森の中の誘惑
「?」
町の出口まで行くと、オレンジ色の光が地面から噴き出していた。
『イベントゾーン(※1)』の文字が見える。
専用マップに飛ばされるのかな?
じっくり調べている時間もないので、そのまま飛び込んでみる。
「……あ、やっぱり」
視界が切り替わって、周りに誰もいなくなる。
時間制限があるので、混雑具合に影響されないための措置なのかも。
これなら、自分のペースで進められそう。
「……?」
道のど真ん中に『宝箱』が落ちていた。
すごく怪しい。
「……」
近くまで寄って、じっと観察する。
鑑定スキルなどは持っていないので、ワナかどうかの判別はできない。
あきらかにワナっぽいんだけど、このまま見過ごすのはもったいないような……。
「うーん……」
しばらく悩んだ末に、開けることを決意する。
序盤のクエストなので、そこまで凶悪な仕掛けはないはず。
『1ゴールド入手しました!』
「……」
ワナじゃないけど!
お金もらえたけど!
1ゴールドのために、ずいぶんと時間を取られてしまった。
遅れた分を取り返さないと。
道に沿って走り出す。
「……?」
やけに視界のいい脇道の奥。
ポーションが1つだけ、ぽつん、と置いてあった。
「……」
怪しい。
これも、時間を奪うためのワナかな?
さっきは引っかかってしまったけど、今回は引っかからないぞ。
無視して先に進もう。
……。
……。
……。
『ポーションを入手しました!』
だって、もったいないし!
わかっていたはずなのに、つい拾いにいってしまった。
クエストの策略に、ばっちりはまっている気がする。
時間はまだあるから、急げば大丈夫……のはず。
「……?」
正面の大きな木。
その20メートルくらいの高さの枝に、何かがぶら下がっていた。
あれは……矢かな?
そこそこの本数が束になっているので、買えばそれなりの値段になりそう。
1ゴールドやポーションと比べたら、ずっと価値は高い。
そろそろ補充もしたかったし、できれば手に入れたい。
でも……。
「……」
チラッと見た限りでは、登れそうな枝や足場はない。
ひもを切って落とすしかないようだ。
弓なら届くけど……当たるかな?
動いていない標的とはいえ、あの細いひもに命中させるのは難しい。
当てるまでの時間を考えると、無視したほうがいいような……。
「……」
弓を構える。
ちょっとチャレンジするくらいなら、いいよね?
何回かやってみてダメだったら、それであきらめよう。
うん。
そうしよう。
ビュン!
1発目を放つも、狙いから30センチほどずれた場所を通過する。
さすがに、1発ゲットは無理だった。
でも、けっこう惜しいところまでいってる。
これならいけるかも……。
ビュン!
「あっ!」
ひもにかすって、小さく揺れる。
あと数ミリだったのに……!
「……」
今度こそ……。
ビュン!
「あー」
ずいぶんと外れてしまった。
もっとしっかり狙わないと……。
ビュン!
「……」
だんだんと、遠くなっているような……?
さっきまでは、うまくいってたのに。
「ふー」
しっかり集中してから、放つ。
ビュン!
よし。
少しは近づいた。
この調子でいけば、そのうち当たるはず。
ビュン!
ぽいーん。
ビュン!
『矢を入手しました!』
「……」
数十本の矢を消費して、数十本の矢を入手した。
ギリギリ収支はプラスだったけど、得をした気がしない。
残り時間は3分を切ってしまったし、どちらかというと損をしている。
「急がないと……」
目的地へ向かって、一直線に走り出す。
ちょっと当たりそうだったからと、欲を出したのが間違いだった。
ちゃんと当てるには、もっともっと練習しないと。
「えいっ」
道にはみ出た大きい木の根っこを、ぴょんと飛び越える。
もう何があっても、無視していこう。
「……」
視界の端に映る宝箱。
気にせず走り続ける。
「……」
小川の中央に何か素材っぽい物。
それも無視する。
「……」
草むらの中に人が倒れている。
もちろん無視。
「……?」
人!?
「だ、大丈夫ですか!?」
あわてて戻り、声をかける。
「うぅ……」
よかった。
意識はあるみたいだ。
「ここは……?」
40歳くらいで、口ひげのあるおじさん。
頭を押さえながら、辺りをキョロキョロする。
「町から出てすぐの場所にある『イベントマップ』内です」
同じ場所にいるってことは、同じくイベント中のプレイヤーかな?
モンスターにやられてしまったんだろうか。
あ、でも、クエスト説明に『モンスターは出ない』って書いてあったはず。
そうなると、何かのワナに引っかかったのかも?
「ああ、思い出した。散歩をしていたら、木の根っこに足を引っかけてしまってな」
「どこか痛いところはありませんか?」
「あー、大丈夫だ」
道はあるとはいえ、舗装されていない自然な環境。
根っこや石がゴロゴロしているので、気をつけないと危ない。
「家族がいるはずなんだが……はてさて」
「ここに来るまでの道では、見かけませんでした」
あるのは、宝箱やアイテムだけだった。
もしかしたら、森の奥のほうにいるのかもしれない。
「まだ遠くには行ってないと思うんだが、どうしたものか」
「ご家族の皆様は、何人いらっしゃいますか?」
「愛しの娘! と、じーさんと、ばーさんと、ママと、息子と、ポチだ」
「大家族ですね」
普段は、父と母とボクの3人で暮らし。
たくさんの家族にあこがれる。
「せめて娘だけでも探してくれないか?」
「はい、任せてください。娘さんの特徴などあれば……」
「かわいい! とにかくかわいい! あと、かわいい」
「そ、そうですか」
年齢とか、服装のことを聞きたかったんだけど……。
この様子だと、小さい子のイメージでいいのかな?
問題としては、どうやってこの広い森の中から探すかだけども……。
「待ってておくれよ! 愛しのマイエンジェルちゃん!」
「あっ」
突然、走り出す。
そして、木の根っこに足を引っかけ、盛大にずっこける。
「だ、大丈夫ですか……?」
ヒールをかけつつ、声をかける。
「う……」
頭を押さえて、起き上がる。
「ここは……?」
ループしてる!
どういう状況で倒れていたのかは、よくわかった。
でも、このままだと話が進まない。
こちらが率先して探したほうがよさそうだ。
「ボクが娘さんたちを探すので、ゆっくりしていてください」
「おお! ありがとう、親切なお嬢さん!」
両手を握ってブンブンしてくる。
腕が外れそう。
この世界の基本あいさつなのかな。
宝箱を見つけて喜んでいたら中身がからっぽの時のなんとも言えない感じ。
興奮します。
※1、イベントゾーン:イベント専用のマップ。
他の人はいないので、自分のペースでゆったりとイベントを進めることができる(時間制限付きの場合もあり)。
現実世界でも完全個室でいろんなイベントを体験できる60分コース1万円~のお店などがある。




