないわー』

『いや、待て。まだ妹という線もある……っていうか、ロリくっそかわええ』

『マジか? マジだ。これはもうロリコンもやむなし』

『素敵な旦那とあんな感じの娘が欲しいだけの人生だった……』

『金かけて整形するか、金を男に投げつけるかすれば、あるいは』

『つれー、人生つれーわ』

『まったくだわ』


 こっちを見て何か話していたけど、追ってくる様子はなかった。

 りょーちゃんも気にしてないみたいだし、いいのかな?


「どうした?」

「ううん」


 予定通り、茶クモマップを目指す。


「りょーちゃん」

「なんだ?」

「スキル経験値集めで辻ヒール(※1)したら、迷惑になる?」


 ヒールや支援スキルを他人にかけることは、一見すると良い行為に見える。

 でも、場合によっては迷惑な場合もある。


 ・HP○○%以下で効果を発揮するスキル。

 ・レベルが低い支援スキルで、レベルが高い支援効果を上書き。


 こういった場合は、迷惑行為になってしまうことも。


「設定で『他人からの支援OFF』できるから、特に気にしなくていい」

「大丈夫なんだ」

「どうしても気になるなら『支援歓迎』の設定してるヤツにやればいい。キャラ情報(※2)から調べられる」

「なるほど」


 レベルが上がってくると、必要なスキル経験値も増えてくる。

 余裕があったら、道行く人に支援して稼いでいこう。

 スキルポイントが足りないので、そこまで急ぐ必要もないけど。




「?」


 しばらく走り続けた先の、森の中。

 木と木の間に、白い線のようなものが張り巡らされていた。

 あちこちにあって、網のようになっている。


「着いたぞ」

「ここ?」

「ああ」


 確かに、クモの巣はある。

 でも、肝心のクモの姿が見えない。

 すごくちっちゃいクモなんだろうか?


「……」


 じーっと目をこらして、巣の中央を見る。

 いない、よね……?

 いろんな角度から見るけど、やっぱりそれらしき姿は見えない。

 どこにいるんだろう?

 ロッドの先で、糸をツンツンしてみる。


 カサカサ。


「?」


 なんだろう?

 木の上のほうで、何か動いて……。


 ガサガサガサ!


「!?」


 1メートルはあろうかという、巨大なクモが降ってきた!

 びっくりしすぎて、声も出せない。

 毛の生えた足。

 迫りくる牙。

 それが、大きく開かれて……。


「っ!」


 食べられる!

 と思った瞬間、クモが真横に吹き飛んでいった。

 しばらく地面でピクピクして、動かなくなる。


「りょーちゃん……?」


 すぐ後ろに、短剣を構えたりょーちゃんがいた。

 ギリギリのところで助けてくれたようだ。


「あ、ありがとう」


 胸を押さえて、感謝を伝える。

 びっくりした……。

 まだドキドキしてる。


「上からくるから気をつけろ」

「もう少し早く言ってほしかった……」


 いくらゲームとはいえ、急にやってくる系は心臓に悪い。

 それが『人と同じようなサイズのクモ』なら、なおさら。

 足の質感とか、やられたあとのモーションとかも、すごくリアルだった。

 苦手な人なら、見ただけでも叫ぶかもしれない。


「ちなみに、こいつら攻撃力が高い」

「見た目からして強そうだよね」


 普通のクモを大きくしただけの見た目なんだけど、それだけでも十分怖い。

 射程の短い近接攻撃で挑むのは、かなり勇気がいる。


「?」


 りょーちゃんが、巣に向かって走っていく。

 そのまま、べたりと巣にはりついた。


 ガサガサガサ!


 獲物を見つけた茶クモが、するすると降りていき……。


「えっ?」


 ガブッとかんだ。


『309のダメージ!』


 krbrxは力尽きた。


「な?」


 地面に倒れたまま言ってくる。


「な? って言われても……」


 突然の自殺に、どう反応していいのかわからない。


「火力が高いから死にボーナス(※3)がうまい」

「狙ってなくても、勝手に稼げちゃいそう」


 りょーちゃんの最大HPは100すらないので、オーバーキルにもほどがある。

 ジャストヒールが決まっても、とても回復しきれない。

 復活薬を使う。


「そういえば、復活薬の補充はしてなかった」


 元々持っていた『初心者用復活薬』を使っていたので、お店では買ってなかった。

 こういった危険な場所に来るなら、買っておくべきだったかも。


「こっちで持ってるから心配ない」


 りょーちゃんが渡してくる。


「ありが……と?」


 渡されたアイテムを見て、首をかしげる。

 フライパン、だよね……?

 黒い円形に、取っ手が付いた形。

 どう見ても、鉄のフライパンにしか見えなかった。

 違うアイテムと間違えたかな?

