家族探し(川)
「さて、と……」
どこから探そう。
左手は、きれいな小川。
右手は、大きな森。
「……」
この川の深さは、どのくらいなんだろう?
歩いて渡れるようなら、さらに探す範囲が広がってしまう。
近くまでいって、中をのぞいてみる。
「ほぁー……」
すっごい透き通ってる。
川底にある石の1つ1つが、はっきりとわかるほど。
深さはそれほどでもないけど、真ん中の辺りは腰くらいまでありそう。
歩いて渡るのは大変かもしれない。
「……?」
その川の上流。
棒らしき物が、2本突き刺さっていた。
木の枝でも引っかかってるのかな?
さらに近づいてみる。
「……」
棒の先端と、その棒がつながっている中央に、それぞれ布らしきモノが巻きついている。
形も丸みを帯びているし、木ではなさそう?
どちらかというと、ひっくり返った人の足のような……。
「!?」
人が逆さまに刺さってる!?
すぐにその場所まで走る。
早く助けないと!
「……っ!」
水面から出ている足を持って、引っ張る。
しっかり埋まっているようで、なかなか抜けない。
早くしないと、死んじゃう!
「わっ」
バシャーン!
引っこ抜いた反動で、お尻から川に倒れる。
「うっひょう! びしょ濡れだぜ!」
「えっ? ナビ子さん?」
「あ、思わず心の声が漏れてしまった。イベント中くらい静かにしてろって言われてるんで、気にしないでください」
「うん……?」
それより、今はこの人を助けないと。
流される前に回収して、川岸まで引き上げる。
「うぅ……」
ピクッと体が動く。
どうやら、間に合ったようだ。
「大丈夫ですか?」
「うーん……」
40歳くらいの坊主頭の男性。
なぜか、下着と靴下だけの姿。
「マークです」
「あ、はい。SENRIです」
お互いに名前を告げる。
家族構成からすると、おじいさん……ではなさそうだし、お兄さん?
見た目より若いのかもしれない。
「お父さんが探していましたよ」
「そうですか」
お父さんがいる場所まで案内する。
「え? 誰?」
「マークです」
お父さんが困惑した表情を見せる。
あれ?
ご家族の方じゃなかった?
「では」
「お、おう……」
マークさんが去っていく。
「え? 今の誰?」
「そこの小川に埋まっていた人です」
「いやいやいや。さすがにうちの家族は、そこまでヤンチャじゃないよ」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
勘違いしてしまった。
家族以外の人も、このマップにいるようだ。
「娘は……私の娘は……」
「探してきます!」
すぐに走り出す。
今度は間違わないようにしないと。
「?」
マークさんが埋まっていた場所の、さらに奥。
川の中に、さっきのマークさんと似たような形の何かが……。
嫌な予感がしたので、急いで駆けつける。
「!?」
やっぱり、人の足だった!
赤いハイヒールを履いているので、今度は女性っぽい。
全力で引き上げて、岸まで運ぶ。
「うーん……」
なんとか間に合った。
ショートカットの髪型をした、30歳くらいのキレイなお姉さん。
探している家族の1人だとすると、奥さんかな?
「君は……?」
「SENRIです」
「私は……ああ、そうか。川の近くを散歩していたら、うっかり足を滑らせてしまってな」
「うっかりですか?」
「そう、うっかり」
「な、なるほど……?」
どういう滑り方をしたら、あんな感じで埋まるんだろう?
特別な水流でも発生しているのかな?
「助けてくれてありがとう。家族のみんなは……どこにいったのかしら?」
「えっと……旦那さんは、口ひげのある男性で合っていますか?」
「ええ、そうよ」
今回は大丈夫だった。
「旦那さんは、あちらの木陰にいますよ」
来た道のほうを示す。
「あの野郎……自分では探さないつもりか」
「ち、違います! ボクがゆっくりしていてくださいと言ったので」
「そう……そういえば、母も川の近くにいたはずだけど」
「ボクが探してきます」
「あら、頼もしいわ」
もしかしたら、同じように危機的状況にあるかもしれない。
すぐに探しにいく。
「川の近く……」
さすがに……ないよね?
川の中に何かないか探すけど、怪しい影はなかった。
ひとまず安心する。
そうなると、普通に散歩をしているだけかも?
草むらの陰などを注意しながら、川のほとりを歩いていく。
「……」
ここから道が広くなっているので、歩きやすくなっている。
散歩をするならこの辺りかな?
穏やかな日差しと、清涼な風。
散歩したくなる気持ちはわかるかも。
「?」
上流から、何か流れてくる。
かなり大きい。
プカプカ浮かびながら、ゆったりと近づいてくる。
なんだろう?
