家族探し(森)
「なにしてんの?」
「!?」
すぐ横から声をかけられる。
いつの間にやってきたのか。
小学生くらいの女の子が、不審そうな目でこっちを見ていた。
「えっと、服が引っかかってしまって……」
「そんなヒラヒラした服着て森に入るからでしょ」
「……」
好きで着てるわけじゃないんだけど……。
「ほら」
「助かります」
女の子に助けてもらい、草むらから脱出する。
「あぁ……」
ナビ子さんが悲しそうな声を出す。
がんばってくれていたみたいだけど、大きさ的に仕方ない。
「ありがとうございました」
「別にいいけど。こんなところで何してたの?」
「家族のみなさんを探しています。えっと……娘さんですよね?」
「誰かに頼まれたの?」
「はい、お父さんに」
「あれか……」
うんざりといった口調で、女の子がぼやく。
「誰どう集まってるの?」
「両親と、おばあさんです」
「なるほどね……兄なら、狭いところにいるわ」
「狭いところ……?」
一口に『狭いところ』と言っても、ここは森の中。
探せばいくらでもありそうな気がする。
「まあ、そこらの穴にでも突っ込んでるでしょ」
「探してみます」
「あんただけじゃ心配だわ」
そう言って、先に歩き出す。
手伝ってくれるらしい。
「ちょっと、あんまりもたもたしないでよ?」
「ご、ごめんなさい」
すぐに追いかける。
森での動きに慣れているのか、ひょいひょいと進んでいく。
見失わないようにするだけでも精一杯。
もう少し動きやすい服だったら、追いかけやすいんだけど。
「?」
ふと横を見ると、白いかたまりが草むらに転がっていた。
もぞもぞと動いているので、生き物のようだ。
もしゃもしゃ。
チラッと見えた口で、草を食べていた。
毛玉のような体。
くりっとした瞳。
長い耳。
まさに、白いウサギの姿。
「……」
このゲームで、白いウサギといったら……。
『!』
白いウサギが、こちらの存在に気づく。
むくり。
どこにしまってあるのか不思議な長い手足を使い、おもむろに立ち上がる。
やっぱり『雪ウサギ』だった。
このマップにも、モンスターが……。
「?」
あれ?
モンスターはいないって、書いてあったような……?
ズドドドドド!
一直線に走ってきた。
状況はわからないけど、とにかく迎撃しないと。
「ポチ」
「えっ!?」
弓を構えようとしたところで、女の子が戻ってきた。
その視線の方向には、雪ウサギしかいない。
つまり、この子がポチ?
「あっ」
ガシィ!
気を取られていたすきに、ガッチリとホールドされる。
投げられる!
と、反射的に目を閉じる。
べろーん。
「!」
予想と違った。
大きな舌で、顔をなめてくる。
ぺろぺろ。
「んっ……くすぐったい」
なんとか抜け出そうとするものの、その盛り上がった筋肉はビクともしない。
「おい、ポチ、そこを代われ!」
ナビ子さんが止めに入ろうとするけど、やっぱり歯が立たない。
ぺろぺろぺろぺろ。
「ポチ、お座り」
「もっ!」
女の子の声と同時に、ポチさんがしゃがみ込む。
普通のウサギっぽい姿に戻って、女の子を見上げる。
これって、座ってる姿だったんだ。
「ごめんなさいね。人懐っこい子で」
「ちょっとびっくりしたけど、大丈夫です」
顔がふやけるかと思ったけど。
「おのれ、ポチめ……いや、待てよ? ポチとベロチューすれば、間接的に女児と合法的な性的接触が可能になるのでは……!?」
ガブ。
「あっ」
ポチに向かって飛んでいったナビ子さんが、そのまま食べられる。
「んごー! ふがー! ぬふぅー!」
足だけが見えた状態で、ナビ子さんが暴れる。
最初は大きく動いていた足が、だんだんと小さくなっていき、そして……だらーんとなる。
「ポチ、そんな汚い物を口にしちゃダメでしょ」
「ぺっ!」
べちょ。
よだれでぐちょぐちょになったナビ子さんが、地面に吐き出される。
「だ、大丈夫ですか……?」
「うへへへへ……これが女児エキス。濃厚でコクがあってねっちょりした味わいだぜ」
くねくねと動きながら、笑っている。
よかった。
元気そうだ。
「まったく……好奇心旺盛で困るわ」
「人に懐くのですね」
「おじいちゃんが犬と間違えて拾ってきたのよ」
「……ブフゥ♪」
女の子が頭をなでると、気持ちよさそうに目を細める。
犬かどうかはわからないけど、この状態だと普通のウサギにしか見えない。
「お手」
「ワンッ!」
犬っぽい!