 アイテム説明を開いてみる。



 復活薬:倒れた人を元気にする魔法のアイテム。料理にも使える。



 間違ってなかった。

 初心者用だと薬が入っているボトルだったのに、どうしてこんな形に。


「これって、どうやって使うの?」

「投げればいい」


 そう言って、クモの巣のほうへ歩いていく。


『325のダメージ!』


 再び倒れる。


「いいぞ」

「う、うん」


 言われた通り、りょーちゃんに向けてそっと投げてみる。

 見た目はフライパンだけど、使う時には薬っぽくなるのかもしれない。


 ゴン!


「当たっちゃった!」


 なんの変化もないまま、りょーちゃんに当たる。

 だ、大丈夫かな……?


「問題ない」


 むくりと起き上がる。

 表示HPも、赤色の『0/71』から黄色の『1/71』に変わっている。

 今の使い方でよかったようだ。


「死んでも経験値入るが、生き返らせるだけでも経験値入る」

「そうなんだ」


 システムログを見たら、ちょっぴり経験値が増えていた。


レイド(大規模ボス討伐戦)なんかに行ったら、起こしてるだけでもLv上がる」

「たくさん持ってたほうがよさそうだね」

「所持限界があるから大量には持てないが、なるべく補充しておいたほうがいい」

「復活薬ってことは、かなり高いんだよね?」

「店売りで1個3G」

「ポーションより安い!」


 矢だったら3本分。

 その値段なら、気軽に使っていける。


「復活できなきゃクソゲーだからな。上位狩場に行くと普通にハメ殺される」

「りょーちゃんでも無理なの?」

「ガード崩し連携から、強制吹っ飛ばし、起き上がりにメテオ(※4)やEQ(アースクエイク)重ねてくる」

「聞いただけでもすごそう」


 復活薬が安くてよかった。

 もし高かったら、それだけで赤字になりそう。


「そうなると『リザレクション』って、微妙なスキルなの?」


 ヒーラーの蘇生スキル。

 前提スキルが多いので、今のところ取得できそうにない。


「ボス戦や乱戦では復活後にHP回復してる余裕なんてない。即復帰できるリザ(リザレクション)は使える」

「なるほど」


 リザレクションの説明を見ると、スキルレベルによって復活時のHPが変わる。

 起き上がりの安定感が違うので、使い分けできそうだ。


「HPあろうがなかろうが、どうせ1撃で死ぬが」

「りょーちゃんなら、そうだろうけど……」


 ちゃんと防御を上げれば、大丈夫だよね?

 装備を固めてもダメだったら、ボクなんかは上位狩場に行けそうにない。


「そっちも死に稼ぎするか?」

「遠慮しとくよ……」


 いくら稼げるからって、わざとあの攻撃を受ける気にはなれない。

 近づいてくるだけでも怖い。


「なら、スキル習得するか?」

「あ、そうだね」


 経験値稼ぎに来たんじゃなくて、スキルを覚えに来たんだった。

 鈍足状態で攻撃ってことだから……。


「クモの巣に飛び込むの?」


 木の間に張り巡らされた、太い糸。

 さっきの光景を見ていると、あまり触りたくない。

 べっとりはりついていたら、攻撃も難しそう。


「いや、矢の先に絡めるだけでいい」

「よかった」


 それなら、べとべとになる心配はなさそうだ。

 1メートルどころか、5センチくらいのクモが降ってきただけで失神します。


※1、辻ヒール:相手を選ばず無差別にヒールを使っていくこと。

 辻斬りが語源だと思われる。

 善意のつもりで使ったとしても、相手が何かの影響でゾンビ化していたりすると迷惑行為になってしまうこともある。

 現実世界で説明すると、『お、お嬢ちゃん……アメあげる……フヒッ』と声をかけただけで通報される案件。


※2、キャラ情報:他人のステータスや装備までのぞけてしまう。

 設定で見せなくすることも可能だが、自慢のネタ装備を見てほしいがために開放している人も多い。

 課金アバターを使えば実際とは違う装備を見せることができるので、PvPをガチでやっている人の装備を信じてはいけない。

 現実世界で説明すると、偽おっぱいや偽もっこり。


※3、死にボーナス:死ぬと経験値が増えるこのゲームのデスペナルティー。

 オーバーキルされるほど経験値が増える。

 現実世界で説明すると、ドMのご褒美。


※4、メテオ:どこからともなく火に包まれた隕石が落ちてくる火属性の上位魔法。

 火力ジャンキーが使うネタ寄りのスキル。

 初期状態だと詠唱から発動まで20秒くらいかかるので、非常に使いづらい。

 着弾点を指定してから詠唱を始めるタイプなので、敵が動くと悲しいことになる。

 隕石の降り方はランダムなので、狙い通りの場所に使ってもまったく当たらないこともある。

 たまに複数ヒットして超火力になるので、ギャンブル好きにはたまらない。

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