楽しい楽しい宿題
「ごちそうさまでした」
にぎやかな食事も終わって、片付けに入る。
これが終わったら、残りの宿題も片付けちゃおう。
そしたら、心置きなくゲームに没頭できる。
「……」
りょーちゃんみたいなこと考えてしまった。
ほどほどにしておかないと。
「ちーちゃん、お風呂」
「もう入れるよ」
「いっしょに入ろー?」
「あとで背中流してあげるから」
「ひとりじゃさみしい!」
いっしょに入ろーよーと、だだをこねる。
「お母さんといっしょに入るの、イヤなの……?」
「そうじゃないけど……」
「けど?」
「友達から『中学生にもなって母親と入るのは変だ』って言われて」
「そんなことないよ? おかーさんだって、ずーっとおとーさんと入っていたし」
「おじいちゃん?」
「うん、全然変じゃないよ」
「そうかな?」
「そうだよー。だから、いっしょにはーいろ♪」
「待って、まだ洗い物終わってないから……」
「早く早くー」
「……もう、仕方ないなぁ」
洗い物を切り上げて、お風呂場へと向かう。
「はぁー……ごくらくーごくらくー」
湯船に入って、幸せそうな顔をしてる。
今日もお仕事してきたんだし、疲れてるのかもしれない。
「ちーちゃんも早く」
「ちょっと待ってて」
しっかり泡を洗い落としてから、湯船に入る。
今日の入浴剤は、ラベンダーかな?
「ちーちゃん、大きくなった?」
「そ、そうかな……?」
会う人みんなに成長してないって言われるけど、やっぱりちょっとずつ大きくなってるよね?
そうだよね。
成長期だもんね。
「前は、両手で抱きかかえられるくらいだったのに」
「比較が何年も前!」
赤ちゃんのころの話だよ!
誰だって大きくなるよ!
「そのうち抱っこできなくなりそう」
「もうできないよね?」
「そんなことないよ!」
「わっ」
ばしゃばしゃとお湯を飛ばしながら、全身で抱きついてくる。
「んー、ちーちゃん肌すべすべ」
「……くすぐったいよ」
「はぁー、たまらん」
「お母さん」
逃げようとするけど、逃げ回れるほどお風呂は広くない。
すぐに捕まって、好き放題すりすりされる。
「……いつまでやるの?」
「あきるまで!」
結果、2人とものぼせるまで続いた。
「ちーちゃん、暑い……」
リビングのソファーで、ぐたーっとなっている。
「お母さんが長風呂するから」
「だって! ちーちゃん、すべすべなんだもん!」
お母さんだって、すべすべだと思うんだけど。
本人いわく、肌のハリとかプニプニ感が違うらしい。
「お水飲む?」
「飲むー」
「ここに置いとくよ」
さて、宿題の続きをやっつけちゃおう。
「あれ? ちーちゃんどこ行くの?」
「自分の部屋」
「じゃあ、いっしょに行くー」
むくりと起き上がる。
「勉強するだけだよ?」
「なんのお勉強?」
「国語が少しと、英語」
「英語なら得意だよ!」
「えっ? お母さん、英語できるの?」
普段の生活だと、それらしい素振りを見たことがない。
お仕事だと、英語も使ってるのかな?
「この前、職場に英語で電話がかかってきたんだけど、30分くらい世間話してたよ!」
「すごい!」
「ふふーん」
胸を張ってドヤ顔をする。
英語なんかは、文章を見るだけでもさっぱり。
会話なんて、とてもできそうにない。
「英語話せたんだ」
「ううん、話せないよ?」
「えっ?」
「?」
2人で『?』マークを浮かべる。
「会話、していたんだよね……?」
「うん」
「相手の人が英語で」
「うん」
「お母さんが……日本語?」
「うん」
「日本語が通じる人だったのかな……?」
「あとで聞いたら『もしもし』しかわからないって言ってたよ」
「どうやって会話してたの!?」
なんで会話が成立するんだろう?
そもそも、ちゃんと成立してたのかな?
まったく意思疎通もできないまま、30分も電話しないよね?
「身振り手振りで話してたら、どうにかなったよ」
「たぶん通じてないよ!」
電話だと見えてないよ!
「おーいえー! な感じで、けっこー盛り上がったよ?」
「それが不思議なんだけど……」
どうやったら盛り上がるのか、想像もつかない。
なにかしら通じ合う要素があったのかな?
