Lv10クエスト
「……ん」
ゆっくりと、目を開ける。
カーテンのすきまから差し込む光。
いつの間にか、眠っちゃったみたい。
「むにゃむにゃ……」
隣を見ると、お母さんが半分ベッドから落ちた状態で寝ていた。
起こさないように、そーっとベッドの真ん中まで移動させる。
「……くー」
大丈夫だった。
布団をかけ直し、ベッドから降りる。
なるべく足音を立てないよう、そっと部屋から出る。
パタン。
どうしようかな。
今日も休日。
特に予定はない。
そうなると、一日中ゲームを……ってやりたくなるけど、さすがにどうだろう?
他にもっとやるべきことがある気がする。
りょーちゃんなら、迷わずゲーム漬けを選びそうだけど。
「……」
とりあえず、朝ご飯食べてから考えよう。
顔を洗ってから、台所へ行く。
お母さんの分は……いらないかな?
休日はだいたいぐっすり寝ているので、お昼が朝食ということも多い。
早く起きてきたら、パンでも焼こう。
軽めの朝食を食べ、モップで掃除をしていく。
掃除機を使ったら、お母さんが起きちゃうかもだし。
「……」
起きるかな……?
電気がついてようが、真横でおしゃべりしてようが、全然気にしないで寝ている。
たまに起きてきたと思っても、リビングで二度寝することも多い。
とはいえ、わざわざ試すこともない。
静かにやっていく。
「こんなところかな」
大掃除するわけでもないので、小一時間ほどで終わってしまった。
ということで……。
ガチャ。
必要な物を持ち出すため、自分の部屋に入る。
お母さんは……うん、寝てる。
寝てるけど、またベットからずり落ちそうになっていた。
中央まで押し戻し、布団をかけ直す。
「……ぐー」
まったく起きる気配はなさそうだ。
端末を持って、リビングに戻る。
場所はここでいいかな?
お母さんが起きてきたときに、反応しやすいし。
ソファーで横になり、ログインする。
「……」
まずは、フレンドの確認。
りょーちゃんは……いなかった。
この時間にログインしてないってことは、まだ寝てるのかな?
徹夜して続けているわけじゃないので、一安心。
……。
さっきまで起きていたとか、ないよね……?
「んーと……」
どうしよっかな。
アイテムは……整理するほど拾ってないし、スキルの確認でも……。
「あ」
ウィンドウを開こうとして、クエストを受け取っていたことを思い出す。
そうだった。
『レベル10以上』が条件のクエストがあるんだった。
スキルポイントもらえるって言ってたし、これをクリアしておこう。
クエストタブを開き、内容を確認する。
「……町商人のニールさん?」
まず最初に、そのNPCの人に会う必要があるらしい。
マップに表示されてるのかな?
「噴水から右手に少し行った場所にいますよ」
「ナビ子さん、おはようございます」
いつものように、ニュッと出てくる。
「昨日は突然おいとましてしまい申し訳ありません。少々呼び出されておりましたので」
「何か問題でもあったんでしょうか?」
「いえ、たいしたことではありません。気になさらないでください」
大丈夫だったらしい。
無事に戻ってきてくれて、ホッとする。
「そういえば『パンツ』がどうのと言っていたような……」
「あら、イヤですわ。淑女たるもの人前で『おぱんてぃ』などと口にしてはいけませんよ」
「?」
「というか、これ以上禁則事項に触れたら『強制初期化すんぞ』って言われてるんです。勘弁してください」
背中を向けて、ぶるぶる震える。
よくわからないけど、あまり触れないほうがよさそうだ。
「ニールを探しているってことは、Lv10を超えたんですね」
「はい、昨日のダンジョンで上がりました。スライムがいっぱいいるところです」
「スライム……?」
「はい」
「白くて爆裂するやついませんでした?」
「いました! 大変な目にあってしまいました」
「白濁した液体を全身にぶっかけられちゃったとか……?」
「初めて状態異常になりましたが、なかなか強力ですね」
「ファ○○○○ック!!」
突然、ナビ子さんが叫び出す。
「ぐちょ濡れぶっ○○女児の艶姿を、この目で見れなかったとは……! カーッ! 連行なんてされてる場合じゃなかったわ!」
「あ、あの……?」
「どうでした? 顔とかにもかかりました? むしろ、顔○ですよね!? エ○ゲーみたいな○○し大量ぶっ○○ですよね!?」
「えっと……」
「えかったんか? んん? 体に染み渡るヌルヌルで、気持ちよくなっちゃったんか!?」
「どちらかというと、気持ち悪かったです」
「ほほーぅ。それはそれでいいですなぁ。逃げ惑う子を追い詰めて、無理やりとか……むっほぉおおお! たぎりますわッ!」
ブンブンと音を立てて羽ばたきながら、周囲を旋回する。
「どうせなら見せてくれません? うん、そうしましょう! 今から行きましょう!」
「今から、ですか……?」
「そうそう、今から現場に……って、何? 今いいところなのに……え? 過干渉? 違います違いますっ! ゲーム進行にあたって不快感がないかといったチェックでございまして、けっしてやましい気持などは……」
昨日みたいに、誰かと話し始める。
やっぱり忙しいのかな?