流木にしてはカラフルだし、見た感じもやわらかそう。
まるで、服を着た人が流れているかのような……。
「!?」
胸の上に手を組んだ状態で流れるおばあさんの姿。
また人だった!
川の中に入り、急いで引き上げる。
「くそぅ……全身びちょびちょなのに、なんで透けないんだ……」
「……?」
「あ、お気になさらず」
ナビ子さんがブツブツつぶやいているけど、助言するつもりではないらしい。
イベント中は、見守る方針なのかな?
「大丈夫ですか……?」
おばあさんに声をかける。
「……おや?」
ぱちりと目を開く。
よかった。
意識はあるようだ。
「もう、昼飯の時間かえ?」
「それは……ちょっとわかりません」
言葉もはっきりしているし、元気そう。
「なんか濡れとるんだが」
「川を流れていましたから」
「なにゆえ?」
「ボクが聞きたいです……」
いきなり人が流れてくるから、びっくりした。
グラフィックがキレイなせいで、リアルな光景だし。
「はて? ちょうどいい木があったんで、その木の上で昼寝をしとったはずだが」
「それが原因ですよ!」
そんなところで寝たら危ない。
お昼寝するにしても、もう少し場所を選んだほうがいいと思う。
「あちらでみなさん待っていますから」
「そうか、飯の時間か」
「おなかがすいているのですか?」
「そうでもないぞ? 腹ん中タップンタップンしとるし」
「大丈夫ですか? 気持ち悪かったら、吐いちゃってくださいね?」
流されている間に、水を飲んでしまったようだ。
意識はしっかりしてるので、大丈夫だとは思うけど。
「そーいや、孫とポチは森へ行ったはずだが、飯食うなら探してこんとな」
「ボクが探してきます」
「おお、そうかえ。いつもすまんの」
「任せてください」
一旦戻って、おばあさんを夫婦に預ける。
森となると……この奥だよね。
人の手が入っていない、自然な姿。
草木が伸び放題。
「……」
どこから踏み込むべきか、迷ってしまう。
家の近くの山より、もっさりしているかもしれない。
「よし」
なるべく草の少なそうな場所を探して、中へと入っていく。
サッ、サッ。
見習いロッドで草木をかきわけながら、森の中を進む。
赤と白の水玉模様のキノコ。
花びらの内側にトゲが生えている花。
ファンタジーっぽい植物が、いっぱい生えている。
道から外れたところも、しっかり作り込んである。
「わっ」
段差に気づかず、足を踏み外す。
「……っと」
なんとか踏みとどまって、転倒はまぬがれるも……。
「あ、あれ……?」
中途半端な体勢でぶら下がる。
服の一部が引っかかってしまった。
取り外そうともがくけど、なかなかうまくいかない。
動くたびにスカートのすそがまくれ、太ももまで見えてしまう。
ガタン!
「み、見え……」
「助けてください! ナビ子さん!」
「お任せあれ! 秘蔵の『数学課題フォルダ(※1)』に、パスワード付きで厳重に保存しますから!」
近くを飛び回る音は聞こえるものの、ここからだと姿が見えない。
「くぅっ! あと少し! がんばれ木の枝!」
「?」
「あと少し! うぉおお! あと少しなのにぃ!」
小さい体で、がんばってくれてる……のかな?
それでも、引っかかった枝は外れない。
りょーちゃんみたいに、短剣も持ち歩くべきだったかも。
「くそぅ……おさわり制限(※2)のせいで、こんな布切れ一枚動かせないとは……」
「ナビ子さん?」
「あまりにも無力! あまりにも無残!」
ナビ子さんの力だけでは、どうにもならないようだ。
自力でどうにかするしかないけど、あんまり動くと服がやぶけそうで怖い。
誰も見ていないのが救いだけど……。
今回の話の恥ずかしい姿をツイッターに上げました。
https://twitter.com/yosagenanamae/status/1133569574228508672
※1、数学課題フォルダ:みんなの夢が詰まった宝箱。
見ただけで興味が失せるようなフォルダ名にすることにより、大切なファイルを他者に見られないようにする効果がある。
家族共有のパソコンを使う時などは必須テクニック。
私は『新しいフォルダ(1)』『新しいフォルダ(2)』『新しいフォルダ~』とダミーを大量に用意する方法で対策している。
※2、おさわり制限:プレイヤーの邪魔にならないよう、ナビ妖精側から触れない設定になっている。
設定すれば他のプレイヤーに対しても有効になるので、見知らぬ変態が近づいていても安心。
主人公は現在ノーガードなので、触りたい放題。
じゅるり。