「最終的にはどうなったの?」
「みっちゃんが気づいて、すっごい謝ってたよ。どっかのお偉いさんだったとかで」
「それって、あとで怒られたんじゃ……」
「そのまますんなり取引が決まって、結果オーライだったよ! そのおじさんにも『明るくて元気なお子さんだね』ってほめられたし!」
「完全に誤解されているような……」
言葉は通じなくても、子供っぽい雰囲気って伝わるのかも。
普段電話に出るときも、このテンションだし。
「みっちゃんは納得いかない顔してたけど」
「そうなると思うよ」
心の広い人でよかった。
「そんなわけだから、なんとなく話していれば通じるよ!」
「宿題やテストには通じないよ……」
自力でがんばらないとダメみたい。
部屋に戻って、宿題を再開する。
「……うーん」
英語だらけの文章を見ていると、頭が痛くなりそう。
文法もそうだけど、まずは単語も覚えないといけないし。
「……こうだっけ?」
海外製のゲーム(※1)なんかもプレイするけど、あんまり勉強の役には立ってない。
最低限のサインを覚えるだけじゃなくて、日常会話くらい覚えたほうがよかったかな。
「……あの、お母さん?」
「なぁに?」
「何してるの?」
ボクの後ろに座って、ごそごそしている。
というか、髪の毛を引っ張られている。
「うーん、うまく結べない」
「変なことしないでよ?」
髪を押さえながら振り返る。
「ちーちゃん、もっと髪伸ばそ?」
「ボクとしては、もっと短くしたいんだけど」
「こんなにキレイな髪を切っちゃうなんて、もったいない!」
こんな感じで引き止められるので、なかなか短髪にできない。
スポーツ刈りくらい短くしたほうが、男らしいと思うのに。
「もっと長いほうが似合うと思うんだけどなー」
「これ以上伸ばしたら、女の子みたいになっちゃうよ……」
「髪の毛の長い男の人も、世の中にいっぱいいるよ?」
「それはそうだけど」
「むしろ、そっちのほうが男らしいんじゃないかな?」
「そうなの?」
「お侍さんだって髪が長かったでしょ? 結べるくらいあったほうが、男らしいと思うの」
「なるほど……?」
お相撲さんなんかは、今でも長い髪を結んでいる。
それでもすごくかっこいいし、あこがれる。
戦う男って感じ。
「だから、ちーちゃんもあと少し伸ばしたほうが、かっこよくなれるよ」
「……そうかな?」
「うん、そうだよ!」
そういうことなら、もう少し伸ばしてみてもいいかも……?
男子でも髪の長さに制限はないので、校則違反にはならない。
「はやく伸びないかなー」
「頭なでても伸びないよ」
お話ばかりしてないで、宿題やらないと。
時々やってくる妨害をいなしつつ、問題を解いていく。
「イエスタデイって、どんなつづりだったっけ?」
「どんな意味?」
「日本語だと、昨日」
「へー、そうなんだ」
「……」
助言は期待できないようなので、自力でがんばる。
教科書や辞書を見ながら、問題を解くこと数十分……。
「「できた!」」
どうにか、すべての宿題を終わらせることができた。
解答欄の埋まった用紙を見て、満足げにうなずく。
合ってるかどうかは、それはまた別として。
「ちーちゃんかわいい!」
「……?」
お母さんのほうも、なにかしら完成したようだ。
いじられていた髪を触る。
「……」
なんだか、もさもさしてる。
三つ編みになっている?
やることも終わったし、元に戻して……。
「取っちゃうの? せっかくがんばったのに……」
髪飾りを取ろうとしたら、うるんだ瞳で訴えられた。
ボクとしては、まったく必要のない物なんだけど……。
「寝るまでの間だけだよ?」
「わーい!」
どうせあとは寝るだけなんだし、それまでならいいか。
他の人に見られるわけじゃない。
「ちーちゃん、眠くなってきた……」
「うん、部屋に戻ってベッドで寝ようね?」
「おやすみ……」
「そこボクのベッド!」
もぞもぞと、布団の中にもぐり込んでいく。
「んー」
両手を伸ばして、何かをアピールしてくる。
「ちーちゃんも」
「まだ早いんだけど……」
まだ20時にもなっていない。
時間があるなら、もう少しゲームしたいところ。
「んー」
「……わかったよ」
お母さんは寝つきがいいし、すぐに解放されるはず。
ベッドに腰を下ろし、その手を取って……。
「わっ」
引きずり込まれた。
「うーん、ぷにぷにー」
後ろから抱きつかれて、すりすりされる。
「お母さん、苦しいよ」
「……ぐー」
「もう寝てる!」
がっちりと抱きしめたまま、小さな寝息をたてていた。
「仕方ないなぁ……」
起こすのもかわいそう。
離してくれるまで、このままでいよう。
目をつぶって、身をゆだねる。
……。
……。
……。
「ちーちゃん……もにゅもにゅ……」
「……」
ちょっと眠くなってきたかも。
このまま横になっていたら、一緒に寝ちゃいそう。
せめて、りょーちゃんにメッセージ入れたいんだけど……。
「……ぺろ」
「ぴゃぁ!」
耳をなめられた。
「……かぷ」
「っ!」
変なコトしないでー!
トランスジェンダーに理解を示している学校なので、校則はゆるゆるです。
そういう設定にでもしておかないと、主人公が坊主になっちゃいます。
※1、海外製のゲーム:銃でバンバンしたり、弓矢でプスプスしたり、ナイフでザクザクしたり、マグロでペチペチするゲーム。
りょーちゃんが対人好きなので、主にそういったゲームを一緒にやっている。
言葉がわからなくても「フ〇ック! ファ〇ク! ファッ〇!」と連呼しておけば、だいたいの場面で通じる。
他にもいろんな悪い言葉を覚えることができるので、現実世界の銃撃戦などで役に立つことも。