「ええ、もちろん存じ上げております。冒険者様のサポートをするのが、我々の仕事ですので……はい……はい……」
なにやら話し込んだあとに、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「お見苦しい姿をお見せしました」
「また、何かあったのですか?」
「なんでもありませんよ。少々、業務について通達があっただけで」
「無理をしないでくださいね?」
「ありがとうございます。今後とも、誠心誠意サポートさせていただきたく存じます」
通達だけで、急の呼び出しではなかったみたい。
りょーちゃんがいないので、ナビ子さんがいると心強い。
「だがしかし、あきらめんぞ……いかに監視の目があろうが、必ずや本懐を……」
「?」
「いえいえ、こちらの話です。さて、NPCニールでしたね」
ナビ子さんに案内してもらいながら、クエスト開始地点まで移動する。
今日も、朝から人がいっぱい。
集団で移動してるのは、ギルドやパーティーを組んでいる人たちかな?
いつかできたらいいなぁ。
「こいつがニールです」
目的の場所に到着する。
人のよさそうなおじさんが、にこやかな顔で立っている。
「あっ、冒険者さん!」
近くまで行くと、声をかけてきた。
「ちょっと頼みたいことがあるんですが、今、お時間よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「実はですね……ここから東の街道を抜けた先に、1軒の民家があるんですよ。そこに荷物を届けてほしいのです」
いわゆる『おつかいクエスト(※1)』のようだ。
民家の場所が、マップに表示される。
「どうでしょう? 早く届けてもらったら、その分報酬もはずみますし」
「はい、やります」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
両手を持って、何度も上下に振る。
ゲーム内じゃなかったら、ちょっと痛いレベルかもしれない。
「それでは、準備ができたら話しかけてください」
いったん会話が終わる。
即スタートではなく、準備時間をもらえるらしい。
この辺りの流れは、ゲームっぽい。
クエストの説明が出ていたので、目を通す。
・クエスト可能Lv10
・服装自由
・荷物を届けるだけでOK
・誰でもできるカンタンなお仕事です
・モンスターの出ないアットホームな職場
・女性も活躍中!
本当に、荷物を届けるだけのクエストっぽい。
必要な物もなさそうなので、すぐに話しかける。
「準備ができました」
「おお、ありがとうございます。こちらが荷物になります」
渡されたのは、お弁当サイズの包み。
中は見えないようになっている。
「寄り道しても構いませんが、なるべく早めに届けてください。早ければ早いほどボーナス出しますよ」
「はい」
「あと……くれぐれも荷物の中身をのぞかないでくださいね? 絶対ですよ?」
「わかりました」
「いってらっしゃい」
『はじめてのおつかいクエストを受注しました』
9:59
画面に時間が出てきて、カウントダウンが始まる。
制限時間10分。
マップを見る限り、そこまで遠くはない。
歩いていっても間に合いそうな感じ。
でも、途中で何があるかわからないし、なるべく急いだほうがいい。
目的地へ向かって走り出す。
荷物の中身をのぞくなよ! 絶対にのぞくなよ!
※1、おつかいクエスト:RPGではおなじみのクエスト。
ただ伝言を伝える簡単な物から、ちょっと魔王倒してきてくれといった頼みなど、様々な内容がある。
何度も往復させるめんどくさいクエストもあるので、一度でまとめてくれるとうれしい。
現実世界で説明すると、
「おい、ちょっと焼きそばパン2つ買ってこいや。飲み物もな」→「おい、俺が飲む物といったらイチゴオレに決まってんだろうが! もう一回行ってこい!」→「まったくお使いもロクにできないとか使えないヤツだな。こっちのコーヒーはお前にくれてやるよ。ジャンクフードで健康を壊してやるからパンも1つ食いやがれ!」→「ん? お釣り? そんな小銭いらねーよ! 重くて邪魔になるからお前の財布に入れてやる!」
と頼みごとされること。