たくましい腕で握手する姿には違和感があるけど、鳴き声は犬と同じ。
あ。
だから『ポチ』なのかな?
「おかわり」
「ワンッ!」
「フロントダブルバイセップス」
ムキィ!
両腕を上げるマッスルポーズを決める。
ちょっと個性的だけど、こうして見るとかわいいかも……?
「あとは、兄と、おじいちゃんね」
「がんばります」
4人(?)で家族探しを再開する。
雪ウサギだけあって、ポチさんの動きは軽快そのもの。
数メートルの段差などものともせず、ひょいひょい森の中を進んでいく。
ナビ子さんは元々飛んでいるし、ボクだけが遅れ気味になる。
「みんな速い……」
ゲームの中だから疲れることはないんだけど、動ける範囲は現実と一緒。
空を飛べる魔法なんかがあれば、取りたいかも。
「……ふぅ」
ちょっと開けた場所に出た。
こういうところでピクニックをしたら、気持ちがよさそう。
スキルポイントに余裕ができたら、料理でも覚えてみようかな。
「……?」
中央の辺りに、何か生えている。
質感からして、木ではななそう。
何かもっと別の物。
今までの流れからいくと、これって……。
「あ、それ兄だわ」
「やっぱり!」
首から上だけが地面に埋まり、エビ反りになった姿。
いったい、お兄さんの身に何が!?
助けようと近づく。
「あいかわらず、狭いところが好きなんだから」
「えっ? 自分からこの状況に……?」
「狭くて暗くてじめじめしたところがあると、すぐ頭を突っ込むのよ」
「……」
頭しか入ってないけど、本人的にはいいのかな……?
すごく疲れそうな体勢をしている。
「ワンッ!」
ポチさんが走り寄っていって、ぺろぺろとおしりをなめる。
「――っ! ――っ!」
何かを土の中で叫びながら、ビクンビクンと体を揺らす。
おしりだけでなく、全体的にぺろぺろなめまくるポチさん。
と、止めるべきかな……?
普段のスキンシップなのかどうか、判断に迷う。
「――っ! ――っ? ――っ!?」
さらに激しくぺろぺろするポチさん。
それに反応するかのように、小刻みに震える。
そして……。
「――っ!!!」
ビクンっと、ひときわ大きく硬直する。
「――」
2、3度同じように硬直した後に、ぐったりと動かなくなった。
「だ、大丈夫なのでしょうか……?」
「いつものことよ。ポチ、お願い」
「ワンッ!」
すぽーん!
その筋肉の力で、一気に引き抜く。
中から出てきたのは、高校生くらいの青年。
年の離れた兄妹だ。
「妹よ、パンツの替えを持っていないか? ポチのぬるんぬるんで大惨事なんだが」
「そこらに葉っぱがあるでしょ」
「なるほど」
葉っぱを摘んで、ズボンの中に押し込む。
「……ふぅ」
「あとは、おじいちゃんね」
「おじいさんは、何か特徴などはありますか?」
「ひたすら自由だから、どこにいるかわからないわね」
がんばって探すしかない。
「おほっ、いい穴!」
ズボッ。
お兄さんが近くの穴に飛び込む。
先ほどと同じ体勢で、地面に刺さる。
首とか痛くないのかな?
「まずは、コイツをなんとかしなきゃね」
「本当に狭いところが好きなのですね」
「ポチ」
「ワンッ!」
すぽーん!
ポチさんに抱えてもらって、みんなのいる場所まで運んでいく。
顔をわきに挟んでいても落ち着いていたので、狭いところならなんでもいいらしい。
マッスルポーズというとフロントダブルバイセップス(両手を上げるやつ)や、サイドチェスト(ちょっと横になって片方の手首をつかむやつ)や、モストマスキュラー(前かがみになってムキィってするやつ)あたりを思い浮かべるのではないでしょうか。
誰もが見たことのあるポーズだと思いますが、文章にすると何がなんだかわかりません。




